後日談終章:エンデヴァーの恋

後日談終章:エンデヴァーの恋

前スレ72です ひとまずデクくんのお誕生日に一区切りしました


***



「事務所には知られちゃいましたね」

「気にするな。あの三人なら口外はすまい。…バーニンはああ見えて細かい気遣いをする。冷に話す前に冬美に相談しろと助言をくれた」

「ありがたいですね‥‥あの…奥さんと冬美さん大丈夫でしょうか…夏雄さん……だいぶ辛辣で…」

「冬美は驚くだろうが…冷は俺が完全に離れたと思えばむしろ安心するかもしれん。夏雄は当然の反応だ。父親が弟の同級生の男子と交際するというのは受け入れ難いだろう」

「…そういう言い方するとそうなりますね」

「今更だ。…何度も断ったろう!」

「そうでした…僕は自分のことばっかりでした…ご家族の皆が轟くんのように応援してくれるはずもなかったのに」

「家族からの責めは当然と思っている…心苦しくないといえば嘘になるが、もともと見下げ果てられた父親だ。失うものなどないからな。…それに君だって試練を経た」

「僕の場合は…あなたが一緒に越えてくれたから。あとは母が言ってくれたように僕自身が幸せになれればそれで。それはもう…今十分に叶っているので…‥‥ちょっ……エンデヴァー……こっ……うあ…頭…頭そんなに撫でないでください…」

「君こそさっきから俺の胸を撫でまわしてるだろうが」



「しかし焦凍がああも俺に向かってくるのは久しぶりだった」

「轟くんは僕の大切な友達なんで…。轟くんもそう思ってくれててうれしいです」


「雄英の体育祭を思い出すな…」

「あなたのこととっても怖いと思ってました」

「震えながら俺に向かってくる…度胸があるんだか臆病なのか分からん奴だと思ったが、なぜか良く覚えていた。…今ならわかる。そういった勇気が…俺にはなかった。俺は向き合うべきものからずっと逃げていた…」

「エンデヴァー…」

「…『過去は消えない』からこそ足掻く俺を見てる…と言ってくれたな」

「変わらず見てますよ。今だってこれからだってきっと一番近くで…わわっくすぐったい、くすぐったいですよ!」



「………腕は… もう触れても痛くはないか」

「は…はい」

「すまなかった…火傷など二度とさせん」

「わわ…指にキスて…なんか…かっこいい…」

「かっこいい?何を言ってる?…」

「素でやってるんですね…ほんとにもう」

「右手…だいぶ傷跡があるな…関節も変形してる」

「はいそれは…僕自身が及ばないせいで…」

「まだ若いのに…多くを守った手なのだな…」

「いや…そんな…あなたほどはとても」

「…君は…あの最悪のとき…焦凍の叫びですら動けなかった俺を後押してくれたな…」

「僕って遠慮なく人の心に立ち入ってしまうものだから…もちろん人によっては断固拒絶もされるし……それがたまたまあなたには届いたのかも…って…さっきからあなたの言葉…こっ…告白みたいで」

「事実を言ってるだけだ」

「そういうのズルい!」


「…君とのことも…俺が軽率なばかりにこんなことになってしまったが……今とても不思議な心持ちだ」

「エンデヴァー?」

「なぜだろうか…あれだけ醜態をさらしたからかもしれんが…なぜか君の前では俺は妙に口数が多くなる…不思議だ。…なぜだ…なぜなんだ…?」

「あの…目ぢからというかあなたの眼力の圧がつよくて…僕なんだか叫び出したいくらいドキドキするんですが…あの…凄い綺麗な瞳でその…まっすぐに見てくるからその…僕は…さっきからギュンギュンして…」

