幕間のお話-A
かみつき事件のお話
大した描写はありませんが背後注意
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「おはようございますっ!」
上擦った声でそう言うアオイを前に、ピーニャは目を丸くした。
「おはようございます、アオイ君」
反射的にそう返しはしたが次の言葉が出てこない。そんなピーニャにアオイは近づき囁いた。
「えっと……お話ししたい事があるんです」
「……?分かった、聞かせて?」
「じゃあ、えっと……場所を変えましょう!」
アオイはそう言ってピーニャの手を取る。戸惑うピーニャをよそにアオイはグイグイ手を引きながら学生寮の方へ歩みを進めた。
「ここ……」
「……私の部屋、です」
「…………」
さっきからどうにも様子がおかしい。
また妙な事を吹き込まれたのだろうと察しがつきピーニャは小さくため息をついた。
「そうだお茶……お茶用意するので座ってください!えっと……ベッド、ソファ代わりにして大丈夫なので」
「え?」
促されるままベッドに座らされ、ピーニャはアオイがお茶を持ってくるまで動けなかった。
「ど、どうぞ……」
「うん」
ピーニャがお茶を受け取った事を確認し、アオイはちょこんと彼の隣に座る。お互いの身体が当たるか否かの絶妙な距離。
とにかく何か話さなければ。
そう思いお茶を一気に飲み干して、ピーニャはアオイに声をかけた。
「アオイ君あのさ……こんな風にヒトを……と言うか、男子を部屋に招いてベッドに導くのは……あんまり良くないと思うんだけど」
しまった。考え無しに言葉を発したらつい説教じみた事を……さすがにウザかっただろうか。そう思考を巡らせてピーニャは恐る恐るアオイの返事を待つ。
見上げる視線。潤んだ瞳。ほんのり紅潮している頬。恋する少女の表情でアオイは小さな唇を動かした。
「……ピーニャ先輩だからやってるんです……意識、して欲しくて……」
一撃必殺。そんな技をくらってクラクラしそうになるのをピーニャは必死で抑えた。そのまま頭を働かせる。
こんな猛攻をこれからも浴びろと言うのか、彼女の好意に応えるまで。だが好意を寄せられたから自分も……と言うのは不誠実なのでは?確かに彼女の事は自分も好く思っている。それが恋愛感情なのかと聞かれたら分からないのだ。……とにかくこのような行為を続けられたらたまったものではない。今だって動物的本能が理性を押し潰そうとしているというのに!
やめさせよう。いや、もうしないように釘を刺そう。気乗りはしないが少し怖い思いをすれば大人しくしてくれるはずだ。そう、これはいわゆる牽制と言うものだ。だから……
「あ、の……」
ベッドに転がし抵抗されないよう両手を纏めて押さえつける。小柄なアオイが相手なら、腕っぷしに自信がないピーニャでも造作もない事だ。きっちり締められたネクタイを少しだけ緩めてシャツのボタンを外せば、鎖骨部分が盛り上がった肌が露わになる。「待って」と言う抗議に聞こえないふりをして、食いちぎれそうな柔い首筋に噛みついた。小さな悲鳴とほんのり甘い味。そこから口を離すと、綺麗な歯形がついていた。
これで分かった?こんな事されたら怖いでしょ?こうなるリスクもちゃんと考えてやらないとダメだよ。
そう締め括ろうとした所で、出入口からドアをノックする音が聞こえた。
「……行っておいで」
ピーニャにそう促され、アオイは慌ててベッドから降りる。チラリと振り返ると、申し訳なさそうな顔をしたピーニャがアオイを見つめていた。力尽くで押さえつけて噛みついてきた時とは全く別人だ。
待たせてはいけないと慌ててドアを開けると、そこには見慣れた友人が立っていた。
「うっす、アオイ」
「ボタン……」
どうしたの?とアオイが聞く前に、ボタンが続けて話し始めた。
「アオイ、それどうしたん?」
「えっ?あっ……」
咄嗟に跡を手で隠したがもう遅い。ボタンは声を潜めてアオイに問いかける。
「……何があった?話せるところだけでいいからウチに聞かせて」
そう声をかけたアオイの背後に大きな影。
「よっ、マジボス……じゃなくてボタン」
「え?なんでピーちゃんがここに?」
思いもよらない人物の登場にボタンは困惑する。
「ちょっとアオイ君に呼び出されててさ……ボタンは?」
ピーニャはそう言いながらアオイの乱れたままのネクタイを整える。引っ込める手でツ……と噛み跡の箇所をわざとらしくなぞられれば、何があったか察しがつく。気まずさで視線を忙しなく動かしながら、ボタンは口を開いた。
「や、授業で分かんないとこ聞こうと思っただけだから……他あたるわ……」
「そう?じゃあね」
申し訳程度に手を振りながらドアを閉め、ボタンは駆け出した。
とんでもないタイミングで訪ねてしまった。仲が良いと思っていた2人がそこまで進展していたなんて知らなかった。いつの間にそこまで……ああもうウチのアホ!電話の1本でも入れれば水を差す事もなかったのに!
そんな若干の勘違いを残しつつ……