小鳥遊ホシノと夢の残骸
小鳥遊ホシノ率いる5人はシャーレの先生の助けを借りてカイザーコーポレーションと敵対し、ゲマトリアの黒服の暗躍を乗り越えて、連邦生徒会にも正式な部活動としても認められていた。
アビドス高等学校。
その一室にて、今日も今日とて廃校対策委員会の5人は議論を交わしていた。
「だから、これを買いあさってから高く売り捌けば、差額で大金を設けることができるのよ!」
「あはは……セリカちゃん、転売はやめておいた方が良いと思うよ。怒らせるだけだし」
「そもそも5人で数量限定の商品を買い占めるのは現実的じゃないと思います~」
「ん、転売は死すべし」
「うう、これもだめか。良い考えだと思ったんだけどな……」
3人に現実を突きつけられ、セリカは涙目で己の意見を取り下げた。
「うへぇ、皆元気だねぇ。おじさんはもう限界だよ~」
「ホシノ先輩も! 寝てばかりいないでちゃんと会議に参加して!」
「でもさセリカちゃん、『春眠暁を覚えず』っていうじゃない? おじさんの席は日差しがあったかくって、とっても眠くなるんだよねぇ」
「暦の上ではもう初夏に入るころですけど?」
「アヤネちゃ~ん、それは言わないお約束でしょ~」
「やっぱりここはアイドルですよアイドル。実は私、ヒフミちゃんにお呼ばれしてるんです。クリスティーナだお☆ だおだお?」
「ん、新しくできた銀行の見取り図や警備員の配置も手に入れた。いつでも行ける」
「お、ノノミちゃんもシロコちゃんも乗り気だねぇ。じゃあおじさんもバスジャック計画練り直した方がいいかなぁ」
「……いい加減にしてくださ~い!」
ふざけた提案をしたことで堪忍袋の緒が切れたアヤネが、いつものようにちゃぶ台をひっくり返した。
今回も会議は踊るだけで進展はなかった。
黒見セリカ、奥空アヤネの2人を加えた新生アビドス廃校対策委員会は、いつもと変わらぬ日常を過ごしていた。
――ピロリン
「……ん?」
ホシノのスマホがモモトークの着信を告げる。
机の下で開いてみると、それはハナコからで、写真も添付されていた。
自撮り画像で笑顔を浮かべるハナコと、他3人。
そのうちの1人はホシノも知るヒフミだった。
『友達ができました♡』
「……えへへ、良い写真だねぇ」
ホシノが知らぬ間にハナコが『砂糖』を摂取していたことを知ったときは絶望したものだ。
渡した覚えもなく、だが症状は間違いなく砂糖の影響を受けている。
入手経路を聞いた時は、衝動的に首を搔き切りたくなったほどだ。
結局逃げるなんて甘えたことができず、責任を取るためにハナコが暴走したりしないように様子を見ていた。
だがその彼女が今こうして友達を得て、砂糖も摂らずに無理のない笑顔を浮かべられている。
(こんなに幸せでいいのかな)
未だ味覚は戻っていないが、こうして未来に希望が持てることを知って、ホシノは幸せだった。
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砂狼シロコの失踪。
虚妄のサンクトゥムタワーの出現。
砂漠で暴れるデカグラマトン・ビナーの討伐。
宇宙空間に浮かぶアトラ・ハシースの箱舟占領戦。
プレナパテス決戦。
目まぐるしく動き回る激動の日々が終わり、失踪していたシロコも救出することができた。
奇跡ともいえる綱渡りを踏破し、誰も欠けることなく空が赤く染まる災厄は幕を閉じた。
これからは新たな日常が幕を開ける。
ほんとうに?