「うん?」

「多分とんでもない顔をしています」

「そうだな傑作なツラだ」

「恥ずかしいです…もう…あ…笑って…る?」

「なんだ俺も笑うくらいする」

「エンデヴァーが…笑ってる」

「…何を泣くことがある」

「だって…エンデヴァー…が…」

「疲れが出てるのか。…今日はこのまま休むか?」

「いいえ!お願いします!」

「…仕方ないな」




***




「デク。今回わかったことが大きく二つある」

「は…はい?」

「一つは体の動かし方の癖だ…何点かある。同じ系統の動きで毎回行っていたからおそらくは無意識に刷り込まれている」

「えと…具体的には」

「例えば斜めのねじれだ。体の最適範囲をおそらく超えている。オールマイトの技…とくにスマッシュ系だろうが、それらのイメージが脳裏に焼き付いているんだろう。実戦では個性でまとめて凌いでいるが、負荷が生じている。長くヒーローを続けるなら調整をしたほうがいい」

「ねじれ…」

「収束すれば問題ない範囲のものではある。オールマイトに何か言われなかったか」

「もうちょっと肩の力抜いて〜とは言われました」

「そのほかは?」

「『ドーン!』じゃなくて『タン!』って感じ!とかも言われました」

「そうだろうな」

「分かるんですか凄い。僕たまに???てなって…」

「体軸と体のバランスの問題だ。コツがわかれば大したことはない。とにかく負荷は極力減らせ。今は若く気合でなんとかカバーしていても蓄積すればいつか破綻する」

「はい」

「せっかくだから明朝少し調整しよう」

「うれしい!ありがとうございます」

「二時間早く起きられるか。4時だ」

「大丈夫です。よろしくお願いします!」


「で…あの、もう一つは」

「それは別段言わずともいいことだった。忘れろ」

「気になります」

「君というより俺自身の問題だ」

「ますます余計気になって眠れません」

「…俺は君に触れられるのが…どうやら嫌ではない」

「それは分かってましたけど…」

「…体ではなくて…心の問題だ」

「え…」

「明日は早い。もう寝るぞ」

「ぎゅってしててもいいですか」

「好きにしろ」

「おやすみなさい」

「おやすみ」



***



「このくらいにしておくか。時間だ」

「ありがとうございました。」

「相変わらず飲み込みが速い。…応用力、適応力は大したものだ。とくに観察力は突出している。攻撃スタイルは実戦で磨かれているが、勢いに任せて無駄な動きも多い。連打のときに威力が落ちる傾向がある。そこは調整しておくといい」

「ありがとうございます。参考になります!」

「あと、若いわりに関節が少し硬い。もっと丁寧に柔軟をしておけ」

「ハイ…エンデヴァーが柔らかくてびっくりしました」

「俺は50だぞ。一日でもサボるとすぐに硬くなる」

「肝に命じます…」

「あと…もう少し自分の体を労われ」

「はい」



***



「朝食はしっかり取れ。とはいえ惣菜は今日は作り置きのものしかないが」

「和食久しぶりです。そもそも作り置きがあるあたりでもう感激です。料理もできるなんて」

「米を炊いて食材を並べただけだ。料理のうちに入らんだろ…そう発酵食品は必ず摂ったほうがいい。葛餅もそうだが…この糠漬けは冬美が……しまった冬美!」

「もしかして着信ありましたか」

「忘れていた…」

「お父さんおはよう!」

「電話ありがとう。気が付いて折り返したんだけど夕べも今朝も出ないからさ、心配で来ちゃった!変わりない?」

「冬美さん…」

「えっ…緑谷…くん?」

「冬美。今日にでも話にいこうかと思っていた。…実はデク…緑谷くんと交際することになった」

「え…ええええー!!!交際って…お付き合いってこと?」

「ふ、冬美さん!!ごめんなさい…これ僕が…僕がエンデヴァー好きになっちゃって一方的に押しかけたんです!エンデヴァーはそれを受け止めてくれただけなんです!!」

「決めたのは俺だ」

「お父さん・・」

「年甲斐もなくてすまない。理解してもらえないかもしれないが…」

「あ、いや、えっとね。びっくりしただけ!ほら!…お母さんとも別れたしさ…お父さんの自由なんだ…けど…でも相談とかしてほしかったなーって…やっぱり娘としては…ふ…複雑…かなっ??!」

