天を焦がす火、未だ届かず

天を焦がす火、未だ届かず

高ワイvsスコーピオン・バーテックス

本来の歴史であればスコーピオン・バーテックスの毒針によって土居球子と伊予島杏は命を落とす……筈だった。


「…えっ…た、高ワイ…?」「高ワイさんなんで……!?」


だが今その針は高ワイの身体に風穴を空かせる事しかできていない。

ゆっくりと針が抜かれくり抜かれた大きな穴から

ぽたり、と高ワイの腹から血が落ちる、


「ふ…二人…共…ぶ……じ…?」


口からも血を垂らし、高ワイはゆっくり二人に尋ねる


「タマ達は大丈夫だ!だけどお前が…!」


「…な…ら、よかっ…た……」


高ワイは球子の言葉に安心したように微笑みゆっくりと振り返りスコーピオン・バーテックスの下に歩き始める。


「高ワイさん!?な、何をやろうと──」


「二人共…友…奈……とちーちゃん…に伝えて

くれ…ない……かな…」


「あり……がとう……って」


「えっ…」「まさかお前─」


球子が問おうとした瞬間、スコーピオン・バーテックスがその致死の尻尾を振り下ろす──


「天火…俺の全部燃やし尽くして」


『──────』


「うん…ありがとう」


そして三人纏めて潰そうと振り下ろされた尻尾は────高ワイの背中から生えた焔の翼脚が受け止める。


「俺も…時間…ないから…さ……さっさと死ねよ」


そのまま翼脚がスコーピオンを持ち上げ空中に投げ飛ばす。


「…じゃあ…バイバイ」


そう高ワイは短く告げると樹海を蹴り空へ飛ぶ


高ワイはその巨体よりも更に高く飛び上がる その表情は既に生者のものとは思えず 目からは光が失せ口元には狂ったような笑みを浮かべている。

そして

 

「──灼きつくせ」


その呟きと共に 翼脚の炎が激しく燃え盛り爆発的な加速を以てスコーピオンに肉薄する スコーピオンは迎撃しようと尻尾を振り上げるが、それより早く翼脚が胴体に突き刺さり そのまま押し切るかのように地面に叩きつける。


(熱い……けど……まだだ……)


スコーピオンはそれでも諦めず、全身から毒を撒き散らし攻撃するがそれも焔の翼脚によって蒸発していく。

圧倒的、余りにも圧倒的な火力差による蹂躙劇、それは最早勇者などではなく獣と呼ぶに相応しい戦い方だった。


(あと少しだけ……だから……)


そう心の中で呟くと同時に スコーピオンの身体を引き裂いた、その時

空から熱線が降り注ぎスコーピオン諸共地面を焼き払う。


「ッ──!」


高ワイはそれをギリギリで回避したがスコーピオンは直撃を受け跡形もなく消え去る。


高ワイが上を見上げるとそこには巨大な鏡が表面だけ出ていた。


「天の…神ぃ…!」


本能が、身体に残る力が叫ぶそれが己の仇だと。

高ワイは怒りのまま叫びながら再び宙に飛び立つ。

しかしそれを追撃するかのように無数の光線が降り注ぐ。

高ワイはその高い機動力で避け続けるが次第に追い詰められていく。


「……ッ!!」


遂に高ワイが避けきれず肩を撃ち抜かれるが、


それを無視して空に浮かぶ鏡に向かって飛ぶ。


次に足に穴が空くそれでもまだ飛ぶ、


次に心臓に風穴をあけても尚飛ぶ、 


次々身体中を撃ち抜いても尚高ワイは止まらない。


そして遂に────鏡の前に辿り着く。


「このっ……!」


拳を叩きつけようとするがそれよりも速く鏡の中から触手が伸びて高ワイの四肢を掴む。


──祝福をくれてあげましょう私の神子よ


そんな女の声が聞こえると同時に鏡の中に引きずり込まれる。


「あああぁぁっっ!!!」


絶叫を上げながらも必死に抵抗するが、抵抗虚しく引き摺り込まれてしまう。





─────


やがて鏡が完全に消えると高ワイは空に放り出された。

既に意識はなく、力なく落下していく。

このままでは地面に激突してしまうだろう、だがそこに────


「ワイくんっ!!!」


高嶋友奈が一目連を使い全速力で樹海の空を駆け高ワイを抱き留める。

友奈は涙を浮かべながら何度も呼びかけたが反応はない。


「そんな……どうして……こんな事に……」


友奈は涙を流し嗚咽混じりの声を上げその後悔と悲しみの感情が混ざった嘆きが響く。

樹海化が解けた空はその心情を現すように絶え間なく大雨が降っていた。





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