尊氏直義? 師直直義? 乱痴気騒ぎそのニ
距離感のおかしい仲良し?足利首脳部四人組が酔っ払ってわちゃわちゃしてる話の続き
※ちゅっちゅしてますので注意
久しぶりのランチパーティだ
ランチパーティの意味は言い出した尊氏にもよくわからない
ふと思い付いた言葉で、乱痴気騒ぎのことだと勝手に解釈している
近頃は直義も師直も仕事が忙しいと言ってなかなか尊氏の誘いに乗ってくれなかったのだが、この日は違った
二人共限界が近かったのだろう
いつも尊氏の傍で健気に酒を注いでくれる可愛い弟はその美しい目を据わらせて手酌でガバガバ煽っているし、冷静沈着で大抵のことには動じない頼れる執事は酒を水のように飲み干しながらブツブツブヅブツ恨み言を呟いている
心に疲労が溜まり過ぎると、人が変わってしまうものらしい
政務がこの二人程に得意ではない尊氏と師泰は黙って話の聞き役に徹していた
面倒事を押し付けてしまってちょっぴり申し訳ない気持ちもあった
直義が酒瓶を乱暴に床に置く
「私だって別に裁判で寺社や公家ばかりを贔屓したいわけじゃない!しょうがないではないか!向こうの方が武士よりもしっかりとした証文を有しているのだから!悲しいかな、武士の中には自身でまともに訴状を形にすることすら出来ない者が多いのだ…っ!!裁判は一に証拠、二に証拠、三四に証拠で、五に証拠なのだ!裁判に私心を持ち込めば北条の二の舞になってしまうではないか……だから、だから私は客観的に公平に論理的にと心を鬼にして……っっ」
捲し立てた後、直義は両手で顔を覆ってワッと泣き出した
子鹿のように震える直義を抱き締めようと手を伸ばした所で師直に横取りされた
ゴツゴツとした師直の手が直義の両肩を掴む
「わかりますっ!わかりますぞぉっっ!!あの行尸走肉の輩め、拙者に頼めば土地がいずこからか湧いて出るとでも思っているのか次から次へと要求してきおって!!土地は有限なのだから結局どこかから分捕るしか方法がないだろうがあああ!!それをして嫌味を言われるのは拙者!恨まれるのは拙者!あいつらの土地に対する執着心、欲求の際限のなさは異常だ!!」
「わかる!!恩賞など慎ましく暮らせる程度を得られればそれで良いではないか!それなのにいくらでも欲しがるあの貪欲さが怖いっ!!」
「直義様!!」
「師直!!」
何やら理解し合ってひっしと抱き合う直義と師直を眺め、酒を飲む
気の利く師泰がおかわりを足してくれた
直義と師直は思考が合理的過ぎて、源平の合戦より前から武士が積み重ねてきた一所懸命の重みに理解が及ばない
命より土地が大事とはどういうことだ、と弟の命第一の自分も不思議に思うが、武士とはそういう生き物なのだと呑み込むしかないとも思う
正反対の性格に見えて似たもの同士な所もある直義と師直は、酒が入って気が緩めば、壁を取り払って手を取り合うことも可能なのだ
そんな二人を微笑ましく思うが、今は尋常ではなく、平静に戻ればまたいつもの衝突を繰り返すだろうことが残念でならない
直義が潤んだ瞳で師直を見上げる
「皆が私を保守的だと言うが、師直、お前もそう思うか?」
「あなたが保守的でなくて誰が保守的だと言うのです。今時内親王様でもここまで保守的ではありますまい」
「な、に?…ふぁ、うっ……ンン、アッ」
師直が直義の口を吸い、袴の脇から手を差し込んで足を撫で回す
巧みなその動きに、酔いではない理由で直義が真っ赤になる
「や、やめ…何を、何をしている…師直、やッ……」
「師直」
狼狽える直義の眦から今にも涙が溢れ落ちそうなのを見て、尊氏は師直を制止した
少し鬼が漏れ出てしまった
ぴたりと師直の動きが止まる
困った奴だ
どうにも師直は何事もやり過ぎるきらいがある
尊氏の中の鬼は心得ているもので、直義が振り向いた時には姿を消した
「兄上?」
「直義、いつも苦労を掛けるな」
直義の腕を引いて抱き締める
「兄上…!いいえ、いいえ、私の力が及ばないのがいけないのです…」
「そんなことはない。お前も、師直も、本当に良くやってくれている。いつも感謝しているぞ」
「殿……ッ」
「良かったな、兄者!」
師泰が師直の肩を組んで喜びを共有している
尊氏は直義の顎を掬い、瞼に唇を落とした
「兄上…」
それから、柔らかな直義の唇に吸い付き、袴の脇に手を差し入れる
恥じらいはするものの抵抗のない直義に、尊氏は満足して微笑んだ