大阪〈血〉戦 前編

大阪〈血〉戦 前編


「あれ、お兄ちゃんじゃんw元気してた?ww」


2018年12月24日。五条悟と宿儺の戦いが終幕した頃───

彼、虎杖悠仁は大阪結界にて羂索とは別行動で泳者狩りを行っていた。

「5点が追加されました」「5点が追加されました」「5点が追加されました」

宿儺の術式を得た彼にとって、いかに生き残った強者といえど赤子同然。

既に所持している点は200点を悠に超え、大阪結界はほとんど無人状態。後始末をしてさっさと次の結界に移動しようか、そう考えていた時───


「裕二、そこから三人分の呪力が離れた。おそらく狙いは私だろうが、しかし離れた人間の中に腸相が混ざっている。まぁ可能性は薄いだろうけどね。あー、こっち側に...は?一人?まぁとにかく腸相は来てないからしばらくしたら君のところに来ると思うよ。」

羂索からの連絡が入った。予期してはいたが、ここでの奇襲か。

腸相ならば一度戦ったことがあるからわかるが、術式を得た今、彼の強さは警戒に値しない。

ただ、強いて言うのならば...いや、杞憂か。

「応、ありがとな、ママ!」

「まぁ、間違ってはいないが、流石の私もちょっと...とにかく今は戦闘に忙しいんだ。いや、忙しかったんだ。今終わったから向かおうか?」

「いやいいよ、どうせ雑魚だろ?それに息子殺しとかさせたくないし」

「君こそ兄殺しだろう」「バーカ、そんな細かいこと言わないの!」

通話を切り、笑みを浮かべる。どうやら来客のようだ。


亜音速を超える速度でやってくる血液。それを無意識に「切り裂いて」防御する。


「あれ、お兄ちゃんじゃんw元気してた?ww」

「お前こそな。クソ弟が。」



腸相は会話すらもせずに虎杖に猛攻を仕掛ける。渋谷での攻撃と比べると、明らかにその質が変わっていることに虎杖は気がつく。

戦闘経験の差、か。

彼の攻撃の威力自体に大きな差はない。呪力出力にもだ。

しかし精度と、なぜか呪力量において、今までとはまるで次元が違った。


彼の周りには常に大量の血液が張り巡らされていて、虎杖がお遊び程度に放った斬撃もそれに弾かれる。

また、彼ら二人の周りにも血液のフィールドが作られ、そのフィールドから一歩間違えれば致命傷になり得る攻撃が絶え間なく放たれる。

彼自身も身体を最大限強化しており、その身体能力は以前の虎杖に迫るレベルである。

百斂の隙もない。圧倒的に腸相が有利なフィールドで、しかも驚異的な身体能力をもって襲いかかってくるというのだから...


「強くなったね、お兄ちゃん(笑)。術式無しじゃあとっくに殺られてたよ。」


虎杖も当然、自身の術式を研磨して進化を遂げていた。

彼は、術式のフルオート化に成功していた。

「フルオート起動中、一定の距離以上に対しては解を放たない」

「フルオート起動中、捌を使用しない」

この縛りをもってして、「彼に許可なく一定距離にまで近づいたものを自動的に切り刻む」という反則級の技術を成立させている。


現状、虎杖は本気を出していない。今本気で行くと危険だと本能が告げている。

だから彼は様子見で数発斬撃を放っている。

遠距離から仕留められたらそれでベスト。そうでなくとも攻撃をいなし続けて時間を稼ぎ、あわよくばそのまま仕留める。

「捌」を使う手もあったが、そのためにはフルオート、つまり防御を捨てる必要がある。このフィールドでそれを行うのはあまりにもリスキーすぎる。


虎杖の本能が危険を告げている理由。

それには虎杖自身も薄々気がついていた。

「両面宿儺と離れ、かつ「浴」を経て「魔」に近づいた今、彼の血は有毒である」

まだ運用は完璧ではない。本気で仕留めにかかれば一撃でも食らってしまうかもしれない。その恐怖によって、虎杖悠仁は攻めあぐねていた。


「どうした、来ないのか、愚弟が。降伏すれば一撃で殺してやる」

「お兄ちゃんこそ、それだけなら俺は殺せないよ?」


お互いの勝負は膠着している。いや、実際お互い攻撃はしているのだが全てが防がれている。

手詰まり。このまま我慢比べが始まるのか、そんな時に先に動いたのは───



腸相だった。

(「虎杖」は今、おそらくは全自動であの術式を回している)

(対象は自分が選定したものではない。人間にはそんな反応速度は不可能だ。むしろ逆で、おそらく彼が選定したものだけが斬撃から免れることができるのだろう。)

(だが、流石に空間そのものや気体、そして地形は切っていない。)

(ならばどうするか?)