「…冬美」

「ごめん、ちょっとなんかショックで、うまく話せなくってごめんね!ごめん私もう学校いかなくちゃ」

「冬美さん!」

「今夜にでもそちらの家にいって冷にも話す」

「ええっお母さんに?」

「言うべきだろう」

「いい…けど…お母さん大丈夫かな…私も同席するね」





***



「オールマイトさん、わざわざ時間をつくってくださってありがとうございます」

「ホークス…こちらこそ一昨日は夜分に失礼したね。緑谷少年とエンデヴァーのことだよね。話って?」

「エンデヴァーさんですが、今おかしくなってるだけで、おそらくすぐに目が覚めると思うんですよ」

「目が覚める…」

「異常状態に気づくってことです。あの人恋愛に関しては適応力からっきしなんで…今まで浮いた噂がなかったのもわかります。全くダメダメなんですよいい歳して…」

「あの…ホークス…それ私も」

「え?」

「…私もないよたぶんその恋愛適正」

「ま…マジすか…」

「私ヒーローだからさ、特定の誰かを選ぶわけにはいかないじゃない?」

「平和の象徴…半端ないッスね…」

「とりあえずエンデヴァーさんが我にかえったら遅かれ早かれ緑谷くんにはかわいそうなことになります…なら早く、傷が浅いうちがいいでしょう。協力していただけますね?」

「いいけど、私が口を出してどうなるものでも…」

「俺も心配なんすよ。…緑谷くんの手の怪我、あれ…火傷です」

「なんだって?」




***




***



「お父さんの説明…ほんとにそれで全部なの」

「急な話ですまん」

「…緑谷くんて焦凍と同い年だったよね」

「はい」

「うーん…」

「緑谷くん…あの…どうして…どうして父なんですか」

「エンデヴァー…僕ははじめこそ怖かったけど、本当に魅力的な人です。心から尊敬しています!」

「その気持ちはありがたいけど、お付き合いって…そういう…いや、今時ね、男同士だからダメとかいう偏見はないのよ。でも私にとっては…父だから」

「最初、男の人として好きになってしまって僕はとても混乱しました。でも時間をかけて思い直してみて、やっぱり好きだって気づいたんです。急な話ではないです。これに4年かかりました。轟くんの話だと誤解があるようなので言っておきますが、高校の時はあの、エンデヴァーが僕に何かひどいことをしたわけではなくて、むしろ父が恋しいと泣く僕を慰めてくれただけなんです。具体的には泣いてる僕を抱きしめてくれただけなんです。それなのに僕が勝手に恋心をもってしまって…」

「緑谷…出久くん‥‥よね」

「はい、どうも、緑谷です。轟くんのお母さん…ですよね。改めまして初めまして」

「あなたは焦凍のお手紙によく出て来るから、初めて会った気がしないわ。クラスのお友達のことと一緒に焦凍がいつも楽しそうにあなたのことを書いているし、大切なお友達だから私達もあなたを応援したいとも思っているの」

「あ…ありがとうございます!」

「年齢や性別のことはもういいわ。あなたの気持ちもわかった。でも若くて才能のあるあなたにはもっと素晴らしい人がいるんじゃないかしら?こんなしょうもないオジサンじゃなくて…そこのところ本気で心配してるのよ」

