崎守×一条姉
「……少し、そばにいていただけませんか」
「ヴッは、はい、大丈夫です。万里さんが満足するまで俺はここにいます」
思わず胸を抑えて蹲りそうになるのを堪え、横になっている彼女、一条万里の近くの椅子に腰を下ろす。
「ありがとう、ございます……」
普段の凛としてよく通る声はなりを潜め、弱々しい。
「(それは、そうだ。誰だって体調不良の時は心細くなるものなんだから)」
だから、自分が特別なのではない。ただ、ちょうどよく自分が近くにいただけ。勘違いするなと自分を戒めながら彼女に接する。
「万里さん、喉は乾いてませんか?もし必要なものがあれば言ってくださいね」
「いえ……お気遣いなく」
しまった、と思った。体調が悪い人にわざわざ体力を使わせるのは不味い。
「あっ、ごめんなさい万里さん。無理に話さなくても大丈夫です。話すのが辛ければ」
「でしたら、崎守くんの話を聞きたいです。なんでも、いいので」
「俺の、ですか?……分かりました。じゃあ、そうですね。これはこの間香取隊の若村さんと話してたことなんですけど……」
「────って言ってまして。そんなことあるかー、なんて話してたんですけど……万里さん?」
どうやら眠ってしまったらしい。口元は緩く弧を描いている。
「……良かった。そうだ、安寿さんに交代した方がいいよな」
女性の寝顔をまじまじ見続けるのも悪いだろうと、彼女の妹である一条安寿へと声をかけるため、席を立つ。安寿さんが看病してくれるうちに色々買い揃えておかなければ。
「俺は、あなたが寄りかかってくれるくらいに強くなります」
ぼそり、と誓いのように呟いてきびすを返す。いつか、憧れの人に並ぶために。