対マキマ部隊
マキマは糊のきいたシャツに袖を通し、姿見の前でネクタイを締めると、飼っている犬達に見送られて部屋を出た。いつもの朝だ。
彼女が廊下を進んでいると、突如爆発が起きた。付近の建物の屋上から砲撃されたのである。
「命中」
携行砲を携えている兵士の隣で、観測手が告げた。背後から彼等を見つめる者がいたが、まだ気づいていない。
「入れ」
岸辺の指示を受け、重武装の兵士達が発見したマキマのもとへ殺到する。
「マキマ発見。斎藤班から射撃開始」
「12秒後、交代の鈴木班は準備」
マキマへの銃撃が始まる。岸辺が指揮する対マキマ対策部隊が動いたのだ。マキマへ絶え間ない銃撃が続く中、公安の制服に身を包んだ6名が屋上に並ぶ。
「すまない」
「準備」
6名が首にナイフを当てる。
「地獄の悪魔よ。マキマを…」
最後まで言い切ることはなかった。マキマの身辺に潜伏していた蜘蛛の悪魔が呼び出した助っ人に、頭や腕を穿たれてしまったので。弓矢の怪物が姿を現したのである。
「無事に阻止できたようですね。私を撃っても無駄ですよ」
一部始終を眺めていたマキマが呟いた。先刻まで銃撃に晒されていた彼女だが、傷は完治している。隣では岸辺が彼女に銃口をむけており、彼等の足元には公安職員が転がっていた。
「内閣総理大臣との契約により、私への攻撃は適当な日本国民の病気や事故に変換されます」
「そりゃ羨ましいな」
「知って尚、銃を降ろさないのは何故ですか?」
「クァンシがお前に就くとはな…どうやった?」
岸辺は対策部隊の妨害に現れた悪魔を見て、少なからず衝撃を受けた。愛人達の仇に従うなど、尋常の手段によるものではあるまい。
「ところで…いつまでそうしてるんです?私は出勤時間ですし、自宅の後始末に人を呼ばなくてはなりません」
マキマは言いながら、窓から離れた。
「動くな」
「貴方も離れた方がいいですよ?」
マキマが窓から離れると、外に面した窓に矢が打ち込まれた。悪魔に変身したクァンシが踏み込んできて、マキマと岸辺の間に入る。
「血迷ったな、岸辺…飼い犬をやっていればよかったのに」
「お前…理解してるか?ソイツはお前の女どもの仇なんだぞ?」
「責任の一端は、お前の口車に乗らなかった私にもある。マキマだけを責めるのはお門違いだろう」
「本気で言ってんのか…?」
「ところで…私はそろそろ職場に向かいたいので此処を出ます」
マキマはクァンシの後方から出て、岸辺の前に出てきた。
「一つ聞かせろ、早川のあれはお前の仕込みか?」
「私はそこまで万能ではありません」
岸辺は銃口を向けたまま、マキマから徐々に距離をとり、まもなく姿を消した。マキマは立ち止まって岸辺の撤退を見守る。
「追うか?」
「ううん、早川家に近づけないように人をやって…後は放置でいいよ」
マキマはクァンシに姿を隠すように命じる。1人その場に残されたマキマは、自宅の惨状を思ってため息をついた。マンション2階と3階が彼女の家なので寝るスペースは十分あるが、要らぬ手間を増やされてしまった。
【結末に関わる重大な分岐があります】