安易なハッピーエンド

安易なハッピーエンド




クックックッ……来ていただけると信じていましたよ、先生。

ええ、手短に済ませたいのは山々なのですが───こればかりは順序立てて話すべきかと。

なので先生、少々お時間頂くことになりますが───よろしいですね?


さて、初めに一つ質問をしましょう……どうしてこの状況になるまで気づかなかったのですか?

ああ、そのような顔をしないで下さい。クックックッ……責めるつもりではなく、単なる問題提起です。

小鳥遊ホシノの件で私と対立し、エデン条約とアリウスの件でマダムを破り……果てには色彩の嚮導者すらも上回ってみせた貴方が「砂糖」の蔓延に対して今に至るまで一切気づくことが出来なかった。

……実に不自然な話です。

砂糖についてもです。

原料はいくらでもあるアビドス砂漠の砂であり……加熱や冷却という実に簡単な方法でいとも容易く人の心を変質させる代物となる。

故に、これほどまでに簡単にキヴォトス中に広がり───もはや手遅れと言っていいでしょう。


……あまりにも不自然な話だと思いませんか?

まるで、本来あるべきストーリーを捻じ曲げたかのように───歪で都合の良い話です。


ええ━━結論から言いましょう。

この状況を引き起こした黒幕がいます。

クックックッ……私じゃないですよ?


……異常に気づいたのはつい先日のことでした。

以前まで観測されていなかった莫大なエネルギーの反応が───アビドス砂漠に現れました。

そのため過去のデータと照合し詳しく調査しようとしたのですが……どういうわけかアビドス砂漠に関する過去のデータが書き変わっていたのです。

そして同時期にキヴォトス中への砂糖の蔓延が発覚しました。

それまでもブラックマーケットなどの動きは観測していましたが……突如として完成された砂糖の流通ルートが現れたのです。

クックックッ……実におかしな話ですね?


ここからは仮説になりますが……おそらく黒幕は、キヴォトスそのものを変質させたのでしょう。

過去を捻じ曲げ、記憶を捻じ曲げ……現在が歪な形で変質させられました。

キヴォトスの外部の存在である我々ゲマトリアや先生はその影響を受けていません。

それ故に……先生は今までこの事態に気づくことが出来なかった。そもそも「砂糖」なんてものは少し前まで存在すらしていなかったのですから。


この仮説を真とするならば、の話ですが。

黒幕を撃滅することが出来たのなら……全てを元通りにすることが出来るのではないでしょうか?


クックックッ……ええ、私らしくもない希望的観測です。

ですが───賭けてみる価値はあると思いますよ?

現在、マエストロを呼び戻して詳しい調査をしてもらっています。

調査結果が出れば……先生、貴方にも伝えましょう。

ええ、我々は───先生と協力する用意ができています。


クックックッ……理由ですか?簡単な話です。

これを言うと貴方は気を悪くするかもしれませんが───小鳥遊ホシノは、キヴォトスにおいて非常に大きな価値を持ちます。

その小鳥遊ホシノが現在、己の価値を貶めるような行為をしています。

このまま砂糖を摂取し続ければ……彼女にどんな変化が起こるか未知数です。

その変化を観測するというのも興味がないわけではありませんが……それ以上に、私の研究対象に勝手に手をつけられることはなかなか不愉快なのですよ。


クックックッ……それだけではありませんよ?

先生───我々は互いに競い合える存在です。

これから先、どれほどの探求が出来るか……非常に興味があります。

そのためには先生───貴方には「先生」でいてもらわなくてはなりません。

全ての生徒を救うことができずビターエンドで終わることを───「先生」は納得しないでしょう?


クックックッ……話が長くなりましたね。

では、改めて問いましょう。

先生……我々と手を組みませんか?





……ええ、貴方ならばそう言うと思っていました。

クックックッ、それでは先生───反撃開始といきましょう。

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