寵愛
コビーは誰かにくっ付いているのが好きだ。船内でも基本幹部達に抱き上げられているし、誰かの膝の上に座っている。人肌が安心するのだと昔言っていた事を思い出した。そんなコビーが一番くっ付く回数も時間も多いのはティーチだった。今だってそうだ。二人きりの船長室、ティーチの片膝に腰を下ろして鼻歌を歌いながら、指輪が多く付いた指を弄んでいる。空いている手で頭を撫でると漂って来るのは、ティーチが気に入っている花の香り。コビーによく似合う香りだと思って何処かで手に入れたヘアオイルで手入れされた、腰まで伸びた柔らかな髪。今日は緩く巻かれている。デボンさんがしてくれたんです、と嬉しそうに話していた。淡いピンク色の、レースがふんだんに使われたドレスもよく似合っている。コビーはまさしくこの船の「おひめさま」だった。だからと言ってただ守られているだけのお姫様では無い。四皇黒ひげの「幼妻」に相応しいだけの戦闘力もコビーには充分ある。
じいっと見つめていると、丸い目がティーチを見た。思い出すのは、彼を拾った時の事。
「本当にそんなガキ連れて行くのかァ?」
バージェスの言葉に、ティーチは笑いながら頷いた。ティーチに首根っこを掴まれた、桃色の髪に野暮ったい丸眼鏡を掛けた子供は真っ青な顔をしていた。まァ船長が良いなら良いけどよ、とバージェスは背中を向ける。殺されるのだろう、と子供は覚悟を決めているらしいが、ティーチにそんなつもりは無かった。
「雑用係やってたんだろ? ならウチの船でもやってもらおうじゃねェか。なァ?」
子供の顔を覗き込んで言えば、子供はがくがくと頷いた。殺される、と怯えているのがよく分かる顔だった。
コビーと名乗ったその子供は、愚図で鈍間で役立たずだった為に船から降ろされてしまったらしい。とはいえ、ティーチ達からすればどうでも良い事だった。料理に掃除、洗濯をしておいてくれるなら多少時間が掛かっても助かるというものだったし、自分達はその間他の作業が出来るし。料理はそれなりに美味しかったし、コビーの倍はある男達の服を懸命に干そうとしている姿を見兼ねたオーガーやラフィットはよく手伝っていた。ドクQの愛馬であるストロンガーの世話もよく手伝っていた。何の文句も言わずに大人しく雑用を続けるコビーは、最初こそビクビクしていたものの、段々慣れてきたのか、そんな様子も無くなって行った。曰く、「皆さん優しいので。失敗しても、殴られないし……」との事だった。バージェスはコビーをトレーニングによく付き合わせていたし、ティーチもコビーに護身術として六式を教え始めていた。彼はティーチが「思った通り」吸収が早く、一ヶ月と少しもすれば剃を修得していた。
そんな彼に、「夜の事」を教え始めたのはいつだったか。確か、剃を修得する少し前だった。「雑用係」と言うなら夜の世話もしてたのか、なんて下世話な話を夕飯の際に振った際、ええ、まあ、という曖昧な答えが返って来たから、という事もあったし。最近は女に困っていた事もあったから。ティーチはその夜船長室にコビーを呼び出した。
「……あ、あの、ティーチさん」
「なんだ?」
「僕、その……へ、下手くそだって、前言われてたので、だから……」
「あー、満足させられねェって?」
「は、はい」
「そりゃァお前ェ、最初から上手いやつなんざ居ねェだろ。コツってモンがあんだよ。教えてやるから、ほら」
「わっ」
コビーをベッドの上に摘み上げて、足の間に下ろす。陰茎をまろび出すとコビーは「ひえ」と声を上げた。勃っていない状態でもコビーにとっては充分大きい。恐怖を抱くくらいには。コビーはおずおずと、小さな手でティーチのそれに触れる。辿々しい手付きで上下に扱かれていると、ゆっくりではあるが固さが増して来た。コビーは恐る恐ると言った様子で、それに顔を近付ける。はー、と熱い息が掛かった。裏筋を小さな舌が下から上へちろりと舐め上げる。
