届けるのは魂の調べ後半戦
モテパニ作者拓海「…全部思い出した」
目を覚ました拓海は静かに起き上がる。
自身から粒子が出ていても驚かない、もう全てわかっているからだ。
記憶をとりもどす度底知れない不安があった。
自分が偽物であるという予感があったからだろう。
全てを思い出した、いやここにいたってようやく定着したと言うべきか。
そのきっかけは好きな女の子。いや好きという情報を与えられた子の笑顔がエレンの笑顔と重なったのだ。
顔立ちはさして似ているわけでもない二人の笑顔が重なった理由は…
拓海「…流されやすいみたいだな、俺は」
記憶が無くても好きな子がいるのはなんとなくわかっていたというのに。
拓海「このまま気を失ってる間に消えてれば…」
拓海がその言葉を言い切る前に扉が開く、入ってきたのは楽器ケースを背負ったエレンだった。
エレン「目が覚めたのね。よかった、無理矢理起こさないといけないかと思った」
拓海「エレン…実は俺は…」
エレン「コピーのこと?もう知ってる」
拓海「ッ!?…そうか」
エレン「ごめん時間がないの。さっさとついて来て」
拓海「え…?」
〜〜〜
連れてこられたのは調べの館を出て少し歩いた草っ原。
ちょうど拓海が現れた場所だ。
そこにいたのは響、奏、アコ、そしてハミィ。
拓海「みんなは…」
エレン「知ってるわ」
拓海「そうか」
拓海は理解した、みんなお別れをしに来たのだと。
拓海は嬉しかった。
自分が人間未満だと知ってショックを受けたが、それを知っても彼女たちは自分を友人と認めてくれていることに。
拓海「ありがとな、わざわざこんなふうに集まってくれて」
エレン「なに言ってるの?まだお礼を言われる事はしてないわ」
拓海「いやこうやって集まってくれただけで…」
言い終わる前に楽器ケースを手渡される。
そしてエレンは三人に並ぶと。
エレン「だからまだって言ってるでしょ。みんな!いくわよ!」
四人は全員並び何かを掲げる。
『レッツプレイ!プリキュア•モジュレーション!』
彼女たちは掛け声とともに…!
メロディ「爪弾くは荒ぶる調べ!キュアメロディ!」
リズム「爪弾くはたおやかな調べ!キュアリズム!」
ビート「爪弾くは魂の調べ!キュアビート!」
ミューズ「爪弾くは女神の調べ!キュアミューズ!」
『届け、四人の組曲!スイートプリキュア!』
拓海「ぷ、プリキュア!?お前らプリキュアだったのか!?」
メロディ「え!?プリキュアを知ってるの?」
リズム「メロディ、今はそれどころじゃないよ」
ミューズ「ええ、急ぎましょう」
変身したメロディたちに驚く拓海、しかしメロディたちはそんな拓海を放置してメロディ、リズム、ミューズの三人が手を重ねる。
『プリキュア・パッショナートハーモニー!』
三人の重ねた手から眩い光線が放たれそれは空へと消える。
メロディ「もう一回!」
リズムミューズ「「ええ!」」
拓海「いったいなにを…?」
ビート「あんたは私たちが放つハーモニーパワーで存在を維持してる。だからあんたの存在を少しでも長く保たせるためにハーモニーパワーを撃ち出す事で周囲にハーモニーパワーを散らしてるのよ」
拓海「ッ!?それでどうにかなるのか…?」
ビート「無理みたいね。周囲に散ってるハーモニーパワーはみんなが実際使ってる分に比べて数十分の1あればいいほう」
拓海「じゃあなんでこんなことを…?」
ビート「そのケースを開いて」
エレンから渡されたケースを開く、てっきりエレンのギターが入っていると思いきや、そこに入っていたのはベースだった。
ビート「それでも少しの時間を稼ぐ事はできる。拓海!私とセッションしなさい!」
〜〜〜
クレッシェンドトーン『ハーモニーパワーを与えられないなら自らが作り出せばいいのです』
エレン『そんな事ができるの!?』
クレッシェンドトーン『本来ならあなたたちプリキュア以外には難しいことでしょう。ですがあなたたち、いえエレン。あなたと拓海が真に心を通わせれば、可能かもしれません』
〜〜〜
その助言に従いビートは己の魂であるラブギターロッドで拓海とセッションする事を選んだ。
最初は戸惑う拓海だったが、すぐにエレンに合わせる。
この一週間ベースを弾いていなかったが、エレンの演奏はその間ずっと聞いていた。加えてこの体は覚えているようだ。
拓海「ッ!」
自覚する度に嫌になる。
この技術だって自分のものではなく、本物の真似をしているだけだというのだから。
ビート「演奏乱れてる!どうしたの!?」
拓海「エレン…俺のためにみんな一生懸命なのはわかってる。けど、全て知ってから申し訳なくて仕方ない。偽物の俺なんかのためにみんなの手を…」
ビート「知るかそんなの!」
拓海「ッ!?」
ビート「私たちみんなあんたのために行動してる!あんたの本物なんて知らない!だって会った事もないんだから!!!」
拓海「ッ!」
エレンの心からの叫び、そして魂の演奏が拓海の心を大きく揺さぶった。
ハミィ「ニャニャ!息がすごく合ってきたニャ!これはー!」
エレンと拓海の間を光が照らす。
そしてその光が散った後、拓海から溢れる粒子は無くなっていた。
メロディ「これって!」
リズム「うん!」
ミューズ「上手くいったんだ!」
消滅の予兆が消えた。
拓海はハーモニーパワーを作り出す事ができたのだ。
ビート「拓海!」
拓海「ッ、ああ!」
パァンッ!
拓海は差し出された手を叩き合った。
上手くいった証、ハイタッチだ。
クレッシェンドトーン『見事です。拓海からハーモニーパワーを感じます。彼はプリキュアではないので皆に比べれば小さなものですが、彼が存在を保つには充分でしょう』
祝福しあう中でヒーリングチェストから声がした。
ビート「ありがとうクレッシェンドトーン」
拓海「これは?」
ビート「拓海を助けるのに知恵を貸してくれたのよ。それで拓海、これからどうする?」
拓海「これから…」
拓海は全てを思い出した。
しかし自分は本物の品田拓海のコピー。
自分が帰る場所には本物がいる場所だ、自分に戻る場所など…
ビート「行くとこ無いならここにいなさい」
拓海「ッ!」
ビート「この先どうしたいかはここでゆっくり考えなさいよ。時間はあるんだから」
ビートのその台詞に他のみんなも笑顔で応えた。
拓海は嬉しさが込み上げる。
そして嬉しさと同時に湧き上がる感情、これは…
拓海「なあエレン」
ビート「ん?」
拓海「俺はエレンが好きだ」
ビート「…、はぁっ!?」
リズム「きゃーーー!!!」
それは愛しさだった。
まったくの不意打ちにビートは面食らう。
ビート「え?あ、その、えぇ?」
拓海「返事は急がなくていいよ。これからも一緒なんだし」
ビート「〜〜〜///」
リズム「ねえ見た!?今の見た!?」
メロディ「はいはい見た見た」
ミューズ「こうなるって思った」
意図せず生まれた存在はここに仮初めであるが命として根付いた。
その命がこの先どんな物語を紡ぐのか。
それはまだ誰も知らない。