寝る
ある日の晩。雑務を全て済ませた俺は睡眠を取る為に部屋の寝台に向かったところ、布団が不自然に盛り上がっていた。
掛け布団を捲り上げると案の定、ぐっすりと眠る友の姿が其処にはあった。
「公瑾!?」
「ん、明儼か……おはよう」
「いや、まだ夜だぞ」
目が覚めるが否や寝ぼけ眼を手で擦るものの、相当疲れているのか身体を起こす様子はない。
「ここは俺の部屋なんだが……」
「ああ、間違えてしまったのか。すまない」
普段の凛とした、勇ましい姿とは裏腹に声が浮ついていて何処か頼りない。かつてサーヴァントであった頃からは想像できない様子を俺に躊躇いもなく晒していた。公瑾が睡魔に抗うように口を開く。
「ふふ、この姿になってから疲れることが多くなってしまってな」
「お前はもうサーヴァントでは無いからな」
「お前と共に儀を駆け抜けた頃が既に懐かしく感じるよ」
目を伏せて話を続ける。
「お前の望みを受けて生身の身体を得たのは嬉しいことだが……そう上手くはいかないものだな」
「まぁ、何事も慣れが肝要だからな。焦らず進めば良いさ」
「そう、だな。だが……」
寝台に腰掛ける俺に向かって公瑾は優しく微笑みかける。
「お前と共に、これからの人生を歩んでいける。これ以上の幸福はない、な……」
そう言って満足したのか公瑾は再び眠りに落ちていく。聞こえる寝息は静かだが呼吸が深い。部屋へと抱えて運ぶのも忍びないと思った俺は隣に寝そべり、そのまま共に眠ることにした。