女ではなく戦士として生きたビマネキの話
これは史実には記されていない話だが、英雄ビーマセーナが生前、妻との間にもうけた子らは皆マントラを使い妻達が孕み産んだ生命であった。
ビーマを愛し、ビーマの愛に応えてくれた妻達がその身に宿した愛と奇跡の結晶。ビーマにとって、己が産んだ子ではなくとも、妻との間に産まれた子供達はみな愛おしい我が子だった。本心だ。本当に、心からそう思っていたのだ。
しかし、人というものは強欲で、心というものは多面的だ。
───私も、彼女たちのように、子を腹に宿せたならば。
それは、戦乱の世では叶わないものだった。
身重であれば戦い方は限られる。万が一、戦闘中に産気づいてしまえば取り返しもつかない。
なにより、ビーマのそんな内心を知れば、優しく正しい兄弟達はビーマを守ろうとするだろう。愛する妻達は戦いへ赴くビーマを引き止めるだろう。
それは嫌だ、とビーマは思った。
ビーマがビーマたる所以はその身体にある。風神を父とし、戦いにおいて無類の強さを持つ己が体躯と膂力をビーマは誇りに思っていた。自分はこの身であるからこそ、守りたいものを守ることができる。
兄弟を、妻を、か弱き民草を護り、闘うために。
この願いは、『俺』には縁のないモノだった。
そうして、英雄ビーマは「そういうものだ。」と納得した。
愛する妻を、愛しき民草を守るためビーマは戦場を駆け抜けた。
ビーマがその腹に子を宿すことは、生涯なかった。