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黄昏に染まる教室で、ホシノは1人でニュースを見ていた。
『ここD.U.では破壊された建造物の修復が行われています。ではここでインタビューを――』
『廃墟となったスランピア、ここには今でも出るという噂がまことしやかに語られていて――』
『連邦生徒会は事実を隠蔽するなー! 我々は断固として抗議するー!』
『さあ良い子のみんな、ミレニアムのワクワク実験教室の時間だ! 今日のテーマは――』
『連邦生徒会会長代行となった不知火カヤ氏。その一日に密着し、新たな一面に迫る――』
そこまで流し見したところで、ホシノはうんざりとしてスマホを消して机に放り投げた。
ホシノが欲する情報を流すニュースは存在しなかった。
【みんな酷いよね、誰もアビドスのことなんて知らないふりだもん】
「黙ってよ、ユメ先輩」
頭の中で反響する声が、ホシノに冷たい現実を突き付ける。
聞きたくない、見たくないと思っているものを引きずり出し、さあどうだと言わんばかりに目の前に差し出すのだ。
会いたくて、同時に会いたくない愛しい先輩の姿を、幻覚が模って目の前に現れる。
【あはは、もっと声を上げなよホシノちゃん。それとももう声を上げる気力すらなくなったの? 私を見捨てた時みたいに】
「黙って」
【怖い言い方してもダメだよ。そんなの何の意味もない。このまま手をこまねいているだけでいいの?】
「お願いだから 止めてください」
【今度はしおらしく懇願? ポスターを破った時のあの傲慢さはどこに行ったの?】
「……」
ああ、まただ。
脳裏に反響するこの声は、ホシノがどんなに止めろと願っても止まることはない。
この声が囁くのは決まって、どうしようもない悩みを抱えている時だ。
正確にはどうにかする手段は既にあって、でもそれをしてはいけないと葛藤している時だった。
【砂糖を広めようよ。それでホシノちゃんの悩みは解決するじゃない】
「だ、ダメだよ。それは……」
砂糖を使ってしまえばどうとでもなることを、ホシノは理解していた。
けれど麻薬を広めることがどれほど罪深いか、そのブレーキはホシノの匙加減でしかないのだ。
頭の中で響く声が、麻薬で他者を苦しめることを良しとしている。
自分の欲望のためには他人などどうなってもいいのだという、醜い自分の本性がさらけ出され、心を鑢で削られるような苦痛がホシノを延々と苛んでいた。
反論しようとしても言葉にならず、視線をずらして窓から外を見る。
そこには広大な砂漠が広がっていた。
一度は夢想した莫大な富の源泉。
しかし今では悪夢の温床でしかなかった。
ホシノにはこれをどうすることもできない現実がただそこに広がっていた。
もう半年近くも前になる。
カイザー、黒服とのやり取りを経て、対策委員会は正式な部活動へと昇格した。
シャーレの先生の協力もあって法外な利子も無くなり、あとは少しずつ借金の元金を返していけばいずれはどうにかなるのだと思っていたのだ。
けれど、世界はそんなには甘くはなかった。
虚妄のサンクトゥムタワー、ビナー、アトラ・ハシースの箱舟、そしてプレナパテス。
誰もが全力を出して駆け抜け、一連のトラブルを乗り越え奇跡を掴み取った。
細い細い綱渡りを踏破して、誰も欠けることのない夢のようなハッピーエンドに辿り着いたのだ。
でも希望に満ちた終わりのその先には、夢から覚めた現実が横たわっていた。
戦いを終えて疲労に塗れたホシノの視界には、何も変わらぬ現状が続いているだけだった。
膨大な利子が無くなっただけで、借金は減っていない。
砂嵐は止まない。
買い取られた街は戻ってこない。
砂は無くならない。
元凶と思われた砂漠で暴れるビナーを倒しても、何も変わらなかった。
ウトナピシュテムの本船は、アトラ・ハシースの箱舟との戦いで砕け散った。
もし本船をカイザーよりも先に見つけていれば、あるいは売って金にかえるか、そうでなくとも連邦生徒会に恩を売り、便宜を図ってもらうこともできただろう。
