後日談「さらば!?パンデモニウムの鉄砲玉」
Index: 「危うしMTR部!~万魔殿狂騒曲~」
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~さらば!?パンデモニウムの鉄砲玉・1~
「その……本当によろしかったのでしょうか、マコト様。
MTR部である私を、再び万魔殿本部の守備隊として近衛に任命するだなんて……」
「キキッ、偉くなったものだな? お前如きがこのマコト様の決定に異を唱えるとは」
「そ、そのようなつもりでは……お許しください」
「キャハハッ! 随分としおらしい態度ではないか。
最初にお前をここに呼びつけた時の、ウザったらしいくらいの元気はどこへ行ったのだ?」
「それは、その……あの時は、憧れのマコト様に呼び出して頂いたことで、少々テンションが上がっておりまして……」
「フン、あの時お前は言っていたな。このマコト様の為なら死ねる、と。
今でもその言葉に二言は無いか?」
「……はい。この命は今も変わらず、マコト様のために」
「そうか。ならば……このマコト様が再び、お前に特別な任務をくれてやろう!」
「聞くがいい! お前に与える命令は唯一つ……
『MTR部として万魔殿をスパイせよ!』 以上だ!」
「……えっ?」
~さらば!?パンデモニウムの鉄砲玉・2~
「……えっと、マコト様……それはどういう……?」
「キキッ、言葉通りの意味だ!
このマコト様が、貴様らMTR部のような胡散臭い集団を本気で信用しているわけがないだろう?
どうせあの部長のことだ。ゲヘナに協力したいなどという言葉の裏で、何かよからぬことを企んでいるに決まっている!」
「……驚きですね。マコト先輩が取引相手を疑うことを覚えるだなんて」
「うるさいぞイロハ!」
「あの場で奴らの企みを突っぱねるのは簡単だったが……それでは我ら万魔殿に何の得も無い。
ならば、あえて手元に置き、奴らが何を企んでいるのか見極めるのも一興。
貴様らMTR部はこのマコト様を体よく利用する気でいたのだろうが、そう易々と騙されるほど、このマコト様は愚かではないぞ!」
「……まあ、いっつも体よく騙されて失敗するのがマコト先輩なんですけどねー」
「イロハッ! さっきから何だ! 少し黙っていろ!」
「……どのみち、MTR部がアリウス自治区で何かを企んでいることは明白だ。おそらくはトリニティの思惑も絡んでいるのだろう。
何より、このマコト様の直感が告げているのだ! 今まさに、キヴォトスの在り方そのものを揺るがす『何か』が始まろうとしているのだと!
……ならば、我々ゲヘナがそこに出遅れるわけには行くまい! トリニティやMTR部などに先を越されてたまるか!」
「お前がこのマコト様の側近となったと知れれば、MTR部はお前を使って万魔殿の内情を探ろうとするだろう!
ならば、あえて奴らが欲する情報を与えてやろうではないか!
奴らから何かを聞かれたら、包み隠さず全て伝えろ。……奴らがお前をスパイとして信用するまでな。
そして、奴らの信用を得たところで、奴らに流す情報に致命的な『毒』を含ませ、一網打尽にする!
これこそ、このマコト様の完璧な計画というわけさ!」
~さらば!?パンデモニウムの鉄砲玉・3~
「過酷な任務となるだろうが、お前なら成し遂げられるだろう!
これより貴様はMTR部連合のスパイを装った二重スパイとなり、奴らの信用を得たところで一気に出し抜いてやるのだ! 今度こそできるな!」
「──ハイ! 無理です!」
「キキキッ、いい返事だ!」
「……」
「…………」
「………………?」
「……何いっ!!?」
「な、なぜだ!? 今度は貴様らMTR部をスパイしろと言っているわけではないだろ! どこに断る理由がある!」
「え、えっとその……実のところ私には、今も昔も、別に万魔殿の情報を流せなどという任務を与えられたことはありませんから」
「はぁ!?」
「前回の査問会後、私がMTR部の部長から受けた命令は、簡潔なものです。
MTR部と万魔殿との友好の証……そしてマコト様の野望実現のための『協力者』となれ、と。
言うなれば、MTR部と万魔殿とのパイプ役、ということですね。
……付け加えるならば、部長も私を通じて得られる情報に『毒』が含まれていることなど、最初から承知の上だと思いますから」
「それに……」
「それに?」
「命の危険が無い任務というのは……やはり私個人としてもモチベが下がりますので」
「…………………………」
~さらば!?パンデモニウムの鉄砲玉・4~
「チッ……ことごとく毒気を抜いてくれる。
まさか本当に、このゲヘナと手を取り合いたいというワケでも無いだろうに!」
「……いえ。案外本当にマコト先輩と仲良くしたいだけ、という可能性もあるのかもしれませんよ?」
「そんなわけないだろう! あんな胡散臭い奴の言うことなど信じられるか!」
「はあ……まあいい。
貴様がMTR部からのパイプ役として動くというのなら、万魔殿にとっても不都合はない。
……では、改めて貴様に問おう。もしも万魔殿とMTR部が真っ向から敵対した場合、貴様はどちらの側に付く?」
「ハイ! それは勿論、万魔殿です。
この命はただ、マコト様に捧げるためだけに在るものですから!」
「……いいだろう。ならば、このマコト様が貴様の願いを叶えてやろう」
「え……」
「この先、本気でMTR部と対立する機会が巡って来た時は……貴様を真っ先にその尖兵として使ってやる!
どうせ貴様は犬死するだろうが、それこそが貴様の望みなのだろう?
