山の夜は早い

山の夜は早い


そろそろ日が落ちてきた。夏は本来もっと日が落ちるのが遅いものだが、なにせここは山の中。年がら年中夜が来るのが早い。

「どこで何やってんだ吟…」

息子の名前を呟きながら俺は上着を着て、近くの木の幹に猟銃の試し撃ちをする。

弾は幹に書かれた円のど真ん中をぶち抜いた。

「おー!今日も絶好調!」

良い気分になったのも束の間、心にじわっと嫌な予感広がった。嬉しいのやら悲しいのやら、俺の予感は的中率100%だ。

「ったく…世話の焼ける息子だな」

吟がいつも通る獣道をなぞる。俺にとっては普通の道となんら変わらないが、まだ幼い吟にとってはそうではないはずだ。

動物と仲が良いとはいえこの山の全ての動物と仲良しこよしな訳でないし、あのよたよた歩きでは進むのもやっとだろう。これからは泣いて拒否されてでも止めるべきだな。

「……チッ」

嫌な予感は当たった。少し開けた斜面に人間がいる。…おそらく3人。

「まさかこんな山に子供がいたとはな…」

「どうしますか?」

「…子供がいるってことは保護者も近くにいるはずだ もしもそいつに見つかると面倒なことになるな」

手足を縄で縛られ、口を布で塞がれた吟はブルブル震えていた。どうにかして布を噛み切ろうと必死に口を動かしているが、うまくいかないらしい。

「この近くには大型の動物も多い そいつらの前に放り


銃撃音は3回。全ての弾丸が密猟者どものこめかみをぶち抜いた。


俺の息子を、光を奪おうとしたんだ。お前らに生きる価値はない。そもそも人間に生きる価値はない。

やっぱり人間は滅ぶべきだ。こんな奴らが生きていたら他の生物の邪魔でしかない。俺含め全員今すぐ殺してやりたい。

せっかくなら吟の恐怖をお前らにも味合わせたいところだが、俺は今すぐお前らに俺と吟の前から消えてほしかった。

それでも目の前に嗚咽を漏らしながら泣きかけている吟がいなかったらどうなってたか、今の俺には分からねぇ。

おまけに今日の俺は絶好調だ。一瞬で逝けて良かったな。


「お前ら、めちゃくちゃ運が良いな」


夏とはいえ夜は冷えるので吟には俺の上着を貸してやった。最後まで吟は泣き出さなかった。まだ幼い割に肝が座ってやがる。流石は俺の子だ。

「ねぇ」

「どうした?吟?」

「あの人たち、どうするの?」

「とりあえず荷物は全部回収。んで残りは薪代わりにする。残った骨は偽墓に埋める。」

「………」

…どうしてそんなに悲しそうなんだ?お前を酷い目に遭わせた奴らだぞ?あ、

「わかった!確かにあんなゴミどもの持ち物とか使いたくないか!あと薪代わりにしたら有毒ガスとか出てきそうだもんな!そりゃあ確かに俺の配慮が欠けてた!すまん!」

吟はまだ俯いている。

「おいおい、何なら喜ぶんだよー」

「…………」

「うーん…人肉食べるか?不味いぞ?」

「嫌だ」

「……まあいいや」

前から思っていたが、俺と吟では考え方の根本が食い違ってるらしい。血がつながってないとはいえ、俺が赤ん坊の頃から育てた息子なのに、不思議な話だ。

「今日のメシは朝獲れ猪肉だぞ〜」

「……ん」

少し顔が明るくなった。やっぱり三代欲求は強い。

いいさ、お前はそのまままっすぐでいてくれ。

世界でたった一つの価値ある存在でいてくれ。

俺の、唯一の光のままでいてくれ。


くれぐれも、俺みたいになるんじゃないぞ。




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