【幻覚】苑がる
※怪我とかそれによって不調になる子を見るのが辛い人は注意※
※シニア期を題材にしてます注意※
※ここにあるのは全て妄想です※
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「ねぇ」
「…なぁに?」
保健室特有の消毒液が染みた香り。窓の外から賑やかな掛け声が聞こえる。
清浄綿の袋を破く私に、目の前にいた同室相手はおもむろに声をかけた。
私の視線は彼女の顔ではなく、膝の擦り傷に向いたまま。
血は固まったが、思ったよりも傷は広範囲みたいで見ているこっちも痛々しくなる。
これは拭くときに多分染みるだろうな。
ごめんね、ちょっと我慢してね。
「ねぇ」と私に声をかけた筈の同室は、その次の言葉を中々紡ごうとしない。
喧騒から切り離された白い部屋に再び沈黙が訪れた。
彼女が言葉を言いかけて、やめてしまうのは珍しいことではない。
きっと、頭の中で何を話そうか整理をしているのだろう。慎重な彼女らしい。
慣れっこな私は、彼女が何を言おうとしたのか特に気になることはなかった。
さっき用意してきた絆創膏だと傷がはみ出ちゃうな。もう少し大きいものを探してこよう。
立ち上がる瞬間、一瞬だけ顔が見えた。
深い海のような瞳に射抜かれる。
彼女は、傷の処置をする私のことをずっと見ていた。
何故かその瞳の色から言いようもない恐怖を感じ、その場から離れるのをやめた。
「タイちゃん」
「………どうしたの?」
「私、また一からやり直しだ」
「………」
やり直し。
シニア期に入って彼女は変わってしまった。
その理由は、私も知ってる。
「走り方も、息の仕方も全部全部」
背中を丸め目の前の子は項垂れる。
大丈夫、大丈夫だよ。
私待ってるから。
あなたが追いつくまでちゃんと待ってるからね。
彼女の赤く染まった膝を、私は手のひらで優しく覆った。
*
怪我によって思うように走ることが出来なくなりトレーニング中にすっ転んだエフちゃんとそれを処置してあげるタイちゃんのお話。