小さな私、救出大作戦

※トレエフ幻覚※
「あっ…くそ、またミスった…」
「がんばれ…トレーナー…!」
とあるゲームセンターのUFOキャッチャーの前。
成人男性が1人。
さらに斜め後ろにトレセン学園生が1人。
2人の周辺は、並々ならぬ緊張感が漂っていた。
*
今日は買い出しのためトレーナーと一緒に近くのショッピングモールまで出かけた。テーピングとか、爪のお手入れ用品とかを購入。
あとは私のわがままでスポーツ用品店まで連れて行ってもらった。買うことはしないけど、新作のシューズを見るために。NEW arrival と書かれたコーナーには蛍光色の可愛いデザインのシューズがあった。割と派手目のデザインが好きな私は一目見て「いいな」と感じたが、お値段を見てびっくり。さらにこれは足元のパワーが出やすいダート用シューズだと分かり、トレーナーと2人で笑いながらシューズを棚に戻した。
ショッピングは1人でも行くけれど、2人で行くともっと楽しい。何を買うわけでもない私に付き合ってくれたトレーナーには感謝しかなかった。
帰り道、のんびり歩いているとふとトレーナーの足が止まった。ゲームセンターだ。
「そういえば、エフのぱかプチってもう出てたよね」
ぱかプチ…クレーンゲーム景品限定のウマ娘のぬいぐるみシリーズ。
歴代の名だたるウマ娘たちが商品化されてきたけれど、なんと有難いことに私のぱかプチ化も決定したのだった。同期のタイちゃんやシャフ、そしてレースで何度もお世話になったボンド先輩も同時期に発売されている。
自分を模したぬいぐるみが世に出ることが決まった時には、何だかちょっと変な気分だったけど、完成品のサンプルをいただいた時にはそんな気持ちは何処へやら、もう嬉しくて嬉しくてしょうがなかった。
発売前にサンプルはもらっていたから、あまり気にならなかったけど確かに昨日くらいからゲームセンターに登場しているってウマッターで見かけたな。
「ね、ちょっと見に行ってみようよ」
トレーナーが楽しそうに店内をずんずんと進んでいく後ろを私も小走りで付いて歩いた。
ここはぱかプチシリーズを取り扱ってるゲームセンターだけど、こういうところって発売日に置いていないこともあるんだよね。
どうかな、あるかな。あるといいな。
「見て!エフ!あったよ!」
あった。
昨日が発売日だったから、クレーンゲームの中身は私たちのぬいぐるみでびっしり。
興奮混じりでクレーンゲームの前に立つトレーナーがなんだかちょっと幼く見えて、私の心がぽかぽかと暖かくなった。
おもむろに後ろポケットから財布を取り出すトレーナー。どうやら挑戦するようだ。
ちゃりん、と小銭が奥に吸い込まれると、クレーンゲームから軽快な音楽が流れ始める。
トレーナーが操作するクレーンは、私を模したぱかプチの前で止まった。
頭が少しだけ持ち上がる。が、すぐにぬいぐるみはクレーンから滑り落ちてしまった。
トレーナーは続けて100円玉を投入。
同じように頭を持ち上げるものの、クレーンはぬいぐるみを持ち上げることなく落としてしまう。アームの設定が弱いのだろう。掴んでくれる気配は一切無かったが、それでも確実に、ぬいぐるみは投入口から近づいていることに気がついた。
恐らくトレーナーはぬいぐるみを少しずつ前目にずらしていく作戦をとっているようだ。
トレーナーの操作さばきは見事で、順調にいっているように見えた。が、
「あっ」
もう少し、というところでぬいぐるみはあらぬ方向へ向いてしまった。
頭を持ち上げようにも、クレーンの可動域からは届かないところへ行ってしまい動かせない。
足を掴んでみたり、タグの輪っかを引っかけようとしてみたり、様々なアプローチを仕掛けてみるも、ぬいぐるみは動いてくれなかった。
100円玉を握りしめ、トレーナーは苦悶の表情を浮かべる。
(がんばれ…トレーナー…!)
ここで私が水を差すのも悪いと思うし、何よりここからの突破口が自分でも分からなかったので、トレーナーの斜め後ろで応援するほかなかった。
暫く悩みながらクレーンを動かしていたトレーナーから諦めの空気が伝わり始めたころ、
「あ、そっか」
突然、トレーナーの表情がパッと変わる。
「店員さん呼べばいいんだった」
あ、確かに。
店員さんにお願いすれば、取りやすいところにアシストしてくれる。
「真剣になりすぎてすっかり頭から抜け落ちてたよ」とトレーナーはけらけらと笑った。
2人で「すみませ〜ん」と近くにいた店員さんを呼び止めた。
「これを取りたいんですけど、後ろの方に行っちゃって」
「あぁ、これですね。少し取りやすくします……ね……」
店員さんが何かに気がついたようにぱかプチと私たちをキョロキョロと見比べる。
そういえば、トレーナーは何をゲットしようとしてたんだっけ……。
数秒後、合点がいった私は、自分の顔がかぁっと熱くなったのを実感した。
思わず隣にいたトレーナーを見ると、ばちっと目が合ってしまった。
彼もまた、頬を赤く染めていた。
「あはは…」
「エ、エフフ……」
店員さんが位置を調整してくれている後ろで、お互いにあははうふふと気まずく笑い合う。
「頭の方を押してあげれば、取れると思いますよ。それじゃ、頑張ってください」
店員さんはニコニコとそう伝え、去って行った。
自分を模したぬいぐるみを、トレーナーらしき人が頑張って取ろうとしている。店員さんから見たら微笑ましい光景そのものだ。
なんとも言えない空気の中、ちゃりん、とトレーナーが100円玉を投入する音だけが響いた。
店員さんの言う通り、アームの端で頭を少しだけ押したら、私のぱかプチはいとも簡単に落ちていったのだった。
完