太陽の髪と月の髪
ロビンとナミ(ほんのり百合)
この海の上の照りつけるような陽射しすら透かすことのできない真っ黒な髪の毛、つやつやとしていて椿油を塗ったような光沢はそれこそ"濡羽色"に相応しい。二年前は肩辺りで切り揃えられた真っすぐな髪の毛は伸び、それでも艶やかさと麗しさは保ったままなのだ。
ずるい。同じ女として自分の髪質の違いを毎晩目の当たりにされる。ベルメールさんがおひさまをいっぱい浴びたような色だと褒めてくれた髪の毛に不満はない。
(……でもやっぱりうらやましい)
色合いはみんなに似合ってると褒められるし、鏡の中を見るとこのビタミンカラーに不思議と元気をもらえる。自分は可愛いとわかっていても、タイプの違う美人がちょっと気になるような、そんな何気ない視線に引き寄せられ方だ。
毎日同じ寝台で眠っていて、女同士だからこれくらい構わない。ある晩、そう思って彼女の髪の毛をゆっくり撫でていると徐にロビンが寝返りを打った。
「ナミ」
「どうしたの?」
「ふふ、順番よ。今度は髪の毛触らせてちょうだい」
「……いいけど」
ずっと触ってみたかったの。何度かお互いに髪型をセットすることはあったので、ベッドでの中のことを言っているのだろう。どうやら彼女の髪の毛は癖がなさすぎて、中々ボリュームがでないらしい。髪色もすてきね、なんて口説き文句とともに髪の毛に頬擦りされてちょっとだけ指先が強張った。
太陽みたい。その台詞にちくんと心臓が針で刺されたような微かな痛みをかんじた。わたしはずっとロビンの髪の毛を真夜中みたいな、月みたいに神秘的みたいなものだと思っていた。だから、知らず知らずのうちに心が通い合っていたようでその偶然に急に胸が熱くなった。嗚呼、引き寄せられた視線が絡み合っちゃった。
「そろそろ寝るわ」
「あ、明日はわたしの番だからね!」
ロビンは一瞬目を丸くして、まるで愛おしいものでもみるように目を細めた。
もう解けそうにないわ。そんなことを思いながらわたしたちはおやすみなさいと囁いた。