年下の男の子
布団の上、横たわった平子の薄っぺらい腹がふっくらと盛り上がっており、藍染はそこを愛でるように撫でた。
平子の体は鍛えているにも関わらず、とてもしなやかで与えられる快楽に素直。
そんな平子を背後から抱きしめ藍染はくつくつと笑みを浮かべる。
(ああ……、気持ちいい)
ぐりぐりと腰を押し付ける。それはさながらマーキングのような行為だった。たっぷり注ぎ込みながら、藍染は平子に囁いた。
気持ちいいですね、たいちょう。
そう言って頭を撫でると、平子はこくりと首肯する。もう何度目になるだろうか?数え切れないほど交わり合い、二人はすでに幾度となく果てていた。
平子を抱いた後、藍染はふと、なんの脈絡もなく疑問を口にした。
「平子隊長、何人とシたことあるんですか?」
平子は何度男を咥え込んだのだろう。この肢体を味わった男が自分以外にもいるのかと思うと、無性に苛々としたのだ。平子は性に奔放とまでは言わないがおおらかな方だ。なので経験人数など軽く答えるだろうと思った。
しかし、
「言いたくない」
意外な答えが返ってきた。
思わず聞き返す。
「どうしてですか?」
平子は答えあぐねて黙っている。
「気になったんです。だって僕はまだ、隊長しか知らないんですよ。なのに隊長は既に何人もの男性を知っているんでしょう?普通は何人くらいとお付き合いするものなのかを知りたいんです」
嫉妬の色を見せる藍染に対し、平子は呆れたようにため息をつく。そして、おもむろに口を開いた。
「いや、お前と猥談とかしたくないやん」
「は?」
藍染にしては素直に疑問と理由を述べたつもりだ。それがまさかこんなふうに切り捨てられようとは思わなかった。
ぽかんとしている藍染を放っておいて、平子は続けた。
「まぁ、何人かとは付き合うたことはある…おい惣右介どないしたんやァ」
目の前で手を振られてハッとする。
ようやく言葉の意味を理解して、今度は藍染の方が絶句していた。つまり経験人数が少なくこなれていなかっただけで、平子は藍染が初めてではない。
打算の上で始まった関係の為、問い詰めることもできない。というより、今まではどうでもいいと思っていたのだ。それなのに平子の口から過去の男の話を聞き、藍染は不快感を感じていた。
「その人たちは今どこに?隊長陣にいますか?京楽隊長は」
「しつこい。だから嫌やってんお前にこういう事言うン」
「すみません、でもそんなに勿体ぶる話では無いですよね?」
何故隠す必要があるのだろうか。
「お前ホンマデリカシーないな。母ちゃんのハラん中に置き忘れ過ぎやろ」
平子の口調がだんだん雑になってきた。本当に面倒くさそうな顔である。
しかし藍染は諦めなかった。
なぜだ?一体何をそんなに頑なになる?心底不思議に思ったのだが、そういえば先ほどの質問にもまだ明確な回答を得られていないことに気が付いた。
「隊長」
「ヤる事ヤッてんからもう帰れや。俺は疲れとんねん。それに眠いんや」
「隊長、僕の事はどう思っているんですか?」
ピクリと反応して、平子は振り返った。
その瞳には戸惑いの色が浮かんでいる。
「ええモン持っとるとは思うけど…お前は俺の部下で、夜は情夫(イロ)やろ?」
確かにそうだ。藍染にとっても平子は恋人ではない。身体だけの間柄であって、そこに愛はない。ならばなぜ、藍染は平子に執着するのか?
(わからない)
わからないが、ひとつだけはっきりしていることがあった。
「知りたいんです。何人相手にしたら貴方のような身体になるのか……」
藍染は再び平子に覆い被さり、耳元に唇を寄せた。
「教えてください隊長」
甘く囁きながら、舌を差し入れる。ぴちゃりと音を立てれば、平子は身を捩って逃れようとする。だが腰を掴んで離さない。
そのまま首筋に吸い付くと、くっきりとした鬱血痕ができた。
藍染の所有印。
これでも足りないくらいだ。もっと。もっと欲しい。この女の全てが。
平子は眉根を寄せて何かを堪えるようにしていたが、やがて諦めた。
「拗ねるような話ちゃうやろ。もう帰れや」
「拗ねていませんが」
「いややー自覚なしか。めんどくさっ!」
食い気味の返答に平子はわざとらしく肩をすくめてみせる。
「何人とヤッたかなんて覚えてへん。一々数えんのもアホらしいしな。今はお前としかしとらん。俺に所有印(コレ)付けれるんはお前だけや。それで満足せぇや」
そう言って平子は、ヨシヨシと藍染の頭を撫でてやる。
「ほれ、早よ出てけ」
ひらりと手を振られ平子に背を向けられた途端、藍染の中でまたどろりとした欲望が湧いた。
「隊長」
もう一度呼びかけて、今度は正面から抱き締める。
「……なんでこうなるねん」
「貴方が悪いんですよ」
「はァ?」
「貴方のせいだ」
ぎゅっと腕の力を強めると、平子からも背中に手が回された。
「あ~、ハイハイわかった。けど今日はもう終いや。また明日仕事でなァ藍染副隊長」
「……わかりました」
渋々と承諾すると、平子はふう、と安堵したような顔をする。
その表情を見て、藍染は確信を得た。
自分が平子真子に求めているのは、単なる性欲処理では無い。だがそれが何かは分からない。しかし、この女は恐らくそれを察している。
だからこそ藍染を拒むだのだ。
構わないと思った。藍染にとって大切なのは、今この時、平子真子は自分を受け入れ拒まないということだけだ。
平子は藍染の首に両腕を巻き付けると、ぐいと引き寄せる。
そうして、軽く触れる程度の口づけをしてやった。
「じゃあな惣右介、また明日」
一瞬のことで呆然としていた藍染だったが、我に返った時には隊首室から押し出されていた。扉が閉まる音が聞こえる。
藍染はしばらくその場に佇んでいたが、おもむろに身を翻すと、足早に歩き出した。
平子の過去の男たちを絶対に見つけ出してやる、と。