宝塚の前日に
宝塚記念の前日、イクイノックスはスターズオンアースに電話を掛けていた
「もしもし、スターズさん?」
「もしもしー、イクイ君?どうしたのー?」
「明日の宝塚のことでね」
イクイノックスにとって初の阪神を“世界一の称号”で挑む。このことは新馬戦や初のG1挑戦にも勝るとも劣らない重さだ。
「世界一になってからのはじめてのレースだもんね!観ているだけの私だって緊張しちゃってるもん。けど、イクイ君なら勝つって信じてるよ!」
「ふふっ、嬉しいことをいってくれるね。」
そう言うと、緩めていた顔を少し強張らせ
「実は不安なんだよ。」
「え?」
「もし、ここで負けてしまったら世界一の称号を失ってしまうかもしれない。そうしたら二人目の快挙を望んでいたファンを悲しませるかもしれない。それに!」
「大丈夫よ。」
彼が言葉を続ける前にスターズが言葉を被せた
「負けてもいいんだよ。イクイ君が楽しかったって言えれば。私達はファンの期待に応える前にレースを楽しまなきゃ!それに…」
「それに?」
「私は牝馬三冠が懸かったレースに負けてるんだよ?」
「それは君が怪我の休養明けで万全じゃなかったから…」
「負けた事実は変わらないよ。確かにファンの期待に応えることはできなかったけど、でも私は楽しかったって言える!ならそれで十分でしょ?」
スターズがスマホ越しに少し笑いながら言った。イクイはそれに少し驚いたあと、穏やかな顔で、
「ありがとう、だいぶ気が楽になったよ。確かにまずレースを楽しまなきゃね。でも勝って見せるよ。六馬身でも、ハナ差でも、同着でも。」
「信じてるよ。」
「勝ったら君に何かお礼をしなきゃね。レースへの不安を除いてくれたんだし。」
「別にいいんだけどね…あっ!ならさ、勝ったら二人で祝勝会でも開こうよ!」
「それで君がいいならね。」
興奮気味のスターズに、イクイが少し笑いながら返した。
それから二人は他愛のない話を続けた。
「じゃそろそろ切るね。」
「おーけーイクイ君。あっそれと」
「それと?」
「頑張ってね?」
「もちろんさ、楽しんでみせるし勝ってもみせる。じゃばいばい。」
「ばいばいー」
翌日、イクイノックスはレースに勝った。そして、カフェで祝勝会を行った。楽しそうにしてる二人を、たまたも通った同期が周りに言って
「イクイその子と仲が良そうじゃんw」と、同期の皐月賞馬や、「あんな楽しそうにデートしてるってことは、もしかして二人って…!」と、同期の秋華賞馬たちからからかわれるのだが、それはまたのご機会に