引くいち
「あ~も~またこんなの出力してさあ!見せられないじゃん!廃棄廃棄!」
少女が頭を掻き声を上げる。
「うへ~...今日のはまたなかなか恥ずかしかったねえ...おじさんもうこういうの似合わないよ~。」
「いえいえ、私の...あれこれに比べれば...とっても可愛らしくてお似合いでしたよ、ホシノさん。」
「ええ。よかったわ。私にも言ってみて欲しいくらい。」
収録室は今日も賑わう。
「...以上が元中度および重度の中毒者の、この一週間の記録になります。」
「うん。皆いい方向に向かってるみたいで良かったよ。報告ありがとう。」
シャーレにかつての重苦しさはない。
「オラ!金出せ金!もう砂糖じゃ払えねえぞ!」
「うるせえよ!これでも食らいな!」
街の片隅では砂糖と縁のない小競り合いが起こる。
奇跡的な解決をみた決戦の後、なんであれ、皆は未来を向いて生きられるようになっていた。
それは語られるべきお話となり、首魁は首を掻きながら贖罪に励み、皆が各々取りこぼしたものを、どこか明るい顔で拾い直し始めていた。
「………」
「隊長...アイツらの明日の予定、集めてきました。明日も午後まで収録です。」
「ありがとう。」
ただ二人の、はぐれ者たちを除いて。
________________________________________
偶々だった。
「おい!しっかりしろよ!!おいって!!」
「ガハッ...ハッ...ハッ...!!」
「ねえ!!しっかりして!!しなさいよっ...!!お前が死んだら...!!」
「た...隊長...隊長っ...痛い...胸が...胸が痛いぃ...!」
「い...あ」
ただ特別に、砂糖の合わない体だった。それだけだった。
名も無い一人の少女が、砂糖を摂ってあっけなく死んだ。
そしてそれは、大きなうねりに、影響をもたらさなかった。
学園から追放されたはぐれ者たちの寄り集まりの、さらにその最末端。
たった三人のそのグループを、他に気に留めるものなどいなかった。
二人は亡骸を砂浜に埋め、ただ二人で涙を流し、故にそれは元凶たちの耳に届かなかった。
世界はどたばたとあるべき姿を取り戻してゆき、二人は砂の中に取り残された。
________________________________________
「ホシノ...償う時が来たのよ。」
「アイツら...今日もへらへら笑ってやがった...。バラ撒いておいて...
殺しておいて...!!」
滾る憎悪がアンプを通る。
「これで...お前の仇をとってやるから...。」
リュックに入れた小包を見る。
「これで」
「ヘイローが破壊できる」
それはブラックマーケットの最奥で手に入れた爆弾だった。
二人にできることは多くなかった。
銃だけ持って襲ったとして、どうせシャーレに居座る奴らに、またあの首魁たちには勝てはしない。
だから騒動の中で生み出され、しかし運よく使われず、ごく少量が闇に流れたその忌々しい爆弾を、二人は取引の場を襲い手に入れた。
「やりますよ、隊長。」
「ええ、やるわよ、復讐。」
元凶に、ホシノに、つき返すために。
「うちらのことなんて知らないみたいに、回る世界に。」
トゥルーエンドに、一足りない。
世界にできたほつれ目は、塞がれるだろうか。
広がっていくだろうか。