律儀さが徒
夜闇の地を、炎が舐める。
辺り一帯漂うのは血の臭気。噎せ返るそれに、吐き気が上る。
梟は飛び立ち、辺りはしんと静まり返っている。
パチパチ、炎が弾ける音が、幼気な拍手のようだった。
殺した。
多くの命を刈り取った。
これで漸く救われるだろうと/神の手に掬われることはないだろうと
安堵した心を裏切るように、堕ちた男の身の内を、清廉なるものが通り抜ける。
「……嘘だ」
数字は、カウントは、すべて落ちたはずだ。
過不足なくオーダーを終えるように、律儀に数えていたのだから。
「嘘だ!」
悲痛なる叫び。
信じられない、信じたくない。
その一心で地を駆け、自らの陣地へと戻り、天幕を潜る。
踏み荒らされ、貶められた遺骸がぼこりと、音を立てた。
息を、吹き返してしまった。
なぜ、なぜ、なぜ
絶望した男の耳に、 おぎゃぁ と響く声。
嗚呼。夜明けの間際、この地を踏む人間がひとつ増えたのだ、と。
男は悟って、その一刹那後、
「——だん、な」
首を落とした。