天夜叉シリーズ その965 『囚人』(CP注意)

天夜叉シリーズ その965 『囚人』(CP注意)


 舞台は情熱の国ドレスローザ王国、その王宮地下。日は落ちて次第に暗闇がじわりじわりと広がってゆく。こうして一日の終わりを感じることが出来るのは天井付近に設置された小さな採光窓があるからだ。そうでなければここは昼も夜もない永遠の暗黒となっていただろう。

「よォ調子はどうだ?いい加減体は動きそうか?」

 扉を開け、人を食ったような笑みでニヤニヤと近づいてきた男はベッド横のソファにドサッと腰を下ろす。

「.........」

 反応は示さない。何をしても相手を喜ばせるだけだからだ。

「フッフッフ!また無視かよ!つれねェじゃねェか”金砂”殿!!」

 何とでも言うがいいさ。てめェの為に動かしてやる砂は一粒たりともありゃしねェ。分かったらとっとと出て行きやがれ。

「まァそうつんけんするな。お前が好きそうな果物持って来てやったんだぜ?ジュースにすりゃ飲めるだろう?」

 ...どんな果物かは知らねェが今この瞬間から嫌いになった。


「よし飲んだな。んじゃ服とっ替えるぞ。抵抗すんなよ」

 糸で拘束して無理矢理飲ませておいて何を言うのか。こんな生活何年も送ってりゃもうとっくに抵抗する気も失せてる。さっさとやってさっさとそのツラ消しやがれ。


「あーあ、サラサラサラサラと勿体ねェな。そんなに体崩してっと益々身長が縮むぜ?」

 男はそう言ったかと思うと水差しをひっくり返し、目前の体にぶちまけた。

「これで固まったな。さて続きやるか」

 手錠もなく、足枷もなく、ただ肉塊と化した肢体が広げられるばかり。自力で動かすことも叶わない身体では縛らずとも逃げ出しはしない。制御の効かない手足が少しずつ砂になって戻らないが、それだけ。そう相手に思われている事が金砂には何よりも屈辱だった。

 ゴソゴソと衣擦れの音が響く。こうして勝手に衣服を脱がされるのももう何度目になるか。しかし唯一、首輪代わりに巻かれている首の包帯だけは触られない。剥がすと逃げるとでも思われているのか。もう首の傷さえ完全に塞がって不要だというのに。

「なァ...おれがお前にここまでする理由...わかんだろ?」

 知るか。

「おれはお前をずっとここに置いておきてェし、お前はそれに抵抗しねェ。つまり合意ってわけだ」

 男は服を脱がし終えても新しい服を着せようとしない。手をゆっくりと肌に触れさせ撫でていく。全身をゆっくりと、ゆっくりと摩られて段々と体が火照ってきた。

「ほら...ここだってイイって言ってるぜ?」

 意志に反して体に裏切られるのも慣れたものだ。金砂は誰一人信用したくないし、していなかったが、流石に自分の体に初めて裏切られた時はショックが隠しきれなかった。心が根元から折れてしまった。

 水に濡れた体ではどうあっても抵抗など出来ない。それを分かっているのかいないのか...。不随になってしまった身体にはもう触覚など殆ど残っちゃいない。しかし表皮は僅かに感覚を捉える。そんな状態で与えられる戯れは快くも何ともない。それなのに、この体は何故か赤く染まり拍動を抑えきれなくなってしまうのだった。



「ねえ、また”あれ”のとこに行ってたんでしょ」

 地上に戻った男を迎えたのはそんな一言だった。

「なんでそこまでするの」

 不満そうな表情で尋ねてくる少女に男は答えた。

「おれが欲しかったからだ」

 かつて大国アラバスタ王国の王の寵愛を欲しいままにし、民衆からも愛された金砂。しかしその実態は王を誑かして国政を思いのままに操らんが為20年間の歳月をかけて国を騙していた稀代のファムファタルだった。そして、そんな金砂に魅せられた男もまた毒牙にかかった哀れな獲物に過ぎないのかもしれない。

 肉塊になり果てた金砂。偽りの”家族”を信じて守ろうとする少女。毒夫に魅せられた男。真にカゴに囚われた蝶は果たして————。

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