寄り道帰り道
「おつかれー」
「お疲れ様でござる。帰るでござる?」
ジャージ姿の乙夜殿が教室に顔を出した。窓の外は夕暮れ時で真っ赤に染まっているでござる。課題に集中してて日が暮れてることに気づかなかったでござるよ。蝉の鳴き声も聞こえないくらいだったでござる。耳栓要らずでござるな。
乙夜殿は拙者と付き合ってからは毎日うちに来てくれるでござるよ。部活で疲れているだろうに嬉しいでござるね。拙者は大抵勉強をしながら乙夜殿の部活終わりを待ってるでござる。拙者は親戚との関係があまり良くないもので……家に一人よりは乙夜殿を待ってる方が良いでござるね。あとたまに乙夜殿の部活姿を見に行ったりもしてるでござる。
「今日もうちに寄るでござるか?」
「んー。そうしようかな。良い?」
「拙者は歓迎するでござるよ」
素直な話をすると、こうやって一緒に帰るのが楽しみで毎日頑張れてるところもあるでござる。漫画とかで見る青春って感じがして気分がふわふわするでござるね。嬉し恥ずかしって感じでござる。手も繋いじゃったりして、えへ。乙夜殿の手はおっきくて男の人って感じがするでござるよ。拙者も女子にしては背が高い方でござるが、こういうところではやっぱり違うなあと思うでござるね。手汗かいてないかは気になるでござるが、ありがたく繋がせてもらうでござる。
「アイス食べたい。コンビニ寄らね?」
「暑いでござるしね」
コンビニの中に入るとエアコンの涼しい風が吹いてきて生き返る気持ちでござる。二人揃ってあ〜って声が出てちょっと笑っちゃったでござる。乙夜殿はアイス売り場に、拙者はお菓子売り場に。おもちゃ付きのお菓子ってついつい見ちゃうでござるね。買ったりするわけではないでござるが。乙夜殿がレジを済ませたところに合流すると、乙夜殿はアイスの外袋を捨てていた。すぐ食べるでござるね。
「何にしたでござるか?」
「パピコ。ん。半分こ」
「あ、ありがとうでござる」
半分こって言い方可愛いでござる。ホワイトサワー味のパピコはなんとなく夏って感じがするでござる。おいしいでござる。うう、頭キーンってしたでござる。こうなるとわかっているのに、いつもつい早く食べちゃうでござる。乙夜殿はいつ見ても涼しい顔してるでござるよ。頭キーンってなったことなさそうでござる。でも食べ切るのは早いでござるな。不思議。
「ご馳走様でござる」
「はいどーも」
乙夜殿はまた手を繋いでくれたでござる。アイスを持っていたその手がひんやりしていて。拙者は家に着くまでその冷たさを堪能したのでござった。