幼き誓い
「たすけて…るふぃ…」
ウタが目の前で黒い何かに飲み込まれていく。必死に手を伸ばしても届かなくて。
「いいかルフィ。俺たちがあの化け物を止める。ウタも助け出す。だから全部が終わるまでここで隠れててくれ。」
ウタを取り込んだ化け物が街をこわす。あちこちから悲鳴が聞こえてくる。涼しかった夜が熱気を帯びてくる。けれどもウタを取り戻す力も街の人を守る力も自分は持ってなくて。化け物には一切手が届かなくて。
「いいか。ルフィ。お前はもっと強くならなくちゃいかん。」
じいちゃんの言う通りだった。もっと真面目に修行をしてれば。
「ダメだ。絶対に船には乗せねぇ。」
シャンクスの言う事を聞いとけばよかった。まだ、海に出るのは早かったんだ。
小さな棺を囲う赤髪海賊団。その中のウタがこっちをみて口をひらく。
「どうして」
目が覚めると最近一番みた天井が出迎える。だが、そんな事はどうでもいい。布団から飛び降りると急いで甲板に向かう。扉を開き階段を登る。その先に
「おはよう。ルフィ。今日は珍しくお寝坊さんね。」
望んでた人が居た。ウタが目に入った瞬間に色々なものが込み上げて抱きついて
「ちょっとルフィ!いきなり何よ!あっ!」
力ずくに離されてしまう。当然後ろには階段しかなく、先程登ってきた階段を転げ落ちる。瞬間に感じる確かな違和感。動悸が止まらず周りの音が遠くなる。"痛くない"その事実で身が凍ったように動かなくなる。
「ウタ…おれを殴ってくれ。」
「はぁ?急に何「早く!」!?」
「じゃあ…いくよ?」
困惑しながらも振り抜かれたウタのパンチは…全くもって痛くなかった。痛くないという事はこれは夢で。じゃあさっきまで見てたのは…涙が溢れてくる。結局なにも出来なかったと現実が追いかけてくる。それでも…
結局その後駆けつけたシャンクス宥められレッド・フォース号の一室で2人だけで話す事になった。ルフィは全部話した。見た夢の事も痛みがない事も…ここが夢だって事も。シャンクスは静かにルフィの話を聞いていた。
「だからよ!今すぐ起きなきゃいけねーんだ!せめて」
言いかけた所で頬をつねられる。そして
「いででででで!」
思いっきり引っ張られた。
「どうだルフィ。いてぇだろ。ここは夢なんかじゃねぇ。」
赤く腫れた頬をさすりながら痛みを再確認する。ジンジンと響いてくる痛みは先程と違いここが現実だと主張してくる。なら、なんでさっきは
「なんでさっきは痛く無かったんだ?か?」
考えてる事を当てられ見上げるとそこにはいつになく真剣な表情のシャンクスがいた。
「お前、こんな果実を食べなかったか?」
「たべてねぇけど。」
見せられた写真に写ってたのは紫色の変な模様がついた果実。当然身に覚えのない事なので首を横に振る。
「そうか。こいつはゴムゴムの実といってな。」
シャンクスが話し出す。売れば1億はくだらない悪魔の実と呼ばれる海の秘宝だという事。食べれば一生カナヅチになる代わりにゴムの体になるという事。ゴムの体はいかなる打撃も通らない事。その悪魔の実は常にシャンクスが自身の近くの宝箱に鍵をかけて保管してあった事など。
「お前は嘘をつくのが下手だ。だから、お前が食った覚えが無いっていうのなら本当に覚えてないんだろう。だから深く詮索はしない。」
優しく、けれども硬い手で撫でられる。正直、シャンクスの言ってた事の全部は理解出来なかった。けれどわかった事もある。
「体が伸びるって事は今度は手を掴めるんだ!」
あの時取れなかった手をこの力なら取ることが出来る。あの時届かなかった腕もこれなら届く。それだけで嬉しくなってくる。
「決めた!シャンクス!おれもっと強くなるよ!この力をうまく使えるようになって、今度はおれがウタを助けるんだ!」
真っ直ぐシャンクスを見据えて話す。その目は赤く腫れてるように見えた。
「そうか。なら早く強くなってくれ。ウタは俺たち赤髪海賊団の大切な娘だからな。傷をつけたら許さん。」
トレードマークの麦わら帽子を深く被ったシャンクスの目は見えなくなったけどその声はたしかに涙をはらんでいた。