子は自分の分身でなく1人の人間 前

子は自分の分身でなく1人の人間 前



白と話す藍染の足取りは軽い。


朝から不機嫌な平子の後ろについて歩いていると、浦原達12番隊とすれ違う。

平子がひよ里に絡み、怒らせるのはいつものパターン。

違ったのは、ひよ里の顔面攻撃を珍しく躱した平子がバランスを崩して倒れ、なかなか起き上がらなかったこと。

「隊長?」

珍しい事もあると思いながら藍染が顔を覗きこむと、平子は下腹部を押さえていた。

「シンジィィィィィ???」

文句を言おうと近づいたひよ里も平子の異変に気付き、膝をつく。

「ハアァッ?どないやねん!」

お前避けたやん、と叫ぶひよ里に、藍染は落ちついて4番隊を呼ぶよう伝える。

「ッちょォ待っとけ!!」

シンジ見とけやお前ら! 瞬歩を使うひよ里と入れ違いに、白が寄ってきた。

「どうしたのさシーンジィ?しっかり〜水持ってるよ飲める?」

平子の脂汗を懐紙で拭きながら呼びかけ、弱弱しく頷き口を開けた平子の口元に飲み水を差しだす。

支えようとした白は何かに気づき、小声で訪ねた。平子は微かに頷く。

確認した後の白の行動は早かった。

「惣右介、シンジを揺らさないで、急いで部屋に運んで寝かせといてぇ。えーと浦原たいちょ達はみーんな仕事行っちゃって。あたしは人を呼んでくるからぁ」


平子が目を開けた時、目の前にいた見知らぬ女は産婆を名乗った。

そのまま視線を動かすと藍染、4番隊の隊士、白となんとも珍しい組み合わせが並んでいる。

「倒れて意識を無くしたことを覚えていますか?」

平子は記憶を探り、恐る恐る頷く。

「……安静にした方がいいですね。…無理をせず横になって下さい」

「良かった。ありがとうさんです。…先生、イチオー、仕事があるんデス」

「今は安静にしてください。…が大切なら」

女は強い口調で平子の訴えを退ける。

「惣右介、今日はサボりでなく休みや。お前で出来る分は全部やっといてくれ」

「わかりました」

平子は藍染に顔を顰めながら指示を出し、その隣に座っている4番隊隊士と白にも来て貰って悪かった、ありがとうな白、助かったわ、と礼を言う。

「僕はこれで。失礼します」

「いえ。平子隊長、お大事に」

「いいっていいってぇ。無理しちゃダメだよぉ」

各々平子に声を掛け、そのまま部屋を出て行く。平子は女から諸注意を受ける時間だ。


「だいじょぶそうでよかったー」

4番隊隊士と別れた後、藍染は隣を歩く白に声を掛けられる。

「医師を呼んできてくれてありがとう、よく気がついたね久南君」

「妹が産まれる前おかーさんも似た様なことがあったんだ〜。ピンと来たし、産婆サンが連れてこれる範囲にいて良かったよォ」

「淒いな。僕は思いつきもしなかった」

後でピヨ里達にもだいじょぶだって言っとかなきゃ。話しながら藍染は、白と産婆の言葉を思い返す。


『シンジ、お腹に赤ちゃんいるね?』

『流れるほどではないですが、少し出血しているから安静にしてください。痛みがある時は無理をせず横になって』

『安静にしてください。お腹の子が大切なら』


「それにしても男がいるなんて聞いてなかったな〜」

「へえ、平子隊長は自分の話を余りしないんだ?」

「話したいなら聞いたげるけどシンジィとリサはコイバナより下ネタが大好物だしね〜」

「隊長は分かるけど矢胴丸君も…」

「そぉそー。拳西の子じゃ無さそ〜、んー誰なんだろ〜」

「ずばり久南君は誰が父親だと思う?」

「俺がおとーさんです!て3人くらいババンッ!て名乗るとかかな」


週に1度、上司と部下以上でも以下でもない関係を数十年続けてきた。

腹の子の父親は藍染。


「ちこくちこくぅ。ねー拳西に怒られないよねー?」

「僕も行かないと。六車隊長なら分かってくれるよ」

適当に返答した藍染と白は先を急いだ。


仕事をしながら藍染は平子の事を考える。平子真子が腹に宿った藍染惣右介を出産する。

平子の子として産まれ育てられようと、救いを求め、いずれ世界の真実に気づき藍染と同じ道を歩く宿命の子。

その時平子はどんな顔をするのか、隣で見届け息子と共に思いきり笑ってやりたい。


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「平子隊長、藍染です。お休みのところすみません。報告があります」

隊舎に帰ってすぐに平子の部屋へ訪れた。霊圧で気づいているだろうが、藍染副隊長としてマナーを守る。

「噓やん1日しか休んどらんぞ…入ってきぃや」

襖を開けると、平子は布団から起き上がり藍染を出迎えた。まずは上司と部下の時間を。終わった後は情人しての時間へ。

藍染は膝の上に置かれていた平子の手を取る。平子から拒否の言葉は出ない。

そのまま手のひらを膨らんでいない、何度も注いだ腹部へ押し当て、優しく撫でる。

「いるんですね」

「な。明日ジイさんに言うてちったぁ楽な仕事振ってもらおう思とる。その分13番隊に働いてもらお」

「それは志波君も大変だ」

「しゃーない。妊婦も大変ナンデス」

平子の指に自身の指を絡める。

「隊長、僕を愛してくれませんか?」

「こんな事なっといて言うんアレやけど、俺がお前を信用するんは難しいわ」

わかっているだろう、と警戒心がむき出しの平子の眼差しに、意識的に甘い顔をして藍染は微笑む。

「では僕をこの子の父親にしてください」

「……その目と何や企む癖を辞めれるンなら可愛がるくらいなら出来るかもナァ」

「酷いですね、天涯孤独の身の上なのに。ゆっくりでいいです。この子と一緒に僕のこともわかっていってください」

「父親にしてって一緒に暮らすんか? それはお前も俺らをわからなアカン、譲らなアカン事いっぱい出てくるけど?」

「父親としての義務です。果たします」

「…おぅ。腹括りやオトーサン? とりあえず休み合わせて親に挨拶行くで。面白い格好で」

「始まりは上司からでしたって言っていいですか?」

「印象最悪ぅ」

藍染の顔が近づき、平子も顔を寄せると唇が触れ合う。舌を絡め、くちゅ、ちゅぱ、唾液を味わう。唾液の絡む音がいやらしい、気持ちがいい。

舌の絡ませ方を教えたのも、少女のような貧しい肉付きの平子を女にしたのも、全て藍染。

腹部を圧迫しないよう平子の体を閉じ込める。

「泣かないで、一緒に育てましょう」

「……ハァァァ⁇ いやホンマ泣いてへんやろ、どこに目ェ付いとんねん」

「眼鏡を外しているからぼやけているのかもしれません」


愚かな女。気付いていると思いながら何も気づいていない、馬鹿な女。

逆撫の声が聞こえる。危険な男。日常も隣に置き、この子ごとお前を監視してやる。


あほらし、と呆れた笑顔を見せた平子に藍染はよく通る声で笑った。


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・お腹の子は女の子、胸ぐら掴んでお前の家族は俺達や、マタニティブルーになる藍染、タイトル回収も出来なかったので続きます


・白がどうやって産婆連れてきたのとかはスルーして頂けたら

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