学生と社会人の間

学生と社会人の間


ユウコと別れた後、アサは崩壊した校舎の前にいた。瓦礫の中に強強剣の破片が落ちており、それを見たアサは切ない気持ちになる。

だが今最も気になっているのは、アサを妹と呼んだ謎の少女。ヨルの知り合いかも知れないと思い、アサは尋ねてみたが、心当たりはないらしい。

(あの時…頭打って思い出せないけど…アイツが何かしたら……ユウコが生き返って大きくなった)

沈思するアサが歩き出そうとした矢先、目の前には件の少女が立っていた。彼女の他に3名の男子がその場にいて、彼等はデビルハンター部の面々だった。

部長兼生徒会長の伊勢海ハルカが、部の現状について話す。二日前の事件により、一人死亡一人退部。彼は部員の亜国からアサの奮戦を聞き、彼女に声をかけてきたのだ。

「待たせてすまなかった…我が部への入部、謹んで受理させてもらおう。何か質問はあるかい?」

「デビルハンター部は電ノコ男を追っていると聞いたが、何か知っているか?」

交代したヨルが尋ねると、ハルカは興味深そうにヨルの顔を見た。

「君も電ノコ男に興味があるのか…!」

電ノコ男の行方については、ハルカも突き止めていないらしい。答えを聞いたヨルの中で、ハルカに対する興味が失せた。相手にそれを悟られないよう、型通りの対応をしてハルカ達と別れた。

デビルハンター部と別れると、ヨルはアサに制服強強剣より強い武器を作るように命令する。アサは最強の武器を作る事を了承し、命令したヨルは拍子抜けした。

「だって……早くヨルには消えてほしいから。私の中にヨルがいる限り……私だけじゃない、周りの人も不幸になる……」

アサはヨルに出会ってからの事を振り返り、ヨルとは一刻も早く縁を切らねば不味いと思い始めていた。ヨルの存在は自分だけではなく、他人まで最悪にしてしまう。

「だからその為なら…人を武器にするのだって…」

ひとまず入部を果たしたアサは、東京本部の建物へ向かった。広々としたエントランスで職員に声をかけられたアサは、アキと呼ばれた職員の所在について尋ねた。

「ど…どうしても、直接お礼が…言いたいんです…」

「う〜ん…そう言われてもねえ」

慣れない事を強いられているアサは、逃げ出したい衝動に襲われる。幸い、声を掛けたのは親切な職員だったらしい。彼はアサを応接スペースに通すと、アキの所在を探すと請け負ってくれた。

手持ち無沙汰になり、本でも持って来れば良かったと後悔するアサだったが、彼女にはヨルがついている。周囲の職員に聞かれないように注意しながら、アサはヨルに話しかける。

「あのさ…人って言っても、普通の人じゃなくて、犯罪者とかそういう死んでいい人間を武器にしようと…思ってる……」

「それは駄目だ」

アサの提案を、ヨルはすげなく却下した。強強剣の例を鑑みるに、強い武器を作るには強い罪悪感がいる。死んでもいい、とアサが妥協している時点で犯罪者は強い武器にならない。

ヨルは人間以外を武器にする事を提案した。母親からもらった制服以上に大切な品なら、更に強力な武器になる。しかし形見の制服以上に大切な品が、アサには思いつかない。

「ペットでも飼ってみたらどうだ、猫とか…」

「嫌だ。猫を殺すなら、人を殺す方がマシ」

職員がアキを伴って戻ってきた為、ヨルとの会話を打ち切る。やはり仮面をかぶっており、表情は窺えない。アサは名前と通っている学校を伝えると、たどたどしく助けられたお礼を述べたが、「仕事だからな」とアキは素っ気ない。

「あの…連絡先を教えてください……」

「…ナンパなら年の近いヤツにやった方がいいと思うぞ」

「…!!」

「礼だけ受け取っておく。暗くなる前に帰れ」

アキはそう言うと、応接スペースを出るアサを出入口まで見送ってから仕事に戻った。連絡先は聞けなかったが、名前と高校名は伝えた。一歩前進、と言っていいはずだ。

Report Page