幻肢

幻肢


「なあウタ、その羽って感覚あるのか?」


ウタワールドにルフィを招き入れて勝負をしていた時にそんな事をルフィが話した。

ウタワールド内では別に生やさなくても飛べるが「羽があるから飛べる」という明確なイメージを持ってる方がいいので生やしている髪と同じ紅白の羽。髪と同じく、割と無意識にパタパタ、ぴょこぴょこ動いているらしい。


「感覚?んー、アリにも無しにもできるよ。でもアリにした方が空飛ぶ時風を切ってる感じがして気持ちいいんだ〜」

「へェ、いいな……ちょっと触ってもいいか?」

「…へ?触る?羽を?」

「ああ、ダメか?」

「別に、良いけど……乱暴にはしないでよ、さっきも言ったけど今、感覚あるんだから」


口ではこう言うが、ルフィなら私の身体に酷い事はしないだろうと分かっている。そうして立ったままだと危ないと思い、お互い座って、私はルフィに背を向けながら身を委ねる事にした。

人に触らせた事のない羽。その赤色の方にルフィの手が触れる。


「ひゃっ」


想像より熱く感じて、思わずバサッと羽が大きく動いた。


「うおっ…え、ごめん痛かったか?」

「ち、違う。大丈夫…びっくりしただけ」


そうだ、よくよく考えれば誰にも触らせた事がない場所だ。私自身も、触った事など殆どない。慣れない感覚がして当然だ。


「へえ、にしてもフワフワだなァ〜やわらけ〜。干した毛布みてェだ」

「そう?よく分かんないけど、気に入ったなら良いや」

「ああ、すげえ好きだ…んむ」

「ひぇっ!?」


突如熱の範囲が広がって何かと思えばルフィが羽を緩くではあるが抱きしめて顔を埋めていた。あまりに予想外すぎて思わず後ろ向きに肘を入れた。ゴムだから効かないなんて事は分かってはいるが…


「なっ、なな何してんのバカ!!ルフィの変態!!」

「うぐ…そー言うなよー…ふわっふわなんだぞ……ん〜」

「か、顔を擦り付けないでよォ!?って、ヒッ…な、にして…」


ルフィには羽から顔を離して欲しい。だがそれと同じくらい今、赤くなってるだろう顔を晒したくもない…そう思いつつ文句を言えば、急に、羽を通して背中がゾワゾワする感覚が走る。これは、なに?


「ん…すぅ……良い匂いだな…ウタと一緒の匂いだ……ウタの一部だし当たり前か」

「〜ッ!!吸・う・な!!!」


口では強気に文句を言っている。言えている。なのに、何故か少しずつ身体から力が抜ける…なんで?


「も、いいでしょ…?いい加減に…」

「そういや、これ生えてる部分ってどうなってんだ?骨とか色々あるだろ?」

「そん、なのよく考えてな…ぅあっ!!」


よく考えてないよ。そんな事を言おうとしてバチリと電流でも流れた様な感覚にのけ反った。


「服越しだと分かんねえな…」

「ふ、あっ…ぐりぐり…しなっ…はぁっ!なぞるのっ…やあ…っ」


肩甲骨に近いところ…羽の付け根だろう場所をルフィの指が羽の生えている部分をなぞる様に動いたり、付け根の部分をひたすら執拗に触られる。気になるのは充分に分かったけど…こっちはそれどころじゃなくて「分からない」「これは何」とハテナが頭に浮かんでは刺激で白くなっていく。


「るふ、ぃっ…も、いい…?まだ…?」

「あとちょっとだけ……はぁ…すげえ良いな、これ」

「ふ、ぅう…っ」


なんだかおかしい…ルフィの声が色っぽく感じる。頭がぽーっとする…羽から背中…背中からお腹の奥みたいなところがビリビリして、変な気分になる。

現実世界の方も、殆ど力が入らなくて、隣で寝ているルフィに添い寝する様に横たわってるけど、変な感覚が伝わってて、でもその感覚が走る場所は存在しなくて…その分背中がゾクゾクしてムズムズする。

そんな私の現状も知らずウタワールドでは羽を弄び続け、現実では呑気な顔で寝てるルフィなら腹が立って、現実のルフィの頬を引っ張った。

そんな事をしても、この疼きは変わらないのに…


「は、ぁ…っ……も、無理…や、あ…」

「すー……なあ、ウタ」

「へ……?」

「もう片方も、同じことして良いか…?」


この時、断るとか…せめて羽の感覚を遮断するとか…色々選択肢がある筈なのに…


「……ん」


ただ、何か期待を膨らませて頷いた時点で私はもうダメだったのかもしれない。

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