大脱出!!

大脱出!!


迫る落下の悪魔から逃げる途中、フミコの身体を動かす戦争の悪魔は一台のバイクに目を止めた。徒歩で逃げるよりは乗り物を使う方が、逃げ切れる可能性は上がるだろう。

しかし、盗難防止のチェーンがかけられている。戦争の悪魔は着ていたブラウスを大振りのナイフに変えるとチェーンの切断を試みた。

「おい、アンタ何してる!?」

持ち主らしい男がチェーンと格闘する戦争の悪魔を見咎める。

近づいた男は愛車に触れている女の、下はカーゴパンツに上はブラジャーという露出度の高い格好に気付くと呆気にとられた。

「持ち主か」

戦争の悪魔は男に近づくと、使う機会がなくカーゴパンツのポケットに忍ばせていたサインペン爆弾を勢いよく男の口腔に突き込み、炸裂させた。

「んぐぅっ…!」

爆弾の威力が足りなかったのか、男は即死しなかった。しかし脳髄にダメージが入ったようで、ぼんやりと身体を揺らしている。

「何するんですか…!」

「緊急事態だ。口を挟むなと言ったぞ…胴体弓矢!」

戦争の悪魔は頭部が爆ぜた男を地面に倒すと、その首をナイフで落として胴体に触れる。男の身体が武器へと変形を始めた。

脊髄は弓に、腱は弦になる。骨と肉から形成された矢と矢筒が腸のベルトによって、フミコの身体に固定された。

「免許持ってないでしょう!?鍵も…」

「能力で動かす」

戦争の悪魔はチェーンをナイフで切断すると、バイクに跨った。

戦争の悪魔がイメージするのは、ランスを手に突撃する重装騎兵。変化させるべきは、馬の役割を果たす槍だ。

「突撃槍バイク!!」

車体が変形し、走行能力を維持したまま、フロント部分に衝撃を集中させる細長い円錐が出現する。

戦争の悪魔は弓を肩に掛けると、バイクを発進させた。ブラウスのナイフは破損したので、死体のそばに捨てていく。

「来た!?」

「来ました」

走り出してすぐ、ミラーに映った影にフミコが気づいた。戦争の悪魔はハンドルから両手を離して振り返ると弓を手にし、続け様に2本、落下の悪魔を狙って矢を射かけた。

「ちっ!当たらん!」

放たれた矢は落下の悪魔を目指して真っ直ぐ飛んでいくが、命中する前に推進力を失って地面に落ちてしまう。いつまでもハンドルから手を離している訳にもいかず、戦争の悪魔は運転に戻った。

「しつこい…」

「嘘…前!戦争さん!」

戦争の悪魔が駆るバイクの前に、ビルが土台ごと落下してきた。落下の悪魔の仕業である。ビルとの衝突を辛うじて回避した戦争の悪魔の前に、芋虫を思わせる奇怪な悪魔が姿を現す。

「邪魔だ!」

戦争の悪魔はバイクを乗り捨て、武器の矢を放ちながら後退。その途中、フミコの意識が奈落へと落下。戦争の悪魔もそれに引き摺られ、フミコの身体は操り糸が切れたように倒れ込む。


「お客様へ暴行を働くのであれば、こちらも然るべき対応を取らざるを得ません…第一、食材が料理人から逃げ切れるわけないでしょう?」

落下の悪魔が降臨する。彼女は三船フミコの身体を整えると、調達した食材と合わせてメインディッシュを完成させた。

「大変お待たせしました…お客様の御手まで煩わせてしまい、重ね重ねお詫び申し上げます」

落下の悪魔は芋虫型の悪魔に深々と頭を下げた。お客様は腹部に開いた大きな口で、皿に乗ったフミコの身体を飲み込んだ。

「いかがですか?安楽から零れ落ち、戦場を彷徨う人間の味は…」

芋虫型の悪魔は、いかにも不味そうに食べた物を吐き出した。吐かれた料理を目の当たりにした落下の悪魔は激昂。特大の衝撃を叩きつけて、お客様を殺害した。

「申し訳ございません…三船フミコを食べさせる事はできませんでした…」

落下の悪魔はその場に現れたキガに頭を下げると、物言わぬ小さな人形となって奪い取った首の傍らに転がった。

「どうやって吐き出させたの?支配」

「あの悪魔の頭を少し支配してね。人間が糞の味になるようにしたの」

キガは後ろに立つナユタに声を掛けた。フミコがどうなろうと興味はないが、キガが隠れて何をやっているのか、ナユタは知りたかった。

問われたキガは、人類滅亡説について口にした。もうすぐ降りてくる最悪の恐怖が人の時代を終わらせた時、悪魔の時代がやってくる。それを阻止したいと彼女は言う。

ナユタとしては、悪魔が現世の覇権を握っても問題はない。デンジはチェンソーマンだし、リンゴには幽霊と血の悪魔が、キリヤには車の悪魔がついている。フユには自分がついていれば、問題なく生きていけるだろう。

一方、キガはなんとしても悪魔の時代が訪れる事を阻止したいらしかった。

「悪魔の時代がくれば…ピザとか…中華料理がなくなるから」

「えっ!?ピザがなくなるの!?

…待って!そんな事になったら、ゲームは!?」

「あるわけない…」

「あぁっ、嫌だああ!!」

人類滅亡説を具現させる恐怖に、戦争の悪魔なら勝てるようになるかもしれないとキガは口にした。

「なんじゃそりゃ!殺そうとしてたくせに!」

キガは顔色を変える事なく、落下の悪魔を差し向けた意図をナユタに話す。戦争の悪魔を飢えさせる事で、己の手駒に加えようとしたのだ。その上でキガは、ナユタに協力を持ちかけてきた。

「デンジ次第かな〜…それによってはお姉ちゃんの邪魔するから」

「チェンソーマンの扱いについて、一つ考えがある」

「何!?デンジをどうする気!?」

チェンソーマンの扱いに関して、キガのプランを聞いたナユタは唸る。

「それ、デンジはなんて言うかな〜?

…ま、この場で答えが出る訳ないし、帰る!その女は…好きにしたら?」

ナユタは去っていった。

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