夢正雪の乱
「先生!お逃げください!我らがあやつを…」
「お前達は逃げよ、事の発端は全て私だ。今の幕府にお前達全てを捕らえる力はあるまい。」
「何をおっしゃるか!正雪先生共に有らんとした我ら!先生を見捨て去ることなど…がぁっ!!」
「っ!!」
奮闘する彼らに無慈悲なる剣撃が襲う。願いも、憎しみもその一切をことごとく切り伏せんとするその剣を私は知っていた。
「やはり…貴殿か。宮本伊織。」
「…正雪。」
宮本伊織。善をなす皇子と共に盈月の儀を勝ち抜き、盈月を手に入れ地獄を作り出さんとした地右衛門を盈月ごと切り伏せた二天一流をおさめた剣豪。
「コイエットの手より逃れていたのか…。」
「…ドロテア殿を喪った彼ら相手なら私一人でも容易い話だ。」
あの日、盈月を手に入れた地右衛門によって江戸城は崩壊した。象徴たる城が崩れたことにより幕府による統治は崩壊し、更なる混迷が世を乱す事はもはや誰の目にも明らかだった。
コイエット家の船より逃れた私はかつての塾生や浪人衆、そして崩壊した統治を立て直すために切り捨てられた者達を集め、討幕を企てた。
「平らかなる世を求めた貴殿が何故…!」
「…あの日貴殿らに敗れた時より、ライダーが言っていたことが頭から離れなかった…。」
私に心より忠誠を誓ってくれた英霊。ライダー…丑午前。彼女は敗れても尚わが願いの為にその身を尽くした…。私が望んだモノとは大きくかけ離れたやり方であった…。しかし…
「…人が人である限り、真なる平等は訪れない。だからと言って私には彼らを見捨てる事はできない!」
我が願いが未来永劫叶わぬモノであったとしても私についてくれた者たちは切り捨てられない。道半ばで斃れた彼らの命に背く事は出来ない。
「ならばせめて…この命を持って彼らを救う。それが修羅に堕ちる道であってもだ。」
「…引く気はないのだな。」
「何を今更。もはや我らは進むしかない。ここで引いてたとしても、往く先など目に見えている。」
力を失いかけているとはいえ、幕府はまだ存在している。この手勢で身を隠しても、打ち倒されるのは時間の問題だ。ならばこそ、乾坤一擲の一撃を打つよりほか、手はない。
「既に勝敗は決した。貴殿を守る者もここにはもういない。ならば潔く…」
「───見くびるなよ、宮本伊織。」
「………っ!!」
爆炎が宮本伊織を襲う。
「油断があったな、魔術師の根城に単身で挑むなど…盈月の儀を勝ち抜いて驕り高ぶったか?」
「くっ…!」
…半分はハッタリだ。一人と言えど、その男は英霊にすら届きうる剣を振るう当世には似合わぬ手練れ。この程度で勝てるなら、この手には既に盈月があるだろう。その証を立てるように彼はさほどの手傷も負わずこちらを見据えている。
「もはや剣で貴殿に勝てるものなど当世には居ないであろう。しかし魔術に関してはこちらの方が上だ。加えて地の利もある。」
「最早言葉は通じぬか…!」
「私は既に"選んでいる"。…貴殿とてそうだろう?その気になれば盈月をその手に出来た筈だ。」
「…見抜いていたか。」
修羅の道に進んで、見えたものもある。選択には必ず斬り捨てねばならぬものがあるという事。それは彼とて同じ。盈月と共に彼もまた何かを斬り捨てている。
「我らの道、交わる事はないだろう…。」
「…貴殿のやり方で救われる者もいるだろう。しかしそれは、また乱世に戻ることに等しい行いだ。江戸の人々も、小笠原様も、カヤも、犠牲になる。それは見過ごせぬ事…否、断じて許すわけにはいかない!」
「なれば答えは一つだ。…宮本伊織。」
「由井正雪…!」
貴殿の願いを、斬り捨てる!
万里一空 宮本伊織
烈士殉名 由井正雪
いざ尋常に───勝負!
夢正雪先生の次回作にご期待ください。