導火線(松野)
Mジ……ジ……。
夏の象徴であるアブラゼミの鳴き声とはまた違う、なにかを待っているような音が聞こえ始めたのはある夏の日の事だった。
ジジ…ジジ…。
その音は時が経つほどに大きく、明瞭になっていく。耳を検査してもらったが、異常はなかった。
きっと蝉の鳴き声だろうと医者に言われた。暑かったからな。オレは納得した。
ジジジジジジ。
三度目の夏がやってきた。暑い、熱い最後の夏が。
歓声を空耳する。チームメイト達の喜色に染まった表情を想像しながら球を走らせる。
暑い。汗が止まらない。ああ、燃えてしまいそうだ。
しかし、コンディションは間違いなく最高だ。
オレは今年、頂点を取れる。
パン。
爆発というよりかは、クラッカーが不発に終わった程度の小さい音。
けれど、それは間違いなく爆発だった。
カキ────ン、と。
オレの半身とも言える白球が空高く遠のいていく。
その日、オレは響き渡る歓声とチームメイトの青ざめた表情に晒されながら、冷汗の染み渡った甲子園の土を舐めた。
そして始まる。
終わりの見えない、長い永い、松野佑助の航海が。