少年院にて

少年院にて






「──宿儺!」


伏黒の合図と、虎杖の声に呼ばれて肉体の主導権代わる。変わった瞬間、斬撃が宿儺の頬を掠めた。


「あっっぶなっ!! 小僧の身体でなければ死んでいたぞ!!?」


情けない声をあげる宿儺は、それでも身体を反転術式で治し、目の前でぴょんぴょんと飛び跳ね己を煽る呪霊を観察する。

なんだアレ。めっちゃ性格悪いんだが、ホントに俺の一部か?

相手を格下と侮り遊んでいる者の動きに、宿儺は舌打ちして前髪を上げた。ぶっちゃけちょっとイラッとしていた。なんだあの腹立つ動き。

はー…と盛大なため息を吐いて、改めて相対する呪霊を見る。


(受肉した時もそうだったが、生前の俺の呪力量を明らかに大きく上回っている。俺はそんな縛りを結んだつもりは無いし、そもここまで遺す気も無かったのだが…破壊不能になっている時点で察するべきだった。不覚、不覚)


軽く印を結べば、腹立つ動きの呪霊は腕と脚っぽいところを切断されてパニックに陥る。魚のように跳ねながら回復する姿はなんとも滑稽だ。


「皮肉なことよ…死後、適当に放置した己の肉体が勝手に呪いを集め、結果として生前よりも強くなるとはな。本来であれば、俺はお前の足元に及ばんか…一矢報いるか、そのぐらいの凡夫であったはずだ」


回復しきる前にもう一度切断する。

さっさと終わらせることは可能であろう。しかし、ここでちょっとでも調節を身につけておかねば、あとからヤバいことになる気がする。魑魅魍魎の千年前を生き抜いた者の間は伊達では無い。


「莫迦みたいな呪力量の指2本、そして小僧の肉体。…どれ、生前は無理だったアレも今ならできるか」


ギィギィと耳障りな声で鳴く呪霊から視線を離さず、かつて呪いの王と呼ばれた男は印を結んだ。


「領域展開──『伏魔御厨子』」


受肉後にずっと過ごしていた生得領域─自分の生得領域がこんなに物騒であることにいまだに納得はしていないが─が現れ、呪霊を切り刻んでいく。隙を見て接近、核となっている指を引っこ抜けば、呪霊はあっという間に消滅した。

余談だが宿儺の人生において領域展開が成功したのはこれが初だったので呪霊を切り刻む間内心では飛び跳ねるレベルで喜んでいた。流石に飛び跳ねることはしなかったけれども。アラサー(アラウンドサウザンドの方)が飛び跳ねて喜ぶとか、一体どこに需要があるんだという考えの元である。

引き抜いた指を摘み上げて観察し、宿儺は後悔した。


(見なければ良かった…我が肉体、というか屍蝋か…自分ながら気色悪いしとてもじゃないが食う気も起きん… 小僧はコレを2本も?肝が据わりすぎではないか??阿呆か??? 食うときだけ変わってくれんか…)


「小僧!終わったぞ! ……小僧?」


呼びかけても反応は無い。はて、と考え、合点がいった。それも最悪の。


(まさか出てこれないとは…… 先程の縛りか!!?確かに不完全であった!!ということはこれを飲み込まねばならんのか!!?俺が!!?)


「小僧〜!頼むから変わってくれ!どう見ても食えるモノでは無いんだが!!もしくは食った後に口直しを所望する!!小僧〜〜!!!」


空に向かって嘆願するその姿は、仮にも千年前に呪いの王と呼ばれたにしては無様だったが、本人もそこは自覚済みだ。

千年超えのジジイが二十歳満たない小童に頼るなど情けない?知っとるわボケ。こちとら凡夫だぞ。の精神である。

何が悲しくてクソ不味い(小僧曰く)己の死骸なぞ食わねばならんのか。生憎とそんな趣味は無い。

生前そんな趣味があると勘違いされたことはあるけども。

うだうだ言っても仕方なし。どうせ小僧が出てくるまでは時間がある…と宿儺は意を決した。決したくなかったけど。

目を瞑り、出来るだけ喉の奥の方に指を押し込み、飲み込む。入るかどうか不安だったがなんとか嚥下した。


「〜〜〜〜っっっまっっず!!!!!」


口元を抑えながらドスドスと近場の壁を叩く。力加減が出来ずうっかり破壊してしまった。ぅわ小僧の身体っょい。

持っているときは気づかなかったが、口の中に広がる腐臭、そして灰汁という灰汁を煮詰めたようなエグ味が喉の奥から迫り上がる。喉越しも最悪だった。爪はつっかかるし指の付け根もつっかえる。それに無駄にデカい。せめて縦に半分くらいに切って欲しい。よく詰まらせなかったものだと己を褒めたい。


(小僧は何を考えてこんなものを2本も??阿呆か?阿呆なのか??いやそもそも俺が死体など遺さなければよかったなすまん小僧…)


帰ったらチョコミントアイスが食べたい。

千年前に呪いの王と呼ばれた凡夫は、唯一の心の友であり、肉体の同居人であり、最近ちょっと孫のように感じ始めている小僧を思い出しながら天を仰いだ。


⭐︎小僧の同級生にびびって心臓抜いちゃうまであと───

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