待ち人 来たる

待ち人 来たる

(エフソダ)


「待ち合わせに遅れる すまない」

連絡が入ったのは数分程前のこと 近くに店もなく座りながら時間を潰すしかなさそうだと思っていると

「そこの真っ白なおねーさん!1人?なら一緒に遊ばない?」

いかにも遊び人、と言わんばかりの風貌の男が声をかける 勿論話を聞く耳は無い

「1人でいるのつまんなくない?楽しいコトしよーよ」 

しつこいわね 早く諦めてくれないかしら

「今日寒いよ?暖かいところでお茶でもどう?」

貴方の誘いになんて乗る気は無いの

あの人…早く来てくれないかしら


会話をする気の無い私に痺れをきらしたのか、男はだんだんと声を荒らげ始め

 「ねぇってば!話くらい聞いてくれても」

「近寄るな」

ふと別の声が聞こえた


この聞き覚えのある低い声は…

自然と耳が声のする方へ向く

顔を上げると待ち人が立っていた

「なんだてめぇ?お前には関係ねェだろ!?」

その言葉を聞くと彼は男の腕を強く掴み

「…“俺の彼女”に近寄るな、と言った筈だが 聞こえなかっただろうか」 

元より強面な顔つきだが、今の彼は何時にもまして凄みのある表情をしていた

いつも感情を表に出さず大人しい印象だったが、ここまで激情をあらわにする姿を見たのは初めてかもしれない

「え、…お、オニーサンこの人の彼氏?」

「彼女から離れろ 今 すぐに」 

そう言って見下ろしながら睨みつけると

「す、すんませんしたーっ!!」

そう言って男はそそくさと退散していく

(…彼女って初めて言われた気がする)

私が男に声をかけられた程度でここまで不機嫌になるなんて…驚いた 嫉妬なんてしないと思ってたから


…あんな顔もすることがあるのね、彼

そう思うと不思議と心が弾んでしまう


威嚇するように耳を絞っていた彼がこちらに振り返る

「怪我はないか?」

その顔はすっかりいつも通りの仏頂面だった

 「…えぇ、問題ないわ」

機嫌が戻ったことに安心し 浮き足立ってることを悟られないようにスカートの裾を払いつつ立ち上がる


「待たせただけでなく、嫌な思いにさせてすまなかった…行こうか」

「待って」

足早にその場を立ち去ろうとする彼の袖を掴む

「…助けてくれてありがとう」 

すると彼は少し驚いたような表情をした後

「君が無事で良かった ソダシ」


そうやって少し困ったように笑う顔が

私の名前を呼ぶ心地良い低めの声が

大きくて無骨だけどあたたかい手が


貴方の全てが どうしようもない程に好き


なんて言ったら貴方はまた笑うのかしらね


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