「冷…その件は俺も話したんだが」

「あなたは黙ってて」

「………」

「緑谷出久くん‥焦凍を…変えてくれたのはあなたよね」

「えっ」

「焦凍のお友達になってくれて本当にありがとう。そして炎司さん。あなたの顔見て色々分かったわ」

「色々?…そうなのか」

「緑谷くんと…焦凍を悲しませるようなことはしないであげてちょうだいね」

「認めてくれる…のか」

「ええ」

「お母さん……お母さんがそういうなら私も」

「冷。冬美。感謝する」

「ありがとうございます!!本当になんか僕…勝手なことをしてしまって…」

「そうと決まったら今度また一緒に皆でご飯食べましょう!?ね??」

「はい!」



***



「おい!高校生に手を出すって…何やってんだよ!!!」

「来てくれたのか夏雄」

「夏雄さん、あの、僕こう見えてもう二十歳です、二十歳!」

「そうじゃなくって…4年前ってうちに来た頃だろう?まだ子供だったじゃないか」

「ああ。…俺が軽率だったんだ。だから今こうして償っている」

「え…」

「親父…」

「これ…『償い』…なんですか…」

「デク…?」

「好きで…お付き合いできてるって…僕だけ浮かれてたみたいで…」

「デク?」

「… すみません…ちょっと失礼します…」

「何やってんだよ!固まってんじゃねえ追えよ!追えよ親父!!!」

「し、しかし…」

「俺んことはいいよ!ここは何を差し置いても追うんだよ!恋人なんだろ!」

「それは…ああ」

「あと、ちゃんと好きだって言え!」

「夏雄…」

「顔に書いてあるんだよ…鏡見てる場合じゃねえ早くいけ!」




「緑谷!」

「轟くん…!オールマイトまで」

「姉ちゃんから聞いて来た。どうした?もう帰るのか?」

「轟くん…オールマイト…僕…」

「緑谷少年…?」

「エンデヴァーのお付き合いは僕への償いで…好きとかじゃなかったみたいで…そんなことわかってたつもりなんですけど…ハッキリ言われたら急にすごく悲しくなってしまって…ごめん。オールマイトの顔見たらなんか本当…ごめん…なさい…っ」

「緑谷少年…」

「緑谷…」



「焦凍、ちょうどよかった!デクは大丈夫か」

「親父!」

「オールマイト…!貴様なぜここに…そこをどいてくれ」

「どくわけにはいかないんだよ、エンデヴァー」

「オールマイト?」

「君…緑谷少年を泣かせたね」

「デク…?!泣いてるのか!?」


「エンデヴァー…私ね、緑谷少年の怪我が火傷だって知って、いてもたってもいられなくなったよ」

「それは…」

「君の実力も人間性も知ったつもりでいた。でも君は緑谷少年を傷つけないと泣かさないといったそばからこれだ。たった2日だろう?どういうつもりなんだ」

「オールマイト!それは違って…怪我は僕が勝手に。今日のことだってエンデヴァー、違うって言ってください。そんなことないって!」

「……否定…できない。俺は…昨日もデクを泣かせた…」

「エンデヴァー!」

「もう黙れ親父。緑谷はあんたにはやらねえ!」

「エンデヴァー。すまないがもう君に任せるわけにはいかない。大怪我を負わせてからでは遅いんだよ」 

「待って、違うと言ってくださいエンデヴァー」

「…… オールマイト…確かに俺は…貴様の言う通りだ」 

「エンデヴァー…そんな…」

「…帰ろう緑谷少年」




***



「え!なんですごすご戻ってきた!?馬鹿じゃねえの??」

「デクを…泣かせてしまった。俺にはやはり無理だったのかもしれない」

「…あんた…いつもいっつもそうだよ!変わったようでちっとも変わってねえ。もっとちゃんと相手の気持ちを考えろよ!その前に自分の気持ちをちゃんと見ろよ!償いなんてそれはあんたの都合だろ?まず謝れよ!」

「謝るとは許しを期待することだ」

「期待しろよ!いいのかよこのままで!?追って縋って駄目もとでいいからいい訳しろよ!許さなくてもいいなんてあんたが決めるな!」

「夏雄…」

「俺たちにはなんだかんだ謝っただろう?なんでそれができないんだよ!」

「…デクは昨夜も泣いてたんだ。だが俺にはその理由もよく分からなかった。オールマイトにも言われた。…俺は結局デクを傷つけてばかりだ。…今俺が引けば…こんな俺よりふさわしい相手が…と考えてしまった」

