或る天使のバッドエンド√
「はぁっ……はぁっ……んっ、くっ……」
まだまだ幼い天使の少女はその純白の翼を使うこともできず、必死になって走り続けている。天使の象徴たる頭上の輪は邪悪な欲に駆られた人間のせいで欠けており、これでは翼に聖気を宿して飛ぶことも力による自衛すらも行えない。
(なんで、こんな目に……)
厄災に見舞われた地へ復興の種を蒔くという役目で、天界から地上に降りてからずっと災難続きだった。
役目を終えて休んでいたら人間によって襲われて、不意をつかれたせいで輪を壊されたことが始まり。その後は自分を捕まえた奴隷商が二度にわたりゴブリンに襲撃を受ける始末。
そして今はなんとか奴隷商から逃げ出して森の中を疾走しているところだった。翼は使えない。誰も頼れない。やがて彼女は我武者羅に走り続け選択を間違えた。
どちらの道に逃げるか、ただそれだけの分岐点を。
「あっ……」
そして森を疾走する彼女は小鬼の軍団に囲まれて――
・・・
「い゙だい゙っっ……やめでっ……むしらないでぇっ……!」
ブチブチブチ純白の翼が穢らしい小鬼共の手で汚されていく。まるで鶏の羽毛でもむしるかのような勢いで何人にも穢されてはならない無垢な翼が羽毛を散らされた。
幸運をもたらすとされる天使の羽がゴミのように洞窟内に散乱していく。
彼等にとってはハーピィの一種だと思っているのだろうか。幼い天使の少女を前に、邪悪なゴブリン共が気圧されるはずもない。
「ひぐっ……」
ゴブリンにとって重要なのはそのメスが自分達の子を宿するかだけ。あとはせいぜい母体として使えるかだろう。
そういう意味ではゴブリン共にとっては幸運なことに天使はとても頑丈だった。むろん彼女にとっては最悪なことでしかないが。
天使は下界の生物と違って言語体系も文化も価値観も何もかも違う種族だが、奇しくもその身体は人に近いものである。
――グヒャヒャ!
数匹に幼い身体を取り押さえられて、ゴブリンの肉棒がぴっちり閉じた女陰に添えられる。無垢な天使である彼女にとって、醜悪なソレは見たことがない代物。
されど本能的なモノが侵入させてはならないと警告していた。
「やめてくださいっ!それだけは、それだけはっ……!」
穢れを知らない天使がこんな穢れきったゴブリン共に蹂躙される。その事実にすでに発狂しそうだったが、天使ゆえの頑強な精神はそれも許してくれない。
「ひっ……ああっっ!」
ビリリッ……と天使の衣が力任せに引き千切られる。これだけでも人間の世界では恐ろしい値段がつくはずだが、ゴブリン共はそんなことを知る由もないだろう。
そしてなだらかな体型をした幼い天使の少女は当然のように処女だが、生憎ゴブリンが膣を慣らしてやるなんていう優しさを持つはずがなかった。
やがて一匹のゴブリンが肉棒を突き立てていく。みしみしみしと肉を引き裂くように天使は泣き叫ぶことしか出来ない。
「やあああっっっ!ひ、ぎぃぃぃぃっっ!」
ぴっちりと閉じている筋を無理やり押し開き、無垢で清純な天使はその純潔をよりによってゴブリンで散らされることとなった。
鮮血が膣内に拡がり激痛に苛まれて泣き喚くがゴブリンは気にしない。言葉なんて通じるはずもないし、天使の言語は彼らにとっては不可解な音にしかならないだろう。
「あっ、ぐぅっっ……い゙あ゙っっ……ゆるじでっ……ゆるじでくだざい゙っ……」
人間達と違う価値観を持つ天使だが、純潔をゴブリンに散らされることへの嫌悪感は他種族よりも遥かに強い。
穢れたモノを嫌う天使にとって、最も穢れた存在であるゴブリンに犯されたとなれば、その天使はもう二度と天に帰ることが許されないほどだ。
(かえ、れないっ……もうかえれない……)
幼くも役目を与えられるほどには優秀だった彼女にとって、ゴブリンに穢された事実は茫然自失とさせるには十分すぎた。
もし仲間達がしれば彼等に報復する時もくるだろう。されど結局彼女は天に帰ることを許されないのだ。
「あ゙っ………………」
そうして幼い天使の絶望など知ることもなく、ゴブリン達は彼女をひたすらに蹂躙していく。
純白の翼は薄汚れ、頭上の輪はさらに欠けた頃には天使の少女はもう一言も言葉を発さなくなった。
・・・
「っっっ!?」
「む、どうしたのじゃ?」
ある夜、悍ましい悪夢を見た天使は滝のように汗をかきながら目を覚ました。隣で眠っていたはずの小さなエルフは、顔を真っ青にした天使の様子に起きて心配してくれている。
「なになに?怖い夢を見た?」
とても怖い夢を見た。ゴブリン達に囲まれて穢され続ける夢を。
天使が肩を震わせながら怯えている理由をエルフはテレパシーで理解してくれたらしい。彼女はしばらく考えつつも、怯えたままの天使を優しく抱き止めた。
「ほれ、大丈夫じゃ……昼間に酷いもんを見たから夢に出ただけじゃろうて」
そのままポンポンと頭を撫でてくれる彼女に天使は目を細めていく。とても心地良い。見た目の歳の頃は自分とそう変わらないはずなのに、このエルフはどうにも自分を安心させてくれる。
「次来たら吹っ飛ばしてやるから安心するといい……」
コクコクと頷いて泣き止んだ天使に、エルフは微笑むとそんな頼もしい言葉を言ってくれた。気が付けば童女のように安心しきり、天使は再び寝息を立てていく。
天使は知らない。その夢が大多数の世界線で自分に起きる未来だったことを。ゴブリンに囚われずとも奴隷としてペットのように扱われたことを。
賽子の神の気紛れに助けられなければ、こんな生活を送れてはいなかっただろう。
そうして今日も今日とてエルフと天使の変わった組み合わせによる日常は続いていく。賽子の神の気が変わるまで。