妹との出会い
月の出ない闇夜を船から立ち上る赤黒い煙が染めていた。海岸から聞こえる海賊達の怒号に「あいつのせいだ!あいつさえいなけりゃ」「あの悪魔め!」なんて私を責める声が混じっているように思えたが、容赦なく海から放たれる軍艦の砲撃に全てはかき消されていく。
「これからどうしよう」
騒ぎに乗じてこの島とおさらばしたいところだが、海賊達が船を停めているところしか港はない。当然私を乗せてくれる船など海軍本部の護送船くらいなものだから、騒ぎが収まるまではこの辺りで野宿するしかなさそうだ。
「…大丈夫、慣れたものよ」
消された故郷を後にしてこれでもう何個目の島だろうか、指折り思い返してみればすんなり次の島に渡れたことの方が少なかった気がする。だからきっと今回もなんとかなるはずだ。町の人々が私の名前を忘れかけた頃に訪れた海賊の船に乗せてもらえばいい。
港から追っ手を巻きながらこの丘まで逃げてきたから体力はほぼ限界だった。早く寝床を探して身体を休めないと…明日は水と食料の確保しないと流石にそろそろ動けなくなる。頭ではそう分かっていたのに、何故か黒煙を上げて黒い空を照らす火柱から目が離せないでいた。
(…?今、何か)
厚ぼったい雲を切り裂くように巨大な何かが空を横切った。まるで黒煙が実体を持ったかのように真っ黒に燃え盛るその影は島の上空を旋回する。
思わず目が合ってしまった、と思うのは考え過ぎだろうか。“その人”はしばらく戦場を眺めてから何かを探すようにゆっくりと飛行したのち、私の元へと一直線に空から降り立った。
「な、何者?!」
「お前が『オハラの悪魔』か」
「っ!私を捕まえに来たの?」
「警戒しなくていい。おれは海賊だ」
やはりというか飛行能力を持った悪魔の実の能力者だったらしい。蝙蝠のような羽を仕舞って人型になるが、それでも大鷲のものに似た立派な羽と何故か炎を背負った大男は私の顔を覗き込む。……こういう種族をどこかの本で見かけた気もするけど、脳の限界も近いのかうまく思い出せない。
「あの騒ぎはお前が引き起こしたのか?」
「間接的な原因ではあるでしょうね。でも、海軍を呼んだのはおそらく街の人よ」
「なるほどな」
男は私と同じ海の方を向いて隣に腰掛けてた。座っていてもその威圧感は拭えないが、少なくともすぐに私をどうこうするつもりではないようだ。もちろん警戒は解かずに彼の目的を探る。
「私があれを沈めるところでも見に来たの?」
「…政府の息が掛かった新聞の情報を信じるつもりはない」
「そう。賢明ね」
「だが、全てが嘘とも思ってはない。単刀直入に訊く……お前は古代文字を読めるのか?」
「……そうよ、と言ったらあなたはどうするの?」
サウロには迂闊に他人に話すなと言われたけれど、目の前の男が確信を持った目で私を見下ろすので嘘はつけなかった。彼が実は政府側の人間という可能性もあるのに。やっぱり今はうまく頭が働いていないようね。
「この世界を変えないか?おれと一緒に、ある人の下で」
「……私はただ、歴史を知りたいだけよ」
「それでいい。それがおれ達の目的にも役に立つ。安心しろ、海軍にも弱い海賊にもお前を渡しはしない。お前はおれの陰に隠れていればいい」
今日の空と同じ漆黒の手袋を纏った大きな手が私に差し伸べられる。男がどのような表情をしているのかは仮面に隠されて伺えなかったけれど…その瞳の強さに、次の瞬間には私は思わずその手を取っていた。