対峙3

対峙3



「忙しいのに時間を割いていただきありがとうございます。斎藤硝太です。」


「伺っていますよ。私はカミキヒカル。カミキプロダクション、社長です」


どうもよろしく、ととりあえず名刺交換をする。真面目に「苺プロ アルバイト 斎藤硝太」てなんだ。


「これから忙しくなりますよね、カミキさんは」

「そうだねぇ…息子と娘からのある種、10年以上かけたプレゼントのおかげでね」


困っちゃうなー、あははは。

と笑うカミキ。

感情の機微は…何も無いな。本当に困っているのか。こいつ。

兄さんと姉さんの復讐が1番意味あるモノじゃ無いといけない。アシスト、できるのか?僕に。


「さて、君の電話を受けて驚いたよ。

色々知っているんだね、本当に。」


「ええ、まあ。

単刀直入にいいます。

自首して下さい、カミキヒカルさん。

これ以上はやめてください」


「へぇ…」

目を細め、此方を値踏みするかのような目つきだ。だが彼自身の感情はそれ以上読めない。

ただ僕を軽んじているのだけは分かる。

油断しているなら仕掛けられるか?


「色々調べは付いています。これから色々詮索もされ、暴かれることもあるでしょう。

罪を重ねないでください」


「ふふふ、君の言う罪が何かは分からない、とだけさせて貰うよ。

ただ、確かに面倒なことにはなりそうだ、とは思ってはいる。

…最近は怖ーい人達が近くを彷徨いているし、目つきの鋭い人も私を伺っていて、やり難いのは確かだよ」

目線で『知っているぞ』と言って来ている。

開示は…ダメだ。悪手か。


「魔物しかいない世界でしょう?芸能界とやらは。恨みを買うことも、一方的に恨まれることもあるでしょうし。」


「そうだね。自分を見つめ直す良い機会として考えようかな…さて、君に聞きたいことあるんだ。良いかな?」


1戦目は凌いだ、かな?嘘つけないから「触れない」「言わない」しか選択出来ない。兄さんや姉さんなら上手いだろうなぁ…

さて次はなんだ?


「なんでしょう?」

「ゆらさん、まだ見つかっていないんだってね…心配だな。君、知っているなら警察には行かないの?」


「僕は共通の知人から聞いていましたが……すいません、疑問が二つ。」


「何かな?」


「ゆらさんが行方知れず、というのは近しい人しか知りません。

失礼ですが、カミキさんとゆらさんとの間柄は?」

「ふふふ、何だろうね?」

こいつ…明らかに僕で遊んでいる。そして自分が何かしらのことに関わっていることも示している。人間性も最悪だな。


「…ゆらさんの足取りを辿るとあなたに行き着きます。そして警察には先日失踪届が受理されました。貴方こそ、何故ゆらさんの事務所、もしくは誰かに言わなかったのですか?」


「どうしてだろうね?」


「………貴方、本当は心配していませんね。心配している人の姿じゃないですよ。どんな人であれ、近しい人がいなくなれば心配する姿が出ます。貴方のそれはまるで『分かりきっている』からみたいだ。」


「君、良い観察眼だね。プロファイリング?」


多少声に温度が出た。興味か。まあそこ止まりだろうな。


「似た様な特技とだけ。

僕の方から警察に言いましょうか?カミキさんは片寄さん失踪について何かご存知です、と。

…あまり関係者とはいえ、人の安否を聞くほどの人物を揶揄うのは人間性疑いますよ」


「失礼したね。まあ遅かれ早かれ警察は僕に来るだろうから構わないよ」

どうぞお好きに?と言わんばかりだ。厄介極まりない。

一度此方から攻めてみるか。


「話を変えるのですが、先日家族旅行に行きまして…まさかそこで遺体を見つけてしまったんです」


「それはそれは…中々無い体験だね。」


「ええ。宮崎の高千穂で。」


「…へぇ。一度行ってみたいなぁ。行った事ないから」


声と目に変化あり。感情は分からないが、此方の言葉に動揺が見られた。


「雨宮吾郎という医師でした。17年前に失踪した、と考えられていましたが…亡くなられていた様子でした。」


「続けて?」


「失踪では無くて、殺人…殺されていた様でした。そしてこの方は僕の家族に関係の深い方だとは思わなかったのですけどね。」

「………」

反応は無く、ただ薄い笑みを浮かべて此方を見ている。続けろ、ということだな。

だが、その前に一息つきたい。流石に疲れる。

頼んでいたキャラメルマキアートで小休止。

糖分が染み渡るようだ。効く。


「この医師は家族と関わりがあったので色々調べて関係者の方々に話を聞きました。皆さん、医師の死を嘆いて中には涙を流している人もいました。立派な方だったんだな、と思います」


特に話を聞かしてくれた看護士の方は涙を流しながら『先生の命を奪ったのはあの2人に違いない。必ず、必ず捕まえてください』と風祭さんに言ってきたそうだ。

…皆に好かれる、を体現した人のように思える。


「…立派かどうかは、分からないな。僕からすれば余計なことをして命を落としただけにしか思えない。それに、星を堕落させて宝石の母にする行為を助長した。愚劣な行為だよ」




「……まるで知っているかのように話しますね。当時は東京にいた貴方が医師の最期、詳しいじゃないですか。やっぱり来てましたか?」


急に声に感情が篭り出した。医師殺害、やはりか。お姉ちゃんが兄さん達を産んだ行為について何か深い拘りがあるな。

だが、兄さん達を産んだお姉ちゃん…アイさんとそれを安全に産むべく尽力した医師…兄さんの前世を否定させない。

させてたまるか。



「記憶にないね。で、その医師の話が僕とどういう関係が?」


「若い不審者2人、目撃者居ましてね。当時はただの失踪とされたので深く捜査はされませんでしたけど、今の口ぶり的にやっぱりご存知かな?と」


「ーーーさあ、わからないな。僕は東京に居たはずだしね。人違いではないかな?」


「なるほど。この写真、貴方に似ていますけどね」


僕が現状切れるカード。宮崎の病院で撮られた監視カメラの一場面。それを解析掛けて明細化したものを渡す。


「カメラ、あったんですよ。当時はそこまで重要視されていなかったのと汚いから無視されていたんですけど…お友達もいますね。

某リョースケ、さんですかね?」


「…驚いたなぁ。君は覚えてないだろうけど、事故に遭って助けた少年がここまで頭が回るなんてね」


感情が現れている。僕に対しての感情は驚きか。

笑顔で僕を見ている。


「…………」

何て返すか。そう考えて、キャラメルマキアートをもう一度口につけ、カミキを見つめ返した。


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