赤血操術 拡張術式...!!


「血沼」


腸相の血は、他のもののそれよりも水に溶けやすい。

腸相はその特性を渋谷での戦いにて理解し、拡張を試みていた。

自身の術式ならば、容易に血の性質を変換させることができる。

当然何か、例えば土に浸透しやすいようにも。


(俺の血を水のように使用して、それを利用して土を溶かし、血液の泥沼を生成する!だが、いまの虎杖にはこれでさえチャンスは一瞬だろう。寸分の違いなく、穿血を叩き込む!)

虎杖は、一瞬混乱した。斬撃を放った直後の攻撃は最も警戒していたが、まさか地形にまで干渉してくるとは。

(この血を受けるわけには行かない!!!)

虎杖はなんとか一瞬で、地形を切断しようと試みる。だが、それよりも腸相の動きのほうが早かった。

この血でできた泥沼に一瞬で足を取られる。次の瞬間には、その血は全て虎杖の体に突き刺さるように硬化して、確実に毒を流し込んだ。

「グハッ!!!!痛っ...!!!!!!」

(この一瞬は逃さない。確実にこれで決める!!)

腸相はすでに圧縮されている血の塊を複数個用意し、それらを一つに圧縮する。

その威力は、今までの穿血を遥かに凌ぐ...!!!!


赤血操術 出力最大  百斂


「穿血!!!!!!!!!!」


腸相の叫びと共に、手からとても人間の眼では追えないスピードで加圧された血液が解き放たれる。その射線の先には、虎杖の心臓。

0.1秒にも満たない時間。それは正確に、虎杖の心臓を貫いた。


(まだだ。まだ油断をするな。虎杖は反転術式を持っている。この瞬間にも再生をしているだろう。だから今度は確実に全身を潰す!!)

腸相は「超新星」を放つ準備をする。しかし──────────


「兄貴、痛いよ、助けて」


腸相に向けられたのは、今までの悪人顔とも、宿儺との協力が明らかになった瞬間までの善人顔とも違う、苦痛に満ちた顔。

腸相が、一瞬手を止めてしまうのも無理はなかった。


「捌」


瞬間、腸相の体を、蜘蛛の糸のように斬撃が襲った。

腸相はそれを視認することができない。


キンッ


次の瞬間、虎杖悠仁の目に写ったのは─────

一瞬で傷を軽く治癒し、自身に殴りかかってくる腸相の姿。

その腹部からは、何やら呪物がこぼれ出ている。


「ハハッ!そういうことだったのか!」

虎杖は、捌を撃つまでの間に、すでに肉体の傷の治癒を完了している。

虎杖は腸相が穿血を撃ってくることに賭け、一瞬だけ全呪力を心臓に集中させて穿血を不完全ながらしのいでいた。

宿儺譲りの技術を得ていた虎杖にとって、反転術式で傷を治癒することは容易だ。


虎杖が気づいたことは、その呪物が受胎九相図の弟たちのそれだったこと。

そして、それが異常なほどの呪力に変換されていたこと。


「その異常な強さは弟たちの命を燃やすことによって得ていたに過ぎなかったんだな!弟を殺してまで弟を殺しに行くとか、本当に傑作だよww」

腸相の攻撃をかわし、軽く一撃を叩き込む。

斬撃ですでに三枚おろしになっていてもいい頃だが、どうやら反転術式の技術や出力までも強化されていたらしい。



腸相は焦っていた。

先程の一撃で仕留め残った挙句、自身の強さの秘密も割れてしまっていた。

それはつまり、この強さには時間制限があること。

この異常な呪力量も、操作精度も、反転術式もいずれ尽きてしまう。

だから腸相は、先程の一撃に全てを賭けていた。

長期戦に持ち込まれるとこちらが不利になる。だから、ここで決められなかった今、腸相にとって局面は好ましくなかった。


虎杖も、同様に焦っていた。

軽口を叩いていながらも、相手の強さが厄介であることに気がついている。

命を賭した縛りというものは、それだけで異常な強さを発揮する。

しかも、自身の傷は完治しているが毒によりパフォーマンスは低下している。

それの治癒に気を回しながら戦うことはとても不可能だ。

その上、相手はここで決めに来るだろう。時間稼ぎができない今、フルではないパフォーマンスでこいつと殴りあわなくてはいけない。


((当然、やることは一つだろう。))


偶然か必然か、二人がとった手段は、完全にリンクする。



「「領域展開!!!」」



「伏魔御廚子」

「紅焔桀星」



Report Page