「あんたよりマシな人間なんて掃いて捨てるほどいるだろ!それでもそんなクソなあんたを選んだんだろ!その気持ちはどうでもいいっていうのか!?」

「デクは…俺を好きだと言った…だが俺は何ひとつ応えてやれてない」

「やっぱりな」

「ダメねえ」

「お父さん、諦めるの?この流れだとお父さんが諦めたらこのままさよならになっちゃうよ?」

「冬美…」

「今朝なんてこっちが引くくらいラブラブだったじゃない?!夕べだって今朝まで電話の着信にも気づかないくらい緑谷くんに夢中だったんでしょ?」

「冬っ…おまえ」

「ダメなのよこの人。昔から肝心なところでダメなの!」

「冷」

「こんなところまで連れてくるくらいお付き合いしていきたい相手なんでしょう?!しっかりしてください」

「………」




***




「…思い出すなあ。4年前のあの日。君をエンデヴァーから引き剥がして帰る時も君さあ、泣いてたよね。エンデヴァーが好きだって…」

「………」

「…すぐ忘れると思ったんだけどね」



「オールマイト。お疲れ様です。…辛かったね緑谷くん」

「ホークス…」

「緑谷くん。君にいい話があるよ。次の勤務先がA国に内定した。ヒーローの本場だし、もちろんキャリアアップにもなる。今度こそ…忘れられるんじゃないかな。その方がお互いのためのような気がする」

「…エンデヴァーにとっては僕は何だったのでしょうか」

「もちろん君を嫌いなわけじゃないだろうけど『好き』にはあと一歩足りなかったのかもしれないね。エンデヴァーさんがエンデヴァーさんである限りいつかこんな日が来るような気はしてたけど」

「…A国…ですか…オールマイトと同じだ」

「良い経験になるよきっと」




***




「『行くな』『好きだ』これだけだろ?」

「そうなんだが…」

「そんな簡単なことがどうして言えなかったの?お父さん」

「正直、『好き』が良く分からん…」

「…わたしあなたのそういうところ愛したいと思ってたけど、結局そこが無理だったのよね…」

「れ…冷…」

「唯一、かけてくれた言葉が『情はある』だったわ」

「お父さ~ん…」

「さすがに待て、おまえたちをいつだって今だって大切に思っている!それは本当だ。だが恋の意味の『好き』というのが良くわからんのだ…」

「ナンバーワンヒーローが聞いて呆れる…」

「ヒーローは関係ないだろ!ここで!」

「今時小学校、いや、幼稚園でも好きだのなんだの言ってるよ…」

「幼児以下か…」

「とどろきえんじくんにはすきなおともだちはいなかったのかな」

「やめろ」

「よかったな緑谷くん、こんな終わってるイカレ野郎と切れて」

「夏!」


「ねえお父さん…このままもう緑谷くんに会えなくなってもいいの?」

「それは…嫌だ…だが」

「『だが』禁止」

「また会えたら嬉しいよね」

「それは…うれしい」

「他の誰かと緑谷くんが仲良くしてるのはどう思う?」

「許せん…と思う」

「どうして緑谷くんは泣いたんだろうね」

「俺が…悲しませるようなことを…いや…俺のことが…好きだから…か」

「30点」

「緑谷くんのこと守りたいよね」

「それはヒーローだからな。他の誰とも変わらん」

「マイナス10000点」

「ほんとにあんたってさあ…」

「…俺は…好きだのなんだのを言える立場ではないしその資格もないと思っている…。ただデクには幸せになってほしい。俺にそれができるかがさっぱり分からん。ともかくあいつが側にいないことにはどうにもならん」