『はい? ウトナピシュテムの本船? 確かにあれはアビドスで発掘されたものですが、発掘された土地は既にカイザーによって買い取られており、発掘作業をしたのもカイザーと聞いていますよ? 今更その所有権を主張されても困りますね』
恥を忍んで一人で交渉に行ったホシノが頭を下げて頼んだ時、連邦生徒会会長代行の不知火カヤは、つまらなそうに嘆願を切り捨てた。
『たまに居るんですよねぇ、手放した後に価値があると知って、すり寄って来るお金欲しさの恥知らずが。復興資金が欲しいのは分かりますが、アビドスなんて砂に埋もれた場所をどう復興しようというのです? 復興のヴィジョンはあるのですか? そんな人のいない場所よりも、復興を優先すべき箇所が他にいくらでもあるのだと、少しでも考える頭があれば分かると思いますが? 廃校手続きくらいならしてあげますから、とっとと荷物を纏めて他の学校に転校したらどうです?』
カヤが放った現実的な一言に、ホシノは頭を上げることもできず、何も言い返せなかった。
人がいない場所よりもいる場所を優先する、当たり前の正論だった。
自分だけを優先して欲しいというホシノの嘆願は、まさに恥知らずに相応しい。
結局ホシノは、羞恥と惨めさで顔を赤くして、すごすごと逃げ帰るしかできなかった。
だがそれでも麻薬に頼らず済む、ホシノが縋るしかない最後の賭けだったのだ。
ニュースを見れば分かる。
誰もアビドスなんて死んだ土地に興味なんて無い。
ホシノたちはずっとこのままなのだろう。
【ホシノちゃんたちの頑張りは凄かったよ。でもね? 奇跡の大安売りをしたんだから、もう奇跡は売り切れなんだよ】
そう、もう奇跡に頼ることはできない。
ホシノは三年生だ。
卒業まであと半年もない。
「もう……砂祭りを開催することはできない……ユメ先輩の願いも、叶えられない」
タイムリミットだ。
一度は抱いた希望、それが手の届かない物だったと知ってしまった。
絶望へ落ちていき、世の無常に打ちひしがれるホシノ。
【私との約束をホシノちゃんは破るの?】
「ごめん、なさいユメ先輩……ごめんなさい」
【何に謝っているの? 謝れば約束なんてどうでもいいの?】
「ごめんなさい、ごめんなさい」
幻覚に向かって平謝りし続けるホシノ。
約束すらまともに守れないクズの自分は、こうすることしかできないのだと這い蹲って頭を下げ続けた。
その時、頭を下げた勢いで、ホシノのポケットからポロリと飴玉が零れ落ちた。
音を立てて転がって行く飴玉を目で追ってしまい、その瞬間を幻覚が見咎めた。
【浅ましく砂糖を欲するホシノちゃんには、できることがまだあるでしょう?】
思わず手に取ってしまったそれを、ホシノは震える手で包み紙を破り捨てて口に放り込む。
途端に広がる甘さと幸福感に、一瞬前の出来事すらどうでもよくなるような陶酔。
囁く声が蛇のように絡みついて、ホシノを誘惑する。
【ホシノちゃんにはもうそれしかない。砂糖こそが砂漠に残った最後のダイヤモンドなんだよ】
「あ――あはははは、そうか、そうだったんだね!」
普段とは異なる高笑いを上げるホシノ。
幻覚もそれを見て満足そうに笑った。
「ようやくわかった、お前はユメ先輩じゃない! 消えろぉっ!」
幻覚に向けて、ホシノはショットガンを撃った。
弾丸は過たずユメの幻覚を撃ち抜き、その後ろの壁を貫通していった。
「フーッ、フーッ……アビドスには、まだノノミちゃんやシロコちゃん、アヤネちゃんやセリカちゃんがいる……それを差し置いて、麻薬なんかがダイヤモンドだって? ユメ先輩がそんなこと言うはずないだろうが!!」
力を使い果たして安いパイプ椅子に座り込んだホシノは、掠れた声を上げて叫ぶ
5発全弾撃ち放ったあと流れるように装填を済ませたホシノは、その銃口を自らの口腔へと押し当てた。
「ごめん、ユメ先輩」
一切の躊躇なくホシノはトリガーを引いた。
弾丸が口腔内を蹂躙し、そのまま脳天まで貫通する勢いだった。
だが……
「こんなに……硬かったっけ、私……」
口を開けたホシノの口から、ボロボロと散弾が零れ落ちる。
