「幸せになってほしかった」
曇らせ&死ネタ
完全にスレ主の趣味Part2
頭の中の悪魔が天使にクリティカルダメージを出した結果のSSでありんす
「……ここは」
目を開いたら目の前には大海原が広がっていた
ローは先程までクルーたちの敵討ちのために麦わらの一味と同盟を結び直し、黒ひげと戦闘をしていたはず……
ならば何故自分は無傷でこんな場所にいる?
「っ!?なんで……なんでここにいるんだ!"ポーラータング"!!」
黒ひげとの戦闘で破壊され海に沈められたはずの大事な"家族"
1人寂しく海の藻屑になったであろう
辛く、寂しく、冷たい海の底に
信じたくなかった
まだきっと無事でいてくれると信じたかった
だがこの目で見てしまったら無事であることなど到底思えなかった
今目の前に浮かぶ家族は幻覚なのだろうか
それでも、また五体満足の姿のポーラータングに涙が溢れそうになった
「キャプテン!」
「!!」
後ろから聞こえた耳馴染みのある声
ローはバッと勢いよく後ろに振り向く
目を見開きその場に立ち尽くす
そこには既に死んだはずの己の大切で仕方なかったクルーたち
ああ……自分は本格的に幻覚を見ているのだろうか
そんなはずがない
そんなはずがないはずなんだ
だってあの時ビブルカードが燃えるその瞬間をこの目で……
「キャプテンこっちに来るのちょっと早すぎるよ!敵討ちなんてしなくて良かったのに!」
「そうですよ!せっかくおれたちが命懸けで守った写しも黒ひげの野郎の前で破壊するしでびっくりしたじゃないですか!」
「そうだそうだ!キャプテンはいっつもドライじゃないんだから!!」
ブーブーと好き勝手に言うクルーたちにローは震える足で近づいていく
___おれは……夢を見ているのだろうか
それとも都合のいい幻覚……?
それでもいい
ずっと会いたかった……っ!!
ローは途中から走り出しクルーたちに飛び込むように抱きしめた
「うおっ!?キャプテン!?」
「いきなりどうしたの!?」
「え!?キャプテン泣いてる!?なんで!?」
クルーたちは自分たちをキツく抱きしめながら止めどなく涙を零す様に驚愕した
いつも冷静で人前で涙を流すことだなんてなかった
どんな時でも自分を奮い立たせ立ち上がってきた己のキャプテンが
「ごめんっ!ごめん……っ!おれが、おれのせいでお前たちを殺しちまって……!痛かったよなァ……おれなんかのためにこんな……っ!」
「バカ!!!キャプテンのせいなわけないでしょ!?」
ペンギンがローの肩を掴み前を向かせる
ペンギンや他のクルーたちも全員怒ったような顔をしておりローは帽子がないせいかはたまた眉間に皺がよっていないからかいつもより泣きながら幼い顔でキョトンとペンギンたちを見た
ペンギンだけじゃなく他のクルーも目を吊り上げ怒りを顕にしていた
「だって……お前たちはおれが仲間にしたせいで……」
「キャプテンの天然!!おれたちは全員あんたに命を救われた。おれたちに"居場所"をくれたんだ。だからおれたちはキャプテン……ローさんに一生ついて行くと決めた」
「それで死んだとしても後悔なんてない!!そんなおれたちの覚悟を他でもない貴方が!!否定しないでください!!」
「……!」
ローはハッと目を見開き一人一人のクルーの顔を良く眺めた
誰一人、死んだことを後悔しているような顔ぶれじゃなかった
寧ろ誇らしい……そう思っているようだった
それに気がついたローは自分が愚かな考えをしていたと思った
みんなの覚悟を、甘く見すぎていた
「……ハハッ、ほんとに馬鹿だろお前ら!!」
「な!馬鹿とはなんですか馬鹿とは!!」