「そこそこ言えたじゃん」

「今からでも電話したら?」

「いや、もう遅い。今朝も早かったから寝てるだろう。明日の朝にする」





***





『はい!あ…』

『クッソデク!!!なんだあのふざけたメッセージはよお!』

『かっちゃん…』

『あのオッサンと付き合うって決めたの後にもう別れたってどういうことだよ!昨日の今日て早すぎんだろ何があった』

『ない…何も…』

『ああ?』

『あれから…電話も…メッセージも…ないんだ…僕もうダメだあ…』

『今から行くから待ってろ』

『えっ…かっちゃん帰国してたの?』

『てめえを殴りに帰ってきたんだよ!』

『今ちょうどうちに轟くんもいるんだ!ぜひ来てよ待ってる!』




「かっちゃん…来てくれてありがとう」

「ちょうど行き詰ってた」

「そうなのかよ…ってトランプ二人でババ抜きしてたんかよ!そりゃあ行き詰るわ!」

「いやゲームとかその辺船便で送っちゃったからさあ」

「ヒーロー名しりとりもしてた」

「ヒーロー名しりとり…」




「でも久しぶりだよかっちゃん…卒業式からだから2年かあ」

「図体ばかり大きくなりやがって…泣き虫なのは変わんねえなクソナード…」

「緑谷…親父はあとで必ず俺がボコるから」

「ええっそんなことしなくていいよ」

「面白そうじゃねえか!俺もノるぜェ」

「かっちゃんやめて。でもかっちゃんも…轟くんも…ほんと…ありがとう」




***



「エンデヴァー…」

「デク。早朝から済まない。話がある」

「僕もお話があります…お付き合いについて」

「俺も同じ話題だ」


「もう…さよなら…したほうがいいですよね。あなたの責任も義務もなくなる。世間体だって保てるし、ご家族とも仲良くなるかもしれない」

「………本気で言ってるのか」

「はい」

「あなたも同じ話でしょう?」 

「…それは………そう…だ………俺は君に幸せになってほしい」

「僕の幸せはあなたと一緒にいられることでした」

「デク…!俺は…」

「もういいです」

「………」

「僕A国に行くことにしました。次の勤務地に決まって」

「なん…だと?!」

「ちょうど荷物も服もまだほとんどスーツケースに入ったままだし…そのまま行きます」

「行くな」

「え…」

「行くな…っ」

「エンデヴァー?」

「俺を…見ていてくれるんじゃなかったのか」

「だって…あなたは…」


「そこまでだぜ!おっさん」

「親父!見苦しいぞ!」


「エンデヴァー…そんな顔しないでください」

「デク…」

「だってようやく…ようやく僕…」

「………………分かった」



***



「もう会えないかと思ってたんで…最後に話せてよかったです」

「最後…なんだな」

「…そうなりますね」

「…今この瞬間までは付き合ってる、ということになるのか?」

「…そうですね」

「抱擁してもいいか」

「ハグなら」


「おいこらダメに決まって…」

「親父!」


「エ…んっ…んん」

「別れ際には…するものなんだろう」

「…いまになって…そんな…は…離してください」

「嫌だ…」

「エン…」

「好きだ」

「………ずるい…いまそんなこと言われたら…僕」

「ようやく…腑に落ちた…これが『好き』ということなんだな…」

「エンデヴァー…!」

「一か月待ってくれ。俺もA国に行く」

「ええっ」


「おいおい…!」

「親父…!?」

「事務所、自宅その他諸々手続き交渉を考えて一か月はかかってしまうが」

「エンデヴァー……ほんとに?」



「はいは〜いそこまで!…エンデヴァーさん!あなたがそんなにまでなるなんてもー想定外でしたよ…」

「ホークス…!」

「A国にエンデヴァーなんてパワーバランスどころの話じゃなくなる。日本が終わってしまう。ダメですよ」

「貴様の指図はうけん」

「指図じゃないです。ごくまっとうで冷静な指摘です」

「ホークス…」

「…あーもう。…別に今生の別れじゃないんですし普通に休暇とって会いにいったらいいじゃないですか…」

「そうか…」


「んだよ別れるんじゃなかったのかよ…つーかいつまでくっついてんだよ‥‥」

「親父…緑谷…」



***




「デク…昨日はすまなかった。言葉を間違えて君を泣かせたうえに訂正も出来ずに帰らせてしまった」

「いいですよ。あなたのおっぱいに免じて許します」

「なんだと」

「あなたはどうしょうもなくてもおっぱいに罪はないから」

「………」

「あなたから抱きしめてもらったらなんか原点を思い出しました」

「そうか……良かったと言っていいのか俺は」

