失態と疾走

失態と疾走


───泣き叫べ、蹴り飛鳥 


「うぉっ!?」

「……ッ!」


 とある貴族……”朽木家”大屋敷の門前。

 その門を開こうとしていた白い軍服の男……そして、横を通り過ぎるように少女が現れる。


 

 瞬間───遅れて突風が吹き、男の髪と服が激しく揺れた。



……男は驚愕に目を見開きながら振り返り、こちらを睨む彼女を見る。

 濡れたような艶のある黒い髪をなびかせる、華奢で小柄な体躯をした少女だ。


 しかし、その可愛らしい容姿とは似合わない無骨で威圧感すら感じる靴……否、義足を中心に霊圧が溢れ出ており、今にも爆発寸前なようにも見えた。


「危ないな!『人の頭をボールにしちゃいけません』と習わなかったのか!」

「……そういう貴方は『人を殺してはいけません』って習わなかったようね」

「ふははっ、違いない!これは一本取られたな!!」


 突然現れた少女に対して男が声を上げれば、彼女はそう冷たく言い放つ。

 彼女の言葉に、豪快に笑いながら首を横に振った。

 そんな彼の態度を見てか、少女の瞳孔が小さくなり殺気が増す。

 無論、男の反応が理由………いや、それも少しあるかもしれないが違う。


「(確実に頭をぶち抜くつもりだった、でもなんでか距離を見誤って通り過ぎちゃった………”今までそんなミスをしなかったのに”)」


 不可解な自身の失態に、彼女の思考が深く入り込んでしまう。

……敵を目の前にしておきながら。


「考えことか?───つれないな!」

「!」


 首を横に振る仕草を見せつけ……そこから電光石火のごとく腰のホルスターからリボルバー拳銃──恐らく零子兵装であるソレを抜き、正確に少女へ向けて全弾発砲する。

 隙を見せていた彼女がその対応に一瞬遅れ───


「───はははっ!この距離で避けるか!!」


 放たれた凶弾全てを避けては、男のもとへと飛びこんだ。

 尸魂界にて最速の斬魄刀を持つ彼女にとって、幾ら滅却師の弾丸であろうと、


「───ええ、止まって見えるわね」


 あまりにも、遅すぎた。

 少女は男の懐へと入り込み、懇親の回転蹴りを叩き込もうとし、


「残念」


 それも本能的に行なった彼のバッグステップにより、擦れ擦れで回避される。

 この数瞬の後で蹴りによる衝撃波が発生するだろうが、最初から展開してたであろう静脈血装で完全に防がれてしまうだろう。


「……そうかしら?」


 だがそれも、当たらなかった場合の話だ。


「な、───ゔぼぁっ!!?」


────足から霊力を急噴射。

 先ほどまでの回転していた軌道とは垂直に、円から径方向へと飛び出るように、義足が彼の胴体へ深くめり込む。


 肺から空気ごと漏れ出たような悲鳴をあげながら、彼は門と真正面の家屋へと“盛大にお邪魔《ダイナミックエントリー》”するように吹き飛ぶ。


「……貴方の能力、よく分からないけど、その様子じゃ連発は難しいようね」


 蹴りを放った体勢のまま呟く少女……警戒は、解かない。


 土煙をあげる半壊した家屋から、よろよろとだから確かに立ち上がる人影。

 煙から出てきた男は痛そうに腹を抑えてはいるが、未だに健在のようであった。


「ぐ、ぅお"っ……流石に…、流石に3回連続は…外さんか……ふはっ、強い、なぁ…!」

「………」


「……君、名は?」

「は?」

「“名前は”と、聞いている、んだ。

……あぁ、否、東では、どうやら自ら名乗るらしいなぁ…!」


 痛みに耐えながらも笑みを浮かべる男へ彼女は眉根を寄せる。

 彼はそんな少女に意を返さず、堂々と、声高く、思いっきり叫ぶように、自らを口にした。


「私は“よく分からない”のアニマー・ミー!

 聖文字“Φ”を受け取った者であり……君を殺す者の名だ!!!」


 先ほどの拳銃を少女へ向け、片手にはナイフを持って彼──アニマーは名乗りをあげる……かなり大きいダメージに反して強い笑みを浮かべながら


 対する彼女は、男に目を離さぬまま、両足を横に広げ、利き手を前へと出す構えを取る。


「……私は六番隊八席、三椏東風美

 貴方が最期に聞く人の名前よ」


 “確実に此処で仕留める”

 彼女……東風美はその意を込め、己が半身である義足へと力を込めた。



────誰も知らない戦いが、始まる。


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