将軍と格下

将軍と格下

将軍レンドロットと格下ロザリア

今でも後悔してる

あいつが自分から料理をするなんて珍しい、とレンドロットは思っていた。実際、なにかろくでもない思惑があっての行動なのだろうが、そんなことはどうでもいいぐらい嬉しかった。

しかしキッチンからはずっと料理をしているとは到底思えない名状しがたい音が鳴っている。

少し心配になってキッチンを覗いたら、そこには案の定、呪術の儀式と見まごうばかりの惨状が広がっていた。

「一応聞くが格下。お前はなにを作っている?」

「……おいしいもの」

料理していた格下……もとい、ロザリアはレンドロットの方を振り向かずに答えた。

「そうか。言いたいことは山ほどあるが、怪我だけはするなよ。お前の血が入った料理など食いたくないからな」

「そう……大丈夫だよ、変なモノは入れないから」

「……先程から何故こっちを向かない?」

「ちょっと怪我しちゃっただけ」

「すぐに手当しなければ悪化するぞ。見せてみろ」

「い、いいよ。自分で治すから。『情愛抱きし気高き呼び声よ、顕現せよ。灰に委ね我が身に愛とし祝福を授けよ』!はい!治った!」

「お前……」

ロザリアは精霊の寵愛を一身に受けている魔導士だ。いちばん簡単な詠唱でも料理中に出来るような傷ならすぐに塞がるだろう。才能は無いくせに、そういう所が気に入らない。

「ワタシは平気。いいからキミは早く出て行って。まだ出来てないから」

「だからと言ってお前の所業を見過ごすわけには……おい!結界を張るな!」

結局、結界で無理やり追い出されてしまった。とはいえ所詮は格下の張った貧弱な結界。破ることは容易いが、破ったところでロザリアが行っている食材への冒涜を止められる気は正直しない。

食事に誘われた時点で逃げるべきだったのかもしれない。レンドロットは少し後悔した。

*

「出来たよ」

いつの間にか右目に眼帯をしていたロザリアがスープを持ってキッチンから出てきた。しかし未だにキッチンからは出処の分からない謎の音が聞こえる。それが気になってロザリアの眼帯どころではない。

肝心のスープはというと、長い時間を生きてきたレンドロットが初めて見るような色をしていた。そして、これをスープと言い張る奴もロザリアが初めてである。

「他の料理も考えてたんだけど、全部失敗しちゃった」

「……これは成功なのか?」

「さぁ?でも、これだけはどうしても絶対にキミに食べて欲しかったから……」

「……味見はしたか?」

「……うん」

ロザリアは目を逸らした。絶対に味見していない。レンドロットは確信を持った。

「お前、我に毒を食わせるつもりか?」

「違うもん。絶対美味しいはずだもん」

「その自信はどこから来るのか……仕方あるまい。我も腹を決めようでは無いか」

レンドロットはしぶしぶスプーンを手に取った。

「……いただきます」

正直、これを食べ物と呼ぶのはただでさえ心が狭いレンドロットではギリギリどころか普通に許容できない範囲である。それでもこれを食べ物を使って食べ物として作ったロザリアの手前、そして自分にマナーを教えた使用人に申し訳ない。いただきますぐらいは言わねばなるまい。

レンドロットは意を決して口に入れた。

「おいしい?」

「……不味い。これを構成する全ての要素が不味い!よくもこんなものを他人に出せたな貴様、相手が我でなければ貴様は人を1人殺していたところだ。この異様な生臭さは何だ?貴様なにを入れた?言え」

「えっと…………魚の目玉とか?」

「魚の目玉だと!?馬鹿か?馬鹿なのだな?貴様は我が魚の目玉を好んで食うと思ったのか?それとも魔族は魚の目玉をスープに入れて食うのか!?……まぁよい、それ以外の具は何だ」

「クリスタルバードの目玉と……ドラゴンの……目玉」

「貴様は目玉に何かこだわりでもあるのか?もはや怒り通り越して呆れてくるわ。晶鳥はともかく竜の素材は貴重なのだぞ。全く……」

レンドロットはため息をつく。過程や見た目や匂いからしてマトモな具材が入ってるとは思っていなかったが、まさかこれほど斜め上な材料縛りが行われているのは完全に想定外である。

その後、ロザリアの目玉スープは責任をもってレンドロットが全て平らげた。そして、二度とロザリアをキッチンには立たせないと、レンドロットは自分自身に誓った。格下に作らせるぐらいなら自分で作った方が遥かにマシである。

「……聞き忘れていたが、お前右目はどうした?」

「調理中に手元が狂って潰れちゃった」

「は?」

おわり


やみまどうしロザリア

外に出なくなってどれぐらい経ったかな。実際わざわざ外に出る理由なんてないし、別に気にしてないけど。一緒に外を歩いてくれる人だっていないもの、ニンゲンと魔族の間の子だからって後ろ指を指されるだけ。

個人的には数百年外に出ていないような気がするけど、匿ってくれている友達に聞いたら、実際はたった半年ぐらいみたいだった。

今日も右目を通してレンドがあっちでどう過ごしてるのか見て一日を過ごす。

あの日スープに混ぜて食べさせたのは正解だった。変な心配をかけさせたことはちょっと悪いとは思うけど、結果的にアレは呪いに転用できたし、ワタシは得しかしていない。だから問題ない。

永遠に会えなくなることがわかっていたなら、左目だって入れたのに。

監視以外にやることなんて手紙を書くか、「あっち」へ干渉する方法を考えることぐらいしかない。つまり、ワタシは四六時中レンドのことを考えて生活してる。本当はそんなつもりじゃなかったのに、仕方ないよね。キミがワタシのことを置いていくから。

「…………」

毎日レンドに話しかける看守がいる。そもそもレンドは全然友達がいないし、他人と関わることは大事だと思う。でもやっぱり見ていていい気はしない。許せない。何も知らないくせに、馴れ馴れしくしないで。

そのうち変な気を起こすかもしれないから、同性でも油断は出来ない。この看守がエルフじゃなくてよかった。もしそうだったら、ワタシに勝ち目は無かったから。いつか干渉出来るようになったら、最初は絶対にこの看守を呪い殺す。それぐらい当然でしょ。

間違いなく目の前の光景なのに、ワタシには遠いところから呪詛を吐くしかできない。それが1番嫌。

ワタシがそばにいられたら、どれだけよかったかな。ワタシも一緒に刑務所に入る道は本当になかったの?レンドのことは別に好きじゃないけど、離ればなれになるのはもっと嫌い。大嫌い。


だめ、今はこっちに集中しないと。それだけじゃない、もし干渉できるようになれば、きっとレンドもワタシのこと認めてくれるよね?こっちからじゃまだ呪えない。ワタシの実力不足かな、それとも世界の規則に反しているのかな。

監視のうちに干渉への手がかりはあると思っている。こっちでかけた呪いはあっちで解けずに今もレンドを苦しめている。それはきっと何かに繋がるはず。


だから今日もずっとレンドを見てる。別に好きだから監視してるわけじゃないよ。


……。


また同じ奴にちょっかい掛けられてる。

許さない。

かわいい女の子に話しかけられてる。

許さない。

あ、今ちょっと笑った。

許さない。

それって誰のためのケーキ?

許さない。

ワタシのこともっと考えてよ。

許さない。

その子のことは名前で呼ぶんだ?

許さない。

ワタシが出した手紙の返事はまだ?

許さない。


ワタシを置いて誰かと仲良くするなんて、絶対に許さない。



おわり

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