完全に個人の趣味の概念
「いや……これは無いだろ……流石に……」
「とても愛らしくてよ」
何で、何でこうなった。
〜〜〜⏰〜〜〜
時を遡ること2日前、次のトレーナーさんとのデートに着て行く服をどうしようか、教室でファッション雑誌を見ながらウンウン唸っていたところ…。
「悩んでいるなら私に任せなさい、当日の早朝、迎えに行くわ」
と、当然後ろからメジロラモーヌが現れてて、唐突にそう言って去って行った。
その時のあたしは何が何だか分からなかった。
〜〜〜⏰〜〜〜
デート当日の今日、午前6時に寮の部屋までやって来たラモーヌに寝巻きのまま米俵のように担がれ、外に停まっていた黒塗りの高級車に放り込まれ、気付けばメジロ家の豪邸に連れて来られていた。
そして今現在、あたしはメジロ家のメイドさん達に朝風呂に入れられ、出た後は全身フカフカのタオルで拭かれ、髪と尻尾に高そうなヘアオイルを塗られ、下着を含めた衣類を装着させられ、大きな姿見の前に立たされている。
姿見に映るあたしは、トップスに真っ白なボウタイブラウス、パンツは腰部分はシュッとしていてその下はふんわりしている紺鼠色のボールガウンのスカート、フリルのクルーソックスにバックルの付いた黒いおでこ靴…といった、メジロブライトやメジロマックイーンみたいなお嬢様のような格好をしていて、ツヤッツヤにされた髪の毛先は若干フェーブが掛かっていて、後ろは編み込みのハーフアップにされている。
そして冒頭に戻る訳なんだが、やっとこさ現れたラモーヌに、あたしは一言文句を言ってもいいと思うんだ。
「パーマーがあなたを着せ替え人形にしていると聞いてね、私もやってみたくなったのよ」
「どっかで聞き間違えただろ!?あたしはパーマーにお願いしてコーディネートとか教えてもらってんだよ!」
「そんな事はどうでもいいわ、最後の仕上げに…」
ラモーヌはあたしの右耳に何かを付けた。
「……いいわね、昔私が付けていた物だけど、服と一緒に貴女に差し上げるわ」
あたしの肩を掴んで姿見に向き直される。
右耳には、所々に宝石が散りばめられた銀色の蝶々の形をしたイヤーカフが、耳の付け根にはスカートと同じ色で、レースの付いたリボンが付けられていた。
「待て待てこれ絶対高いだろ!?この服も!」
「着れなくなった物だから気にしないで、それより、もう時間ではなくて?」
ラモーヌが指差した先には大きな時計があり、針はデートの待ち合わせ10分前を指している。
「うわマジだヤベェ!走って間に合うかな…!」
「化粧と髪が崩れるでしょう、車で送るわ」
ラモーヌに手を引かれ、あたしは今朝と同じように車に乗せられ、トレーナーさんとの待ち合わせ場所まで向かう。
その最中、ラモーヌからこれまた高そうな黒いハンドバッグを渡された。
中身は、いつの間に持ってきたのか問いただしたいんだがあたしの財布とスマホ、見た事のないハンカチやティッシュや化粧セットが入っている。
「その中身ごとバッグも差し上げるわ、今日楽しませてくれたお礼よ」
「……あのさ、本当に何がしたかったんだラモーヌ……」
「言ったでしょう、着せ替え人形にしてみたいと…一度貴女に私好みの服を着せたかった、それだけよ」
そう言って子供のように笑うラモーヌ。
前に海上パーティーに連れて行かれた時もそうだけど、コイツの考えている事はよく分からない。
「そうかよ…けど、次にやる時は一言言えよな!あたしにも都合ってもんがあるんだからさ!」
「あら…それは、今後もお人形になってくれると言うこと?」
「だから人形じゃねーって!」
「お嬢様、カツラギエース様、目的地に着きました」
そうこうしている内に待ち合わせ場所に着いたらしい。
時間は……トレーナーさんと約束した時間丁度、車の中から待ち合わせ場所を確認すると、既にトレーナーさんが来ていた。
「とりあえず、今日はあんがとなラモーヌ!お礼に菓子作ってやっから今のうちに何食いたいか決めておけ!」
あたしはラモーヌと、運転手の人にお礼を言って車を飛び出し、トレーナーさんの元へ駆け寄った。
トレーナーさんはあたしの姿を見て「お姫様みたいだ」と言ってくれて、その日はいつにも増して気を遣われたり、エスコートが多かったり…何と言うか紳士的で、本当にお姫様みたいになった気分だった。
ちょっと…いやかなり恥ずかしかったけど、こんな日もあっていいかもなと、思うあたしであった。
おまけ
エースが去った後、ラモーヌは車内から顔を真っ赤にして照れるエースを見て満足し、運転手に指示を出して車を出させる。
「お礼、ね、私が付き合わせただけなのに、律儀な娘だこと」
「良きご学友をお持ちになりましたね、お嬢様」
「……貴方にはそう見えたのかしら?」
「ええ、お嬢様からもカツラギエース様からもそんな雰囲気を感じましたが、違いましたか?」
「………」
メジロの名のせいか、自分の性格のせいか、殆どのウマ娘は寄りつこうとしない中、エースは気軽に話しかけてきてくれる。
今日だって自分が勝手に連れ出して自分好みの格好をさせたのに、文句を言いながらもお礼を言ってくれた。
きっとそれは、エースが自分を友と見てくれているからなのかとラモーヌは気付き、自然と頬が緩む。
「いいえ、間違ってないわ」
そう言ってラモーヌは車の窓を開け、車内に流れ込む風で少し熱った顔を涼める。
「彼女からのお礼、ケーキでも頼もうかしら、今から紅茶を選んでおきましょう」
そして、エースのように自分と交流してくれるあのクラスメイト達を誘ってお茶会でも開こうかと、ラモーヌは今から胸を躍らせるのだった。
終わり