唾液に塗れて光るが、そこに血の一滴すら付いていない。
全力の神秘を籠めて放ったはずの弾丸が、薄皮一枚すら破けずに終わってしまった有様だった。
【うふふふ、あはははは!!! ダメじゃないホシノちゃん。命は尊いんだから、自殺なんてしようとしちゃいけないよ?】
「おまえは……」
死ねなかったホシノを嘲笑する声が響く。
幻覚が再びユメの姿を模り、甘ったるい声で綺麗事をのたまう。
【即座に死を選ぼうとするなんて判断が早いけど……ホシノちゃんは浅はかだよね。純度を下げて摂取すればなんとかなる? そんなこと誰も保証したことないのにね。砂糖は体の中で蓄積していくんだよ。勉強が得意なホシノちゃんなら、このことは分かるよね?】
髪や爪が伸びるように、古くなった皮膚が垢となって剥がれるように、体は常に新しいものと入れ替わっている。
それでも代謝されず、重金属のように体内に蓄積していくものもある。
【もう一年以上ホシノちゃんは砂糖を食べているね。その間どれだけ砂糖を食べた? 5kg? それとも10kg? もっとかな? 体重が変わらないから気付かなかったでしょう? その体はとっくに入れ替わって、変わり果てているということに!】
楽し気に笑う目の前の幻覚をよそに、苦虫を嚙み潰したような顔でホシノは自らの現状を把握した。
どうやら自殺すらろくにできない有様らしいと。
さてどうするか、と思った時、幻覚はぴたりと笑うのを止めてホシノを見つめた。
【アビドスから逃げるつもり? 愛しい後輩を見捨てて】
「な!?」
安い挑発だ、ということは即座に理解した。
素直に砂糖を広めることができないから、槍玉にあげるのを変えただけだと。
けれど、ホシノには見過ごすことができない内容であった。
【大切だって言っていたのに、結局その程度なんだね。ホシノちゃんはやっぱり、自分が一番可愛いんだ】
「ふ、ふざけるな! そんなはずがない。私がみんなを見捨てるなんてこと、二度としない!」
【じゃあ『あのシロコちゃん』のことを忘れたの?】
「あ……」
幻覚はあのアトラ・ハシースの箱舟の中で見たシロコに起きた悲劇を語る。
抗議の声が枯れ、喉からは言葉にならない音がヒューヒューと漏れるだけだった。
【別の世界のみんなは死んでしまって、1人残ったシロコちゃんはあんなことになった。でもそこに砂糖なんて言葉は出てきた?】
「……っ!?」
出てこなかった。
ホシノが別世界の全てを把握しているわけではないが、砂糖なんて危険物が存在していたのなら、あの時のシロコの口から一言もそれが出て来ないはずがない。
【みんなが死んだ。そのことに砂糖は関係ないんだよ。だからホシノちゃんが私の影響から逃れようとアビドスを去るなら、みんなを見殺しにすることに変わりがない】
「そんな、そんなことって……」
【ホシノちゃんが砂糖よりも大事だって言っていたダイヤモンド、砕けちゃうねぇ】
「~~~~~~っ!!」
ホシノは声にならない声で絶叫する。
もうやめてくれと言いたいのに、耳を塞いでも声は脳内へと響いている。
【浅はかなホシノちゃん。無能なホシノちゃん。私との約束を破って、みんなを殺して1人で裸の王様をやるホシノちゃん。本当はどうしたいの?】
歌うように、跳ねるように軽やかな声で幻覚は問いかけて来る。
「わ、私は……」
ホシノが言葉を続けようとした時、ガラガラと音を立ててドアが開いた。
「ん、どうしたのホシノ先輩? さっきから騒がしいけど」
「し、シロコちゃん……?」
「ん」
入ってきたのはシロコだった。
先程から銃声を響かせていたので、気になって来たのかもしれない。
「ん、もう日が暮れる。早く帰ろう、みんな待ってるよ?」
首を傾げて疑問符を浮かべているシロコ。
その顔に、別世界のシロコの顔が重なった。
『ううっ……あああああぁぁぁあああああ―――――っ!!』
別世界のシロコの悲鳴が、ホシノの耳にこびりついている。
『わたしが、わたしのせいで、世界が滅亡した……ごめんなさい、ごめんなさい……っ!!』
