引き金の重さ
銃の引き金を引く、カチン
ある少女から託された気がする
再び銃の引き金を引く、カチン
「生徒達を…よろしく、お願いします」
もう一度銃の引き金を引く、カチン
初めは疲れからくるただの気まぐれだった。いや、ここに来てから重責を背負い動く中で逃げたい気持ちがあったのかもしれない。銃を見る、ソレはキヴォトスではありふれた物だ。ソレを持つのに忌避感がない。銃弾を受けても痛いで済む彼女達を見てきたのもあるかもしれない。しかし怖いので念の為弾は抜いた状態で飾り同然の銃を自分に向けて撃った。——不思議な感覚だった。弾は出ないとわかっているのに引き金を引いた途端に恐怖と生きてる感覚が脳を活性化させる。先程まで感じてた重荷が軽くなった気がした。何度かやると気づいたアロナから怒られた。当然だろう。心配そうなアロナの声に私は自分のやった事を恥じてやめた。銃に弾を込めて引き出しに入れた。それきり銃には触っていない
それからも慌ただしい日々が続く。多くの事があった。別の世界の私から託された。生徒達の為にも頑張らないといけない。
生徒達から助けを求められる、頑張ろう
書類整理が終わってない、あまり生徒に頼るのもどうかと思う、頑張ろう
生徒達が悩みがあるみたいだ。彼女達のためにも頑張らないと
生徒達で喧嘩が起きた。仲を取り持つために頑張らないと
頑張らないと頑張らないと頑張らなくちゃ頑張らなくちゃ頑張らなくちゃ頑張らなくちゃ頑張らなくちゃがんばらなくちゃがんばらなくちゃがんばらなくちゃがんばらなくちゃ
疲れた
………?私は何で歩いてるんだっけ?
ボンヤリした頭で考える。
(ああ、そうだった)
ようやく書類が終わった。生徒達の様子を確認しないと。どうせすぐ溜まるんだ。何か問題は起きていないか?今だけは部屋に戻って休もう。そう思って帰っているんだっけ?
「——先生——」
生徒から呼び止められる。『先生』の言葉に反応してすぐに笑顔を見せる
“どうしたの?”
「—————————?」
“うん。うん。大丈夫だよ“
「———!」
”ありがとう!楽しみにしてるよ“
生徒が走り去っていく。生徒達が私を労う為にパーティーを用意してくれたみたいだ。疲れた。生徒達の好意を嬉しく思う。急いで準備をしなくちゃ!
部屋に入って服を着替えたいがアロナ達に見られたくないので伏せておく。パーティー用にするべきかいつもの格好の方がいいか悩んで部屋を歩き回る。ふと、せっかくのパーティーなんだから何か面白い事をしないと、と考える。手品でも何でもいい。せっかく来てくれる生徒達の為にも何かないか探し始める。机の引き出しを開けた時、銃が目に入った。…いつの間にか手に握っていた
(もしも、みんなの前で引き金を引いて自殺したら?)
〇〇は悲しむだろう。〇〇は怒るだろう。〇〇は悲しむだろう。
(駄目だ)
銃を置こうとして引き金に触れる。あの時の感覚を思い出す。恐怖とその解放感。例え弾が入っていなくともあの時の感覚は——
(弾が入っていない…?)
そうだ、あの時は弾を抜いていた。弾が入ってないなら死なない。だったら
(ただのドッキリだ)
きっと怒られるかもしれない。失望されるかもしれない。だけど死なないんだったら大丈夫だ。それにみんなに見えないように引き金を引けば…バレない
“大丈夫”
私は銃を握ったまま笑った