布の天井
…あいつ、何でこんなところで寝てるんだ?誰も気づいてないのか? …なら持って帰ってもいいよな!…ここは何処だ?自室の天井ではなく、布を組み合わせたような…それこそテントの様な場所に居る。覚えている限りの昨日の行動を振り返っても、この様な場所に居る理由にはならない。
取り敢えず上半身を起こし、自らの体を弄り端末を取り出す。端末を見るとロドスに居ることになっていた。という事は、ここは彼女の巣である可能性が高い。ならばそこまで焦る必要はない。あの山積みの仕事から少し逃げても罰は…
急いで外に出よう。
仮にも(規律違反だが)彼女の巣だ。善意で泊めてくれたのだろう。仕事もそうだが、彼女に感謝も伝えなくてはいけない。立ちあがろうと、右手を近くの地面へとつく。
…柔らかい。手をついた先を見るとこの巣の主であるルナカブが居た。
「…んぅ…」
…確認の為、自らの服を観察する。見た目上に問題はない。だが少し動きがぎこちない。人に着せられた様な印象を覚える。彼女…ルナカブの服は至って普段の変わらない様に見受けられる。
だとすると、ルナカブの言っていた様に、『見張りがない物は勝手に持っていっていい』という話の通り『偶然通りかかった』彼女に持ち帰られた、と考えるのが自然だろう。服が巣の一部になっていないのは幸運かもしれない。
何はともあれ、規律違反の巣についての話と、介抱してくれた事の感謝をする為にルナカブを起こさなければならない。
そう思って少し身体を寄せ、手を伸ばすと「誰だ!…ドクターか」と飛び起きた。馬乗りになられたが。
こんな体勢だが、伝えたい事を伝える。「泊めてくれてありがとう?気にするな、もうお前も群れの一員じゃないか!」
──それはどういう…
「覚えてないのか?うーん…簡単に言うとお前と番ったんだ。本当に覚えてないのか?」
覚えがないが、ルナカブがこんな嘘を吐くとは思い難い。思考から半ば逃げ出していると、「こんな所でぼーっとしてていいのか?仕事があるんじゃないか?」と言われてしまった。そうだ。ここで惚けている暇はない。
急いで自室に戻るドクターを軽く眺めながら、ルナカブは水浴びへと向かった。