――別世界の自分は、ユメ先輩の盾を受け継いでおきながら、誰も守ることができず真っ先に死んだらしい。あまつさえ皆を殺し、シロコちゃんをあんな目に追いやった。無能が。
「……まもら、ないと」
「ん、ホシノ先輩!?」
ホシノの手が、愛用のショットガンへと伸びた。
大丈夫、弾倉にはまだ4発残っている。
――私が、みんなを守らないと。
――今度こそ。
その後、アビドスの土地に4発の銃声が響いた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
「ごめん、ごめんねシロコちゃん、ノノミちゃん、アヤネちゃん、セリカちゃん。ごめんね」
対策委員会の部屋の片隅で、ホシノはショットガンを抱えて謝罪を続けていた。
どうすれば良かったのかなんて分からない。
それでもこうするしかなかったのだと自分の判断が告げていた。
『対策委員会の四人を監禁し、全ての災厄から自分が守る』
まともではない。
既に発狂した考えでは、これ以上の最善策は思いつかず、それしか自分にはできないのだとホシノは諦観していた。
膝を抱えて蹲るホシノに、横から声が掛かった。
「……ここにいたんですね、ホシノさん♡」
「え? は、ハナコちゃん?」
顔を上げたホシノの前に立っていたのは、ここにいるはずのないハナコだった。
「どうしてここに……」
「アトラ・ハシースの箱舟で大きいシロコさんを見た時から暗い顔をしていたので、ホシノさんが心配になって、来ちゃいました♡」
「来ちゃいましたって……だ、ダメだよハナコちゃん! こんなところに居ちゃいけない。ハナコちゃんにはもう友達が、補習授業部の皆がいるでしょ?」
「はい、でも忘れたんですか? 私とホシノさんもまた、お友達だということに」
「それは……」
「傷ついて泣いているお友達の心配をしてはいけませんか?」
ハナコの言葉に、ホシノは返す言葉を失った。
心配してくれることは嬉しい、けれどそれを素直に受け取れない自分がいるのだ。
守るためというお題目で、愛すべき後輩を傷つけてしまった愚かな自分にそんな資格はない、と。
「トリニティには退学届を出してきました。セイアちゃんだって一度勝手にいなくなって心配かけさせたんです、少しは本人にも心配させてみればいいと思いますね♡ 補習授業部のみんなは今も大事なお友達です。でもだからこそ、離れようと決めました♡」
「ハナコちゃん……」
「ホシノさん、私ではだめですか? なんでもします。傍に置いてくれるだけでもいいんです。一緒にアビドスを復興させましょう。ホシノさんの力になりたいんです」
「どうしてそこまで……」
「だって、このままじゃホシノさんは一人ぼっちになってしまいます」
ハナコは補習授業部として友達を得た。
ヒフミ、アズサ、コハル、全て善人で奇跡のような出会いだと信じていた。
己の醜い内側をさらけ出し、それでも受け入れてくれた人たちだった。
彼女たちの傍にもっと居たい、という気持ちは未だにある。
それでも、まだ奥底には残っていたものがあったのだ。
「ホシノさんを一人にさせたくない。なりふり構わず、友達のために全力を尽くしてみたい。それが青春だと思うからでは……いけませんか?」
「ハナコちゃん。何度でもいうけど、今ならまだ戻れるんだよ? 帰る場所もあるのに――」
「いいんです。もうとっくに決断はしました。私はもうトリニティの生徒じゃない。アビドスの浦和ハナコです♡」
「……まったく、思い立ったら突き進むのは、初めて会った時から変わらないね」
ハナコの後戻りのできない決断を受けて、ようやくホシノは顔を上げた。
「うへへぇ……それじゃ、おじさんのことちょっと手伝ってもらおっかな。アビドス復興、やってみよ~!」
「はい♡ どこまでもお供します♡」
守るものが手元にあるのなら、ホシノはどこまでも強くなれるだろう。
そしてそれ以外の存在は、どこまでも比重は軽くなっていく。
それが砂糖を広めるという悪魔の所業だったとしても、もう止まらない。
ホシノが優先順位を決めたのなら、後は突き進むだけだ。
そして、キヴォトスの歴史に永劫残る、甘い砂糖の地獄が幕を開ける。