対峙 4
ヤツは何も言わずに無表情で僕を見ている。何分このまま膠着するのか。体感では十数分にも及ぶように感じた。
「…君を甘く見ていたようだ。以前怪我していた君を助けた時に、無才で輝くものは無い名前の通り、無価値な硝子玉だ
と見ていたが、君は必要とあれば周りを全力で巻き込む強かさ、不自然な点があれば針1本でも見逃さない執念深さを合わせ持っている。」
「怒っても良いですか?」
「僕なりに褒めているんだ。
だが、君が僕に切ったカードはあくまでも厄介、止まりなだけだよ。
今1番有効なのは息子と娘からの15年越しのプレゼントだ。」
ヤレヤレと言った感じで困り眉になるカミキ。
多少は仮面を剥がせて来たが、ここいらが限界だろう。色々もどかしいが、僕にはこれが限界だ。
「…ありがとうございます、素直に喜んでおきますよ。繰り返しますが、大人しく自首を求めます。然るべきモノも貴方宛に準備済。貴方が動けないよう、逃げられないようにはしたつもりです」
「君が言う然るべきモノは少々タイムラグがあるね。それが届くまでに有馬かなさんを入れたB小町のラストライブ、観に行きたいな。娘の晴れ舞台だしね」
此方を挑発するかの様に薄く笑う。
[B小町ラストライブに事を起こす]
そう、言っている。
「今まで家族サービスしてなかったのに父親面されるのって子どもからしたら腹立たしいからやめた方が良いですよ…絶対に行かせはしませんが」
真正面から睨み返す。彼方は目を細め、笑い返す。コイツと別れたら色々準備しないとならない。
「さて、中々刺激的で楽しかったよ。最後に僕から君に会わせたい人がいるんだ…来た様だ。こっちだよ、リョースケくん」
「リョースケ…?」
その呼び声に応じるかのように来店してきた異様な全身黒づくめのパーカーのフードを頭から被った男。店内が一気に困惑に包まれるが男はそれを気にせずカミキの側まで歩いてきた。
「……………コイツか。ヒカル。なんとなく覚えている」
「そうかい。話が早いよ…紹介するよ。彼がリョースケくん。君が見つけた宮崎にいた僕の友達だよ。そして
君は彼を見るの二度目だよね?」
そうだ。アイさんを殺した奴。そして兄さんの前世である医師の命も奪った男。
何故生きている。TVの報道、記録では死んだことになっていた。遺体も回収したとあった。何故、目の前に立っている!
「……!!死んだ、んじゃなかったのか…⁈」
「………今目の前のことが真実だ。アイに守られていたガキが偉そうに仇討ちごっこか。」
「リョースケくん、余計なことは言わない。まあ、彼の死は身内の恥を嫌う人達に仕組まれたものだよ。彼はずっと生きてた。そして僕と色々、ね?さてこれでお開きだ。じゃあね、硝太くん。
君のお友達は顔が怖い人や賢い人が多くて困るよ…用心しなきゃね」
やはり龍珠さん達のことも掴んでいたか。 だけど
「…ああ、必ず…法の裁きをアンタらに与えてやる。それまで待っていろ」
「待っているとも…だが僕を仕留めるとしたら君じゃない。アクアとルビーだ。
君の相手は彼だよ」
「………………」
涼しい顔で受け流すカミキと感情の篭らない目で見つめ返す下手人、リョースケ。
店内から立ち去るまで僕は睨み続けた。
「………あ、ちゃっかり飲食代こっちにツケてる」
帰る時にしっかり俺に払わせる様にしていた。