"女神"と怪物
若くして競走馬を引退した僕は繁殖牝馬になることになった。
どうやら顔も知らない家族がとんでもない良血であるようで、そこまで勝っていない僕もその血を繋ぐために無条件に繁殖入り、と。
『……き、緊張する』
今日は僕の面倒を見てくれている人たちが待ちに待ったハジメテの日だ。
そわそわと落ち着きのない僕を周りが「大丈夫だぞ〜」と諌めてくれてようやく落ち着きを取り戻し、
『……、』
(ピシャーン!!)
顔合わせをした彼を見た瞬間、僕の体にイナズマが走った。
綺麗な青鹿毛に流星。そして何より、…顔がいい。
顔がいい!すごく!!
『え、えっと、あの…』
『…なンだよ』
『は、はじめて、なので、やさしくして、ください…』
うっわ…!めっちゃドキドキする。
まさかハジメテでこんなカッチョイイ牡馬さんに引き合わせてくれるとは…、人も捨てたものではないな!
でも…、
『…あの?』
『…はっ、』
『も、もしかして僕、み、魅力ないですか…?』
『い、いや、ある、あるよ魅力。…ただ、信じられなかっただけだ』
『…?』
そう言う牡馬さんに首を傾げる僕だけど、すぐにノシっと乗っかられたので準備する。
『あー…、俺もハジメテだから、下手だったら、スマン』
……エッッッッ?そのバチバチイケメンフェイスでハジメテとかある????
───────
幼いころから俺は、『醜い』と同族に言われて生きてきた。
あまりの醜さに母も俺を捨てた程だった。
何とか見返してやると思ってもとある奴に負けて永遠の二番手止まり。
ンで引き取られた先で何か変わるかと思えば、やっぱり『醜い』と同族には見向きもされず。
そんな中で、
(…綺麗だ)
俺は、"女神"に出会った。
いや、ソイツも同族ではあるのだが貧弱な俺の語彙ではそう言い表すしかできなくて。
そんな彼女に見惚れながらも『きっと今回も相手にされないだろう』と思っていると、
『は、はじめて、なので、やさしくして、ください…』
……受け入れられてしまった。
は?嘘だろ?と混乱するも目の前の"女神"は準備万端になっているし…、ええいままよ!
『あ、あの、名前はなんと言うんですか!?』
『……俺の?』
『(コクコク!)』
必死に俺の名前を聞いてくる"女神"に震える声で『…スカー』と答えて。
『スカーさん…』
『…怖いか?』
『いいえ、いいえ!お名前も素敵ですね!』
ニコリと朗らかに笑う"女神"に俺が惚れるまで、あと…。
まぁそうは言っても、一目惚れだったンだけど。
***
僕:
元ヒトミミ♂現世界でも稀に見る良血生まれの牝馬。
スカー曰く"女神"みたいに綺麗な馬。
日本に買われてきたあと、2歳戦を走って怪我で引退した。
兄弟姉妹も活躍馬ばかりだがその中でも一番の才覚持ちと言われていた子。
同期牝馬が牝馬黄金時代を築く中、その中心となった彼女たちに完膚なきまでの勝利を叩きつけて勝ち逃げしていった。
引退後はスカーにベタ惚れしており、『こんなカッチョイイ牡馬を「醜い」とか目が節穴か…?』と思ってるし、本馬に言う。
最終的にスカーの本妻になる。
スカー:
海外から種牡馬として買われてきた。現役時は永遠の二番手だった。
同族から見たら『うっっわ、ブサイク!こっち来んな!』な馬だが人間から見たら『うっっわ、スッゲェイケメン!』って感じのウッマ。
それがヒトミミ精神持ちの僕に突き刺さりに突き刺さりベタ惚れされることに。
はじめは僕のベタ惚れ具合にからかってんだろと思っていたが何回会っても『ホントにカッコイイ…!』『貴方の相手が出来て光栄です…』とか言ってくるのに信じるしかなくなった。
後に僕を正妻としつつ、血統を塗り替える大種牡馬となる。
僕がベタ惚れする以上に僕に惚れ込んでいるウッマ。
実は現役時代にずっと彼の前を走っていた一番の馬は僕の全兄であったりする。