寂しい背中

寂しい背中

即位前に襲いかかってきた女を返り討ちにする話

いくら、女と枕を共にしても、夜を越えても、背中に焼きつけられた孤独は一生消えない。


押し倒した女の脚の間に膝をぐり、と押し付けると、熱く濡れた感触を感じると共に、女が甘く鳴く。

「……」

夜毎に懲りずに何度も……。

ひっきりなしによく寝床に入り込まれる。

ここまで襲われかける自分の存在は、女しかいない国でもとりわけて珍しいと思う。

年頃になって国に帰ってきてから、周りの女の自分を見る目が変わっていることに気づいた。

思春期を経て大人びた顔は勿論のこと、成長した身体の、特に肉の詰まった胸や尻、締まった腰に、長く伸びた脚。

ふとした所作の後に視線に気づくと、熱を帯びた瞳で女達が見ていることが増えた。

外海で、男から向けられた、吐き気を催すような下卑た目線と同じだとは思いたくなかった。

当初こそ戸惑ったが、女ヶ島で暮らしている以上そういう時期が来たのかと受け入れるしかない。

男に攫われる前の年端も行かぬ頃、女同士の行為を偶然見かけ、好奇心で覗き見たことがある。

2人は唇を、身体を、肌を重ね、高い声を押し殺す行為に耽っていた。

自分も大人になったら、背がもっと伸びて、体つきが大人になったら、いずれ好いた女と、目の前で繰り広げられる行為をするのだろうかと、顔を赤くして指の隙間から見ていたことを思い出す。

しかし、今の自分は事情が違う。僅かな身内しか知らない秘密が出来てしまった。

恥ずべき記憶、消し去りたい過去、忌まわしい天竜人の奴隷となった証、焼き印が押された背中が一生涯の孤独を保障する。


まっとうならば、好きあった女と逢瀬を重ねて深い関係になるのだろうが、こんな秘密を身体に抱えてしまった以上、身も心も裸になって、全てを晒して愛し合うことなど一生無理だと絶望した。

もう自分は誰とも一緒になれず、この人生が終わるまでの長い間、たった一人で生きていくしかないのだろうと頬を濡らした。

しかし周りの女達はそんな自分の事情はつゆ知らず、食事に誘ってきたり、二人きりの約束を取り付けようとしたり、歓心を惹こうとしたり、あの手この手で誘ってくる。

無論、全ての誘いを断るしかなかった。

断り続けてしばらくしたら、夜中寝静まった時に、とうとう無理やり事に及ぼうと女が寝床に潜り込んできた。

万が一、抱かれている時に背中を見られてしまっては、国にいられなくなるとゾッとした。

寝巻きに手をかけられた瞬間、女の手を掴んで、引き寄せて、力づくで体勢を逆転させることに成功して安堵の息をつく。

しかし自分の強さを知ってなおも挑みかかる女たちがいることに驚きを隠せない。

12になる前から、実力を認められて九蛇の船に乗っていた事実を忘れたのだろうか。


自分の下に組み伏せた女の身体を拙い手つきで触る。

昼間まで自分の事を実の妹のように可愛がってくれた、少し年上の美しい女が……否、自分に組み伏せられるその瞬間までは“美しかった”女が、甘い声で自分を求める。


そこまで欲しいのか、自分のこの顔が、身体が。

力づくで奪うがいい。

出来るならばの話だが。


自分に挑みかかろうとする女達は、自身こそ強く美しいと自負する女ばかりだった。

負けたものは全てを差し出さなくてはならないが、この秘密は誰にも差し出すわけにいかない。

絶対に埋まらない寂しさに喘ぐ心だろうと、火照って肉欲に飢えた身体だろうと、いくら本能が、けしかけようとも、自分は誰の虜にもならない。


虜になるのは、貴女達。


「……舌を、差し出しなさい」

年下である自分の、服従しろと言わんばかりの声色に、目の前の女は顔を赤くして当惑した色を見せる。

「聞こえなかったの?」

ぐちゃ、と湿った音を立てて、敏感な部位を強く潰しながら、そそり立った胸の先端を指先で摘んで引っ張った。

瞬間、女は身体を震わせ、甘い叫びをあげた。

余韻に震えながら、女は降参して綺麗な形の唇から濡れた舌を差し出した


また一人堕とした。

また強くなった。

また美しくなった。


強ければ、美しければ、何をしようと許される。

勝手に女の寝床に入って合意を得ずにシーツの上で身体を好きに組み伏せて支配をしても、許されるのだろう。

この女もそういう思いで来たのだろう。

それならば、自分は誰にも支配されないように……この国の皇帝という絶対的な支配者になるために、強くならねばなるまい。

一人で生きることを運命付けられ、誰とも一緒になれず、支配されないように、支配をし返すような生き方しか出来ない。


願っても得ることが許されない、一方的に下に組み伏せられて支配される立場が。

明かりを落とした中でも内側から光るように白くて綺麗な背中が。

ひどく羨ましい。

背中の印など無ければ、甘んじて全てを晒して抱かれる快楽に酔えただろう。

自分は一人では無いと肌で実感できただろう。

隷属の背中の印は、一方的に抱かれる立場でいることを許してはくれなかった。

この女にも素直に抱かれたかったと思ったが、その感情を恋と呼ぶことは到底出来ない。

これは単なる肉欲なのだと自分に言い聞かせ、かつて美しかった女の唇を食んだ。


11月23日誤字修正と加筆修正。

アマゾンリリーって蛮族百合国家だと思うから、強いやつが攻め。

皇帝の継承システムは血筋によらず、国で1番強い(美しい)女がなるんじゃなかったっけ。

公式だったか妄想だったか思い出せない。

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