庇われなかったけど間に合わなかったルビー

庇われなかったけど間に合わなかったルビー


漸く、漸くたどり着いた。ママとせんせを殺し私の希望と平穏を奪った犯人の所在を見つけ、この復讐劇に幕を下ろすために乗り込み。

視界に映った地面に伏している兄の、アクアの身体に思考が停止した。

なぜここにアクアがいるんだろう。なぜあかねちゃんは泣いてるのだろう。


なぜ、アイツは笑っているのだろう。


「息子という特別である君の命は、僕の命を重くしてくれる」


いま、アイツは何て言った?アクアがあいつの息子?

…親が、子供を殺した…?


「おや、君も来たのか…、復讐のためかい?でも残念だね、今ならまだ間に合うかもしれないよ」

「間に合う…?」

「分からないかな、彼はまだ辛うじて生きている。そういう風にしたからね」

「………別にあんな奴どうなっても構わない」


一瞬の間、だけどあいつは気にする素振りも見せない、何でママはこんなやつと


「そうなんだ、だったら早くしてくれるかい?予定が詰まっているんだ」


手に持つ凶器に殺意を乗せた行動にあっけなく刺され倒れ行く父親に視線を送る。

終わった、あまりにもあっけなく終わった、特に何も浮かばなかった。


「そうだ、アクア…どうなったんだろ」


地面に伏してるアクアに近づく、アイツは間に合うと言っていた。

故に私は楽観視していた所もあったんだと思う、その言葉さえ出まかせだと気づくまでは。


「あかねちゃん、おわったよ」

「…っ、ごめん、ルビーちゃん…私じゃ力不足だった…私じゃアクアくんを、救えなかった」

「えっ―――――アク、ア…?」


私でも見たらわかるほど、手遅れだった。あかねちゃんが患部を強く抑えていても、

あふれ出していただろう命の証。どこが助かるかもしれないだ、こんなの手遅れに決まってる。


「アクア、終わったよ…私の復讐」


答え何て返ってこない、そんな事は分かっている。分かっては、いる。

ママと同じように腹部を刺され、声を出せないように首も切られ、

反抗できないように腕を折られ、逃げれないように足を折られた。

そんなボロボロの身体なのに、顔だけはなにもされていないのか綺麗で

ただそれは外傷がないだけで、口周りは血塗れで

いくら声をかけても、反応を示さない。身体も、もう冷たい。


ああ、私は何て薄情なんだろう。アクアが死んだのに涙一つ出てこないや。

隣で大声をあげて泣いているあかねちゃんのほうがよっぽど、人間らしい

ただ、私はこの空虚な心を誰に向ければいいのだろう、またアイドルをやる?

もう戻ってこない、あの空間を覚えているのに?

ああ…復讐が終わったのになんて、空しい。


私の復讐劇は、終わった。隣を歩く人も減った。声をかけてくる人も減った。

この数か月を復讐に費やした、それだけでこんなにも疲れたのに、アクアはこれを十数年やっていたと知った。

私がアイドルを目指し、活動し、楽しい記憶を作っていた辺りでアクアは壊れてしまっていた事実も知った。


そして私は今、一人で遺品を整理してる。この家には他の誰かを入れたくない。

家族じゃないなんて言ってもここで過ごしてた日々は間違いなく大切な物で

他人に踏み入られていい場所じゃない。


そして私は見つけてしまった。

気にせず捨てれていたのならどれだけよかっただろう。

そう思ってしまうほどあっさり見つけてしまったのだ。


アクアの日記とルビーへと書かれたDVD。


画面からはアクアの声がする、まだほんの数日しかたっていないのに、

もう何年も聞いていなかったようなそんな気持ちに苛まれるほどの優しい声。

過去の想い出を話すアクアの声に頷き。そんなこともあったねと返答しても、

聞きたかった声は返ってくることなどはないのに。

滲む視界に映る、謝罪の文章と愛情の言葉。画面から聞こえてくるその声に私は胸が裂けそうで、どうせなら言ってほしかった、愛してるって声で伝えてほしかった。


「アクアの馬鹿、そんなの…私も愛してる、に決まってる」


そして知る、思い知らされる。

私のたった一人の肉親だったアクアはもう、横には居ない。

この空の下をどれだけ探しても金輪際見つからない事実に、


私は


アクアが死んでから初めて泣いた。

もう帰ってくることのない、誰よりも優しかった嘘つきの為に


私は、泣く事しかできなかった。

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