「そう、で、そのまま先端をゆっくり咥えるんだよ」
「は、はい……ん、む」
小さな口が亀頭を咥え込んだ。この大きさでは全部を咥え込む、なんて到底出来ないだろう。ティーチはコビーに、先端を舌でちろちろと舐めるのだとか、裏筋や尿道を刺激すると良いのだとか。今のコビーにでも出来そうな事を教えて行く。絶頂こそ出来そうには無いが、それなりに気持ちは良かった。
「ん、ん……」
「涎は無理に飲まなくて良いんだぜ」
「ふぁ、ぁ、はい……」
コビーはぷは、と一旦口から陰茎を出した。粘性のある唾液が口から垂れる。
「す、すみませ、息苦しくて」
「ゼハハ、そりゃなァ」
「……あ、あの、きもちい、ですか……?」
「おう。素質あるんじゃねェか、お前ェ」
不安げに尋ねて来るコビーの頭に手を伸ばす。びく、と肩が跳ねてぎゅっと目を閉じた彼の頭をゆるりと撫でると、コビーは瞬きを二度三度して、ほ、とした様に息を吐いた。前の船では下手くそだと言って殴られていたのかもしれない。馬鹿な奴等だとティーチは笑う。教え込めば良いだけの事だというのに。無人島の浜辺で一人膝を抱え、何もかも諦めた様なその子供。ティーチはその子供に、何かを感じた。きっとこの子供には才能がある、という、根拠も無い確信を。
思った通りだった。コビーは戦闘力も、そして「夜」も、教えられた事をよく吸収して成長して行った。インペルダウンで仲間となったシリュウに教えられ、遂には六式もマスターした。何かある度に「褒美」と称してコビーの体を開発して行けば、コビーはティーチ達に蕩けた顔と声でおねだりをした。ティーチによって気持ちいい事は怖くない事で、良い事なのだと教え込まれたコビーは、毎日の様に幹部達やクルーと身体を重ねている。小さな喧嘩をした日には「もう良いです、僕今日はシリュウさんときもちいいことします!」なんて他の幹部達を巻き込んで可愛らしく怒っていた。巻き込まれたシリュウは「おれを巻き込むんじゃねェ」と呆れていたし、その夜バッチリ手を出していたが。それを浮気だとは思わないし、なんなら誰かに抱かれているコビーを見ながら酒を飲むのも良い。
何せティーチは、最後には彼が自分の元に戻って来る事を知っているのだから。
「ティーチ」
甘い声が名前を呼ぶ。この目はキスをせがんでいる顔だ。お望み通りに唇を重ねれば、舌が唇を舐めて来る。
「なんだ、今日は他の奴らとしねェのか?」
「今日はティーチとしたい気分なんです。いやですか?」
「ゼハハハ! まさか! おれァいつだって歓迎だぜコビー、なんせお前ェはおれの幼妻なんだからな」
そう言うと、コビーは花が咲いた様な、どろどろの砂糖を煮詰めた様な笑顔を浮かべて、ティーチに凭れ掛かる。
「……ねえティーチ」
「どうした?」
「昨日、クザンさんとお話したんですよ。ティーチとの馴れ初めが聞きたいって言われたので」
「で、話したのか?」
「はい! 僕にとって、ティーチはかみさまなんだって事も」
「ヘェ? お前ェは神様とこーんなやらしい事すんのか」
「……だめですか?」
駄目、なんて答えが返ってこない事を知っていて、コビーは上目遣いに見上げて来る。ティーチはコビーを軽く抱き上げてベッドの上に寝転がらせた。白いシーツの上に広がる、淡い桃色の長い髪。
「今日はいっぱいしたいです」
「あァ」
「終わったら、また歴史の話聞かせてくださいね」
「仰せのままに、姫様?」
なんて戯けて言えば、「似合わないですねぇ」とコビーはくすくす笑った。