幕間
「…それで、生徒に化けて誘拐してまで話したいことって何?」
ブルーベリー学園…ではなくエリアゼロの管理棟。そこの一室に「私たち」はいた。いつものようにテラスタルの調査をしていたところ、生徒に呼ばれて素直についていった。…そしたら読んだ生徒は並行世界の自分だったという話だ。
目の前にいるもう1人の私は、季節に合わない白いマフラーに黒いワンピースを着ていてどこか不気味というか不思議な雰囲気を漂わせている。…いくら同じ人間とはいえ、いや同じ人間だからか居心地が悪くなって視線を彷徨わせるとにこりと笑った
「チェスでもしながら話そうか」
「……わかった」
チェスはお互い無言のまま進んでいく。同じだから拮抗しているんじゃないかと思っていたけど、実際そんなことはなかった。…段々追い詰められていくような心地がして、少し焦る。
「…焦ってるでしょ。」
「う…」
「そりゃそーだよ。オモダカさんに来てもらってチェスをする暇人と、仕事にコンテストに色々してるワーカーホリックじゃ前者の方が上手いに決まってるじゃん。才能は同じだしさ」
楽しそうに笑っているけど、内心は読み取れない。けど何かあるのはわかってしまって、ふと駒を動かす手を止めた
「…エリアゼロ、もっと言えば大空洞のこと?」
「正解」
ぴしり、と冷たい音が聞こえたように感じた。ぽつり、ぽつりと彼女は静かに話し始める。その内容は推測でしかなかった…けど、知識と経験上、それだけではすまないことを私はよく知っている。
……だけど、いざそうなった時私は、その方法を取れる?賭けるような真似はそう何度もしたくない。自分が守って来たものを自分の手で壊したくなんてない。
sそれを読み取ったか、あるいは推測したか。彼女は笑って「だったら私がやるよ」と言い出した。
「同一人物なんだから、わかるでしょう?」
「……わかってるよ。でもそれでいいの?」
「いいのいいの。暇だし、私はもう失うものあまりないからね。何かあればエリアゼロと2回目の心中になるだけだよ」
「…そう。じゃあ頼んだよ」
「任せてよ、しっかりやってくるからさ。…あ、チェックメイト」
「嘘でしょ」
見れば本当に詰みだった……まさかこんなにすぐに負けるなんて。ちょっと悔しい。だけど、それくらい彼女は一人で過ごしてきたんだろうな。
……それはそれで、居心地のいいものなのだろうけど。自分だし。
「じゃ、またその時に」
「またね」
ふと振りむくと、こちらに背中を向けて歩いていく少女の傍らには通常より遥かに大きい相棒がいた。