届かぬ光の名は
※ベラミー→サラダルフィ、捏造過多
天候は晴れ、眼前には雲で出来た海。
頭の上にはどれだけ跳ねようと届かない、まるで宝石をばら撒いたかのように輝く星空。
それを見た時、間違いなくおれの価値観はものの見事にひっくり返ったのだと言えるだろう。
──だがそれでさえ、あの時頬に受けた拳の衝撃には程遠かった事を、おれはよく覚えている。
***
「こんなケンカ買う理由がねェよ!!!」
困惑と拒絶の入り混じった叫びが聞こえる、……そうだ、おれだけに向けられるその目が見たかった。
おれがどんな想いを自分に向けているか知っている上で、おれを「友達」と呼ぶ女。
だからどうあっても、この最期のケンカだけは買ってもらうしかない。
「構えろ臆病者! お前がもしパンチの打ち方を知ってんならなァ!!!」
喉が張り裂ける勢いで叫ぶ、殺すつもりで飛び掛かる、視界の端であいつが拳を構える姿が見えた。あぁ、──嗚呼。
それでいい、これでいい、……これがいい。どうせ終わるなら。
あの忘れられない衝撃と共に、このみっともなくて届かない想いと一緒に。
「あばよ"麦わら"ァ!!!」
叫ぶ、飛び掛かる、――少し遅れて、頬にあの衝撃。
安堵と興奮と共に、あいつの顔を盗み見て、目を見開いた。
悔しそうに歯を食いしばり、空を仰ぐ。手を強く握りしめ、怒りの咆哮をあげたその姿が──何よりも美しく見えて。
瞬間、どうしようもなく理解する。
この女には、きっと誰も手が届かない。
***
あの戦いの後。
おれは結局終わることなく、手厚い治療のお陰で回復しつつあった。
麦わらとはあれ以来、二人きりで話すことはない。言葉を交わすことはあっても、あいつの仲間が目を光らせてくるからだ。
…麦わら、そう麦わらのルフィだ。以前はその名を聞くだけで身体中を得体のしれない熱と寒気が巡ったものだが今はそれがない。
ただ穏やかで静かで心地好く、……欲を押し付ける事も出来ず、ただただその存在の幸福を願える。そんな感情。
これが一体何なのか、おれはまだ直視できないでいるけれど、きっと見つめたところで叶うはずもない事も理解してしまっている。
空を見上げれば、どれだけ跳ねようと届かないほどに高い空に星が散っていた。