天の川を越える日を
「修ちゃーーん、今日は七夕だよー」
「た?」
「たなばた!」
「たな…?「ばた!」」
「たな…ばた?」
「そう!笹団子食べる日!」
「おだんご…?」
そうなの?というように幼い修兵は周りを見る
「あれ?隊長、教えてないんですか?」
「ああ、織姫と彦星はな…まだ言わないほうがいいかと思ったんだが…」
「おり、ひ…?」
さっきから初めて聞く言葉を咀嚼することに精一杯になっている修兵の頭を撫でて、まあいいかと拳西は七夕にまつわる話を簡単に聞かせた。
「……しゅう、かみさまにごめんなさいしにいく。」
「ん?」
「おりひめさんとひこぼしさん、すきなのにあえないの、かわいそうだもん」
真剣な眼でそんなことを言うから、拳西は修兵を抱きしめてやった。
まだここに来てから1年と経っていない。淋しさには敏感な子だ。
すっかり織姫と彦星に同情してしまったらしい
「そうだな。かわいそうだな。でも織姫と彦星のことは俺たちじゃどうにもできないんだ」
「だめなの?」
「それより修兵、だから今日は、願い事を書く日だぞ。神様が織姫と彦星だけじゃなくて皆の願い事を叶えてくれるかもしれない日でな。短冊っていう紙に書いて笹に飾るんだ」
「はい修ちゃん!短冊いっぱい!いくつでもお願い事書いていいよ!あ、イヅルも◯◯もね!」
「おねがい…」
「なんでもいいぞ?絶対叶うかはわからないけど何を願っても怒られないから」
「………いっしょ、」
「うん?」
「けんせーといっしょ…」
どこか切実な色を滲ませていう修兵に拳西はやはり織姫と彦星の話を馬鹿正直に聞かせるのではなかったかと軽く後悔する。
「心配しなくても、俺とはずっと一緒だ。居なくなったりしないから、他のこと願っていいんだぞ」
「ほか…」
「たとえばだけど修兵くん最近お絵描きが好きだからお絵かきの道具がいっぱいほしいですとかね」
まだ自分のために願いを言うにはとまどう修兵に衞島が助け舟を出した
「おもちゃ…でも…」
不安そうに膝の上から拳西を見上げる修兵に拳西は最近繰り返してることをもう一度言った。
「いいんだよ、遊んでも。子供は遊ぶのが仕事だ。もらえたら沢山楽しいことして遊べよ?」
「そうだよ!白とたっくさん遊ぼ!」
「お前はそんなナリでも一応大人だから、大人の仕事は仕事をすることなんだがな…白」
「えーそんなことどうでもいいから拳西早く修ちゃんと短冊書いてよー、そしたらお団子食べようね修ちゃん、イヅル達はもう書いてるよ」
「…………はぁ。お前に言われると腹立つな」
「けんせー、」
「…、ああ、大丈夫だ。じゃあ短冊書こうな。お絵かきの道具がほしいですでいいのか?」
うん、と頷いた修兵の小さな手を、大きな拳西の手がすっぽりと包んで筆を持ち、短冊に願い事を書いた―――。
―――― 「嘘つき…、書かなくても大丈夫だって言ったのに…。」
やっぱり願っておけばよかったんだ
けんせーとずっと一緒に居られますようにって。
「織姫と彦星はいいなぁ…」
1年に1度、会えるんだから。
100年前、神様から届いたお絵描きセットでその数日後に迫っていた拳西の誕生日に似顔絵を描いた。
割と本格的なお絵描きセットに着いていたいろんな色をうまく使いこなすことなんかできてないけどものだったけれど拳西はとても喜んでくれた。
その1年後の拳西の誕生日にも似顔絵を描いた。1年前よりは少しだけ本物の拳西に色使いができて、1年前に渡した絵を拳西が持ってきてくれて比べて、ほらこんなに上手になった、と言ってありがとうと笑ってくれた。
それから……
それから、数日後には……
「大丈夫です神様。俺は仕事をサボったりしないから、」
だからいつか、意地悪をやめて、
いつかは―――。