「酷いじゃないですかキャプテン!せっかくペンギンがいいこと言ってたのに!」
「そうだそうだ!!」
「ひどーい!!」
途端に馬鹿らしく思えてきたローは大口を開けて笑い始めた
クルーたちはローの心情を知ってか知らずかいつもの雰囲気を崩すことは無かった
これが、ローにとっての救いになるから
「……ふぅ。笑った笑った」
ローは目尻に浮かんだ涙を拭い改めてクルーたちの顔を見直す
最期の瞬間に伝えることが出来なかった言葉
今なら、素直に言える気がする
「お前ら、愛してるぜ!!」
ローは人生で1番の飛びっきりの笑顔で大事な"家族"たちに愛を伝える
クルーたちは驚いたように目を見開き、直ぐに破顔した
中には涙を零す者もいた
「「「「「おれたちも愛してます!キャプテン!!」」」」」
ローはその返答を聞いて満足そうに笑った
それぞれのクルーが水平線に向かって歩いてゆく
そして最後にローと共に旗揚げをしたペンギン、シャチ、ベポが海で待つ己たちのもう1人の家族の元へ歩みを進める
「さぁ、"キャプテン"行きましょう!」
「おれたちの"航路"に!」
「アイアイー!!」
「……ああ!」
ローは手を差し伸べるペンギンとシャチの手を取り家族が待つ家へ乗り込む
その姿を微笑ましそうに見守る無数の人影が手を振っていた
「いっ…しょ……に…いく……ぞ……」
その言葉を最期に、僅かに光があった虚ろな目が完全に死んだ
全身血塗れの状態で満身創痍だったロー
いつ死んでもおかしくない状態で戦い続け、ついに事尽きた
「……チョッパー、トラ男は」
チョッパーはそっとローの瞼を閉じてやり悲痛な表情で首を振った
その反応で全てを悟った一味は全員やり切れない表情を浮かべた
ゾロは刀を強く握りしめ、サンジは煙草を吹かし直し、ナミはクリマタクトを強く抱き締め涙を浮かべた
ウソップは腕で目を押え鼻を啜り、ロビンはそっとローの顔の汚れを拭いてやった
フランキーは顔を押えて大泣きをし、ブルックは事切れたローに労りの言葉をかけてやった
ジンベエはかつて己の船長と自身を治療してくれた優秀な医者を想い目を伏せた
「ゼハハハハハハ!!!トラファルガーの野郎逝っちまったか!随分と呆気ねぇなァ!!オペオペの実の回収はしたかったが……まぁなんとかなるだろう!」
「……おい」
ルフィはおどろおどろしい覇王色を流しながらギロリとローを嘲笑する黒ひげをじろりと睨みつけた
地を這うような低音でナミやウソップ、チョッパーは驚愕した
だがルフィの憤りを理解出来るからこそ、辛くて仕方がなかった
「誰が……なんだって?」
「……おいおい。何怒ってやがる!お前とトラファルガーはただの同盟……同盟相手が無惨に死んだだけじゃねぇか!それともなんだァ?お前も"不老手術"に興味があったのか?そいつァ悪かったな!ゼハハハハハハ!」
そんな人の命を命とも思っていないような発言についにルフィの堪忍袋の緒が切れた
「……っ!!トラ男は"道具"なんかじゃねぇ!!!」
「トラ男は誰よりも自由で!!誰よりも"愛"に生かされてきた!!そんなスゲェ奴を!!!馬鹿にすんじゃねェ!!!」
ドンドットとドラムの音が鳴り響く
ルフィの憤りと共に身体が白に染まりゆく
そんな船長を合図に船員たちも覚悟を決める
ゾロは口に三本目の刀を咥え、構え直した
サンジは脚に蒼の焔を灯した
ナミはクリマタクトからゼウスを解放した
ウソップは黒兜を獲物に向けた
ロビンは腕を身体の前に交差させた
フランキーはサイボーグの目を光らせ兵器を出した
ブルックは仕込み刀に黄泉の冷気を纏わせた
ジンベエは腕を軽く回し構えを取った
___さぁ、ドラムを鳴らせ
今こそ開戦の狼煙を上げる時