その時は……このマコト様が直々に、貴様に『死ね』と命じてやるよ!」
「……!」
~さらば!?パンデモニウムの鉄砲玉・5~
「……ああ。そういえば、お前は前に言っていたな。
『マコト様が歩む覇道のその路傍に落ちる小石として、無為に命を散らせたい』……とかなんとか」
「は、はい! それが私の心からの願いであります!」
「キキッ……何が路傍の石だ! 笑わせるなよ!」
「!?」
「このマコト様を見くびってくれるなよ!
たとえ路傍の石だろうと、このマコト様の覇道に無意味なものなど何一つとしてありはしない!
このマコト様の野望実現のために利用価値が存在する限り、名も無き雑兵から捨て石の一つに至るまで、全てはこのマコト様の所有物だ!
勝手に自分の価値を決めつけるなよ! お前の命や人生がどれほどの価値を持つか決めるのは、このマコト様なのだからな!
……そうだろう? 万魔殿近衛隊……■■■■■■よ!」
「……私の、名前?」
「どうした。上官が部下の名前を覚えていることが、そんなに不思議か?
お前の名前は忘れんさ。……なんせこのマコト様に、とりわけ不愉快な経験を与えてくれた、とびきりの問題児なのだからな!」
「そんな……私の名前が、マコト様の記憶に残ってしまうだなんて! そんなの解釈違いです!」
「お前本当に面倒臭い思考回路してるな!?」
「……まあいい。そして今度こそ、このマコト様がお前に特別な任務をくれてやる!
お前は生きろ! 生きてこのマコト様の覇道を見届けろ!
このゲヘナの万魔殿議長たる羽沼マコト様が、キヴォトスの頂点に君臨する、その瞬間をな!
そして後世に至るまで、このマコト様が成し遂げた偉業を語り伝えるがいい!
私がお前に『死ね』と命じる、その日が来るまで……
このマコト様の許可なく、無駄に命を散らせることは断じて許さん!」
「マコト、様……」
「キキッ、今回ばかりは貴様に拒否権を与えるつもりはない。だが……貴様の忠義は示して貰おうか。
さあ、返答を聞かせろ! この任務……貴様は受けるか? 受けないか?」
「……ハイ! それがマコト様のご意思とあらば、この身命を賭して!」
「キキキッ、いい返事だ!」
(……なんだかいつになくマジメですね、今回のマコト先輩)
(うるさいッ! こうでも言っておかないと、こいつ絶対どうでもいいところで無駄死にするぞ!
自分が何気なく下した命令で嬉々として部下が死んだら寝覚めが悪いだろうが! いくら私だってそんなのは願い下げだ!)
~さらば!?パンデモニウムの鉄砲玉・後~
(バタン)
「じゃーん! イブキ登場だよー!
……あれっ、鉄砲玉のおねえちゃん! ひさしぶりー!」
「!?」
「おや、お久しぶりですイブキ様!」
「……き、貴様!? いつのまにイブキと仲良くなった!?
貴様とだけは絶対近づけないようにしていたのに!」
「ええっと……この間、中庭の警備を担当していた時、一緒に遊んでほしいとお願いされまして。
それ以来、ちょくちょくこうしてお話をするように……」
「ねえねえ鉄砲玉のおねえちゃん! この間のお話の続きしよう!
えーと、『りそうのみとられしちゅがたり』ってやつ?」
「はい! やはり万魔殿でのMTRとなれば、もちろん議長であるマコト様の存在は外せないでしょう!
かく言う私も日々マコト様のご命令により鉄砲玉としてこの命を散らせたいと願い、日々精進しており……」
「やめろおォォォーーーーッ!!!
よりにもよってイブキに妙な事を吹き込むんじゃない! 教育に悪いだろうが!」
「……あー、今回ばかりは私も同意見です。これは擁護不可ですねー」
「で、ですが……私も本部の近衛隊として、万魔殿首脳部の命令を無下にするわけには……」
「うるさい! 貴様なんぞ出禁だ! 二度と万魔殿の敷居を跨ぐんじゃないッ!!」
「そんなぁ!?」
「えっ……おねえちゃんともう遊べないの? どうして……?
イブキが悪い子だから……? うう、ぐすっ……!」
「ま、待てイブキ! 違うんだ!
わ、私が悪かった! 許してくれえええ!!!」
おしまい
~~~
今回の話のコンセプトは
・ゲヘナ支部長ちゃんの知られざる過去
・MTR部にガチギレするマコト様、そして鉄砲玉ちゃんの悲願の行方は?
・先生×部長……アリだと思います!
の三本です。
かなり粗い上にはっちゃけた内容になってしまいましたが……まあ書きたいことは詰め込めたので個人的には満足です。
書ききれなかった裏設定:
支部長ちゃんと妹ちゃんがいたスラムを牛耳ってた犯罪組織は、支部長ちゃんが逃げ出した直後にMTR部入部前の隊長と班長のタッグによって壊滅させられて、その後は多少は治安のマシな地域になってます。
もしかしたら隊長や班長とは当時からニアミスしてたかもしれないです。
一人取り残された妹ちゃんの行く末は……
紆余曲折を経てトリニティ近くで餓死寸前だったところを某慈善団体に発見されて……という感じでしょうか。
それでも支部長ちゃん的には、守るべき家族だった妹を見捨てたことがずっと負い目として残り続けてます。
「家族」や「家」といった概念に拘るのも、その時のトラウマみたいなイメージ。
仮に生きて妹ちゃんと再会できたとしても、そう簡単には自分を許せないのでしょう。
ただ、たぶん妹ちゃん的には、おねえちゃんが自分を置いていったことにも気付いて納得していたし、昔も今もおねえちゃんのことはこれっぽっちも恨んでないと思います。
いつの日か、二人が心から打ち解けられる日が訪れますように。