「もちろんおっぱいだけじゃないですよ。『好きだ』て言ってくれてすごく嬉しかったです。鼓動が早くて…頑張って言ってくれたの伝わりました。…嬉しい」

「君が嬉しいなら…よかった。俺は君を泣かせてばかりだからな」 

「僕だってあなたのこと泣かせちゃうじゃないですか…」 

「デク…」

「今日の夜はまだ日本にいます」

「…仕事が終わったら連絡する」





「…今日くらい休めばいいのによ…」

「親父は仕事第一だからな」

「せっかくかっちゃんも帰って来てるしこれから皆で雄英行こうよ!オールマイトにも相澤先生にも改めて報告したいし。…夜までなんだけど」

「…やっぱあのオッサンぶっ飛ばしてえ」

「そうだな」

「轟くん?かっちゃん!?」

「フン…貴様らごとき返り討ちにしてくれる」

「わあエンデヴァーまだいた」

「これを」

「うちの鍵か…」

「鍛錬場自由に使っていいぞ」



「あの…エンデヴァーまた…夜に!」

「…ああ」




***



「疲れてるのにがっついちゃってごめんなさい」

「…いや、構わん。俺もそのつもりでいた。だが途中から何も考えられなくなってしまった」

「僕が『好き』っていうたび中がすごくギュっとなって声も高くなっていってたまりませんでした」

「…あまり言わないでくれ」

「あなたのアドバイス通り制御したら腰が動かしやすくなってあなたの反応もとても…」

「そんなつもりで指導したわけではないが応用できてるならよしとしなくてはな」

「あとでまた復習させてください」

「……」



「皮肉なものだ…君の手を離したくないと思って初めて感情を自覚をするなど…」

「でも案外そういうものなのかもしれないです。大切なものはいつも当たり前のようにあると思ってしまうから」

「俺はやはり嫉妬深いと今回痛感した。ヒーローとしての君には敬意すら持っているなのに他の人間が君に近づくだけで酷く苦々しい気持ちにもなる。オールマイトは元から業腹な奴だったが俺はこともあろうにホークスにまで腹を立ててしまった。くだらない一時の感情で我を忘れる…こんな感情も恋なのか?」


「そんな綺麗な瞳で僕に訊かないでくださいっ…僕もそんなに経験がないから分からないけど…ものすごく甘くて幸せだと思ったら次の瞬間にはひどく辛くて苦しくなることもあります」

「矛盾の極致だな。かつての俺が自分に色恋を許さなかった訳がわかった。そんな精神状態では戦えんからだ。戦えても判断を誤れば死ぬ」

「確かに凄く辛くて苦しいところはあります。でも心が生きてるって思います。誰かを助けられたときにも似た充実感があって…。あと僕今すごくすごくすごく幸せです」

「俺もそうだといいたいところだが、君がもうじき居なくなると思うとどうしようもなく心が苦しくなる…」

「僕だって許されるならここでずっとこうしていたい…なんて思っちゃいます。ヒーローなのになあ」

「俺も似たような気持ちだ…デク。…状況的にももうヒーロー名呼びはおかしいか」

「じゃあ…下の名前で…」

「出久…」

「炎司…さん」

「わあ!いきなりなんかとっても恋人っぽい!!!」

「さすがになかなか気恥ずかしいぞこれは」

「同衾するときだけにしよう」

「…今はいいんですね炎司さん」

「ああ」

「好きです炎司さん…好き…」

「俺もだ…出久」


「うわー…うれしい!でも恥ずかしい…」

「そうだな…」



***




「出発はいつだ」

「明後日の朝の便です」

「本当に急だな」

「…明日は母のところに」

「そうか。じゃあこれでしばらくは見納めだな」

「名残惜しいですが、はい」

「何時の飛行機だ?見送る」

「仕事があると思いますので無理しないでください」

「なんとかする」


***



「…やっぱり無理だったかな。平日の午前中なんて。…もう搭乗しないとだ。…またしばらく日本ともお別れかあ」



「おい!窓の外!エンデヴァーだ!」

「なんだヴィランでも出たのか?」

「片手になんか凶暴そうな奴かかえてるぞ!ヴィラン退治のついでなのか」


「ええっ…エンデヴァー?!?!飛んでる……ヴィランて…かっちゃん!?わー…早速返り討ちにあったのかな」

「エンデヴァー何か言ってる…」

「      」

「もう。また僕…泣いちゃうじゃないですか」








ひとまず終わり

って‥‥ハッピーエンドにしたかったんだけど…続きました

https://telegra.ph/%E3%83%92%E3%83%BC%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%87%E3%82%AF%E3%81%AE%E6%81%8B%E4%BA%BA-07-22

Report Page