年下の男の子4
平子と藍染の夜には一応ルールがある。
・藍染は日付が変わるまでに身支度をして帰る
・翌日に支障が出る行為は行わない
・共寝をしない
本当はそれ以外に病気をしないだとか(藍染は僕がどこから貰うというんですか、と憤慨した)痕をつけない(藍染が破ってなあなあになった)だとか色々あったが、今では3つしか残っていない。
相変わらず身体だけ繋がっていて、平子は藍染のことを受け入れはするが心まで許さず、藍染は平子の時間を所有できずにいた。
平子は口付けが好きだ。どんな愛撫よりも藍染の口付けに悦ぶ反応を見せる。
「あっ、んっ、ふ…」
「はぁ、あ、はあ」
舌を絡ませてると、もっとと言うように藍染の首にまわした腕の力を強める。口内へと送られる唾液を飲み込む。息が苦しいと思いながらもやめられないでいる自分に気づき、それがまた快感だと思っていると、藍染の手が寝巻の中へ侵入する。少し熱く硬い手が脇腹をなぞる度にびくりと震え、唇を合わせたままゆっくりと押し倒された。
ペースなど考えず全力で腰を振り続ければ、限界が訪れそうになる。その瞬間が一番気持ちが良いのだ。今日こそこの女を孕ませることができるのではないか?そうすれば自分のものにできる。早く、早く。そう思いながらスパートを掛けようとしたが、平子は無慈悲だ。
「惣右介」
「……なんですか」
「日付」
終わりを告げるが、藍染は平子を抱きしめたまま動かない。それどころかさらに強く締め付けてきて、あともう少しで……だの僕は……なんて平子の肩口に顔を埋めて情けない声を出して駄々をこねる。
「男の桃源郷で同じ事言ってみ。金余分に出さな許されへん…いやお前の顔なら数秒なら許されるンか?」
「………わかりました」
平子が藍染の背をポンと叩くと藍染は平子の中から己を抜いていく。終わった後も平子を抱きしめるのが常だが、平子はその腕を振り払う。
「汗臭いやろっ」
「僕だって同じですよ」
平子の汗のにおいに興奮する。そういう性癖があるわけではないのだが、どうしようもなく欲情してしまう。首筋に鼻先を埋めると、髪を掴んで引き剥がされた。
「お前は変わらンわ」
「…そんな事言われて傷つかない人間がいると思いますか?僕は傷つきました」
藍染との情事は長引けば長引くほど濃厚なものになる。特にねちっこく平子に快楽を与えようのするので、終わりを告げてもすぐに解放されない。
今すぐ離れろという意味を込めて背中を蹴ったが、藍染の腕は剥がれず、もう一度力を入れたところでようやく解放された。
「風呂入ってくる」
「どうぞ…あなたの心無い言葉に僕はとても傷つきましたので」
藍染の返事を聞き流し、浴室に向かう。鏡に映った自分の姿が目に入る。
「……」
藍染と肌を重ねるようになって暫く経つが、平子の身体は女というよりも青い少女体型のままだった。
「やっぱアイツおかしいわ」
抜かずに数発からの休憩を挟んでプラス数回。いくら藍染が平子よりも若い男とはいえ、平子の元恋人達よりも規格外だ。何度身体を重ねても飽き足らず、平子の身体に夢中になっている。
この身体のどこに欲情の余地があるのかと思う反面、中に出しても子どもが出来ないオンナもどきの手軽さ故に都合の良い相手として重宝しているのだろう。そう思いたい。
そんなことを考えながらいつもより長く入浴し、洗面所で髪を整えているところに藍染がやってきた。
「こんばんわ〜女将さん」
「アラァ惣右介サン、ドウシタノォ」
「今日は少しだけ長居してもいいですか?抱き枕を探していて」
「!? 絶対に嫌や。というかもう今の時点で長居や早ョ帰れ」
「……眠っている間に何かする、なんてしませんよ」
「お前の信用度は地の底やぞ」
「それは残念」
本当に残念そうな顔をするので、平子は呆れてしまう。
「ハァ?人が寝とる間にあんな事しでかしといてよォ言えるな。どんだけ面の皮厚いねん」
眠る平子の下半身に剃刀を当て、無毛にしたあの夜を藍染は今でも思い出せる。嗜虐心と達成感が混ざり合った気持ちが昂ぶり、その夜は久しぶりに夢を見れたほどだ。
翌朝目が覚め無毛になった事に気づいた平子は大声をあげ、副隊長の面をした藍染に思いつく限りの罵言雑言を浴びせたが、藍染はどうしたんですか平子隊長、というような顔をしていた。共寝をしないルールが出来たのも、平子が藍染の前で眠らなくなったのもその日からである。
「それについては謝っているでしょう。あなたがハゲと言われていたので可愛…つい悪戯をしたくなったんです。それに起きない方もどうかと思いませんか?」
「笑いながら謝られたなァ…その性癖についてける女中々居らんやろ」
平子も藍染の気持ちを無視するという意味では悪趣味だが、藍染はその上を行っているのではないだろうか。
「隊長以外の女性を知らないので分かりかねますね…僕のことを変態扱いしますが、自分の性的嗜好が正常であると信じています。現にこうしてあなたが傍にいるわけですし」
「異常者の常套句やんけ」
平子の返しを無視して藍染は話を続ける。
「例えば僕があなたの言う通り、サディストだとしたら」
「そら良かったわ」
「平子隊長にはもっと酷くするかもしれません」
「キッショ」
藍染は不服そうに声をかける。
「理解して貰えないのは辛いですね」
「そらまた厄介なモン抱えてんなァ」
こんな男と付き合え?無理に決まっとるやろ!絶対に悪事の証拠を掴んで逃げ切ったるからな! 平子は心の中でリサに向かって叫んだ。
「まあ冗談はさておき、元々控えめですよね」
藍染は平子の足の間を見て目を細める。
「キャー惣右介さんの助平…いや服の上からでも見ンな…近寄るなって言うとるやろ。ええ加減にせんとホンマに怒るで」
「もう怒ってるじゃないですか」
「当たり前の事を吐かすな…髪乾くまで時間かかるから風呂入りたいなら貸したるわ。高いで?」
「あぁすみません、ありがとうございます」
藍染が風呂に行くのを見届けると、平子は大きな溜息をつく。
「疲れるゥ……」
例え夜の関係を断つことは出来たとしても、藍染が油断ならない相手であることに変わりはない。
何度寝ようと何を考えているのか未だに解らない男に、平子は振り回され続けている。
「いつまで続くんやろなコレ」
平子は呟きながら長い髪を